結婚式を翌日に控えた夜、私、水野紗也(みずの さや)は宴会場の中央で最後の照明チェックをしていた。正面の大型スクリーンには、半年かけて描き上げた、天の川の流れる星空が広がっている。ステージに沿って並ぶ12組のフラワーオブジェがゆっくりと花開き、中央に伸びるバージンロードを「10年」と名付けた。19歳で黒崎怜司(くろさき れいじ)に出会ってから、29歳で彼と結婚するまで。ひとつひとつの照明に2人の思い出を重ねてある。アシスタントがインカムを差し出しながら声をかけてきた。「水野さん、新郎様がいらっしゃいました」振り向いた私の目に最初に入ったのは、白いワンピース姿の白川美玲(しらかわ みれい)だった。まだ設営中の会場を、怜司は彼女をかばいながら歩いてくる。運ばれてくる機材がぶつからないよう、ずっと腰の後ろへ手を添えていた。以前は私だけにしてくれた仕草だ。「紗也。明日の結婚式はいったん中止にしよう」怜司は目の前まで来ると、仕事の予定でも伝えるような口調でそう言った。聞き間違いかと思った。式まであと11時間しかない。300人の招待客はすでにホテルに入り、私の両親も遠方から来てくれている。「どうして?」目を赤くした美玲が先に口を開いた。「水野さん、ごめんなさい。父が末期がんなの。お医者様には今月いっぱいもつかどうかって言われていて……どうしても私の花嫁姿が見たいって」そう言って、美玲はメインステージに目を向けた。「怜司が、2人にはこれから先いくらでも機会があるからって」私は怜司を見据えた。「それで?」「明日は美玲に譲ってやってほしい。招待客も進行もそのままでいい。ブランドの特別企画ということにすればいいから、お前には会場を仕切ってもらいたいんだ」私が半年かけて準備した結婚式が、彼にとっては、気軽に人に貸せるものらしい。「ドレスは?」重ねて尋ねると、美玲が声を落とした。「私と水野さん、サイズがあまり変わらないから。怜司がもうウエストを直すように頼んでくれたの」胸の中にわずかに残っていた温もりまで、すっと冷えていった。あのドレスについた1万8000粒のビーズは、母と私が1粒ずつ選んだものだ。黙っている私に、怜司は苛立ったように眉を寄せた。「ただ形式的にやるだけだろ。お前はいつも物分か
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