愛されし者の囚われ「市村さん、覚悟を決めたわ。ハリウッドでやっていく。あなた専属の脚本家として、この月末にはそっちに飛ぶ」
吉永凛音は妊娠検査の結果を握りしめ、撮影現場の隅で電話をかけていた。
寒さが厳しく、彼女は足を踏み鳴らしたが、それでも手足の冷たさは和らがなかった。
電話の向こうからは、低くて心地よい男性の声が響く。「君の才能なら、もっと大きな舞台に立つべきだとずっと思ってたよ。だけど草野のために、この八年間で僕の誘いを九十九回も断ったんだ。今回は本当に彼を置いていけるのか?」
「うん、もう彼はいらない」
凛音は妊娠検査の紙を握りしめながら、苦笑いを浮かべた。