新学期が始まって、まだ1週間。幼稚園に通う悠が、またけがをして帰ってきた。これで3度目だった。殴られて乳歯が抜け、口に血をためた悠が、弱々しく泣きながら訴えた。「ママ、新しい先生が、殴られたのは僕が悪いからだって。僕のこと、クズって……」怒りに任せて職員室のドアを開けた私は、そこで昔の恋人と親しげに話す修也を見つけた。修也はあざだらけの悠を一瞥すると、とっさにあの女を背後にかばった。そして、取り乱す私を見て眉をひそめた。そして、何でもないことのように言った。「男の子は、殴られなきゃ一人前にならないんだ。何だよ、そのざまは。みっともなく取り乱すな」修也の背後にいる女から、目が離せなかった。全身が冷えきっていく。かつて3年間、私をいじめ続けた女が、長い年月を経て、再び目の前に現れたのだ。……血が凍りついたようだった。悠の手を握りしめる指先まで、冷たくなっていた。3年間私を苦しめ、今も夜中に見る悪夢に現れる女が、笑いながら声をかけてくる。それだけではなかった。ここにいるはずのない修也が、いとおしそうにその女――黒田絢音(くろだ あやね)の手を握っていた。ふいに、握っていた手が離れた。隣にいた悠が、怯えて私の背中に隠れたのだ。涙をためた大きな目を、しきりに瞬かせている。あざのできた小さな手が、おずおずと絢音を指した。「ママ、この人が新しい先生だよ」その指の先で、絢音が挑発するように私を見ていた。頭の中が真っ白になる。昔やけどを負わされた腕が、またうずき始めた気がした。髪をつかまれ、ひざまずかされて犬の鳴きまねをさせられた。口にチョークの粉を詰め込まれ、服を剥ぎ取られて動画を撮られた。あの日々が、目の前によみがえった。何年たっても忘れられない。ライターで肉を焼かれたときの、吐き気を催す焦げた臭いも、骨まで突き刺さるような痛みも。「千尋?やだ、千尋ちゃん。私のこと、忘れちゃった?」反応できずにいる私に、絢音は笑顔のままもう一度呼びかけた。その目には、舌をちらつかせる毒蛇のように、私をもてあそぶ悪意が浮かんでいた。隣の修也が絢音の手を離す。あざだらけの悠を見てから、取り乱したままの私に目を移し、不機嫌そうにまた眉をひそめた。「千尋、何をぼうっとしてるんだ。絢音のことは知ってるだろ」目の前が真っ暗になった。恐怖に胃が縮み、吐き気がこ
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