真っ先に耳に残ったのは、作者が語った音にまつわる逸話だ。作品内の楽器の描写は単なる飾りではなく、実際に
音楽家と打ち合わせをして細かな奏法や呼吸を反映させたと聞くと、私の中で台詞や効果音の聞こえ方が変わった。『ちるちるみちる』では、音の余白が人物の心象を補完していて、それを作り込む努力は並大抵ではない。
取材でのエピソードも面白い。作者は一度、ある短いシーンを「音だけで説明する」ために漫画の枠組みを大胆に崩したことがあるそうだ。私はその試みに驚きつつも、視覚メディアの限界を押し広げようとする意志に胸が熱くなった。さらに、スタッフとの共同作業で生まれた偶然の一コマをそのまま残したら、読者の反応が想像以上に深かったという話もあり、創作とは偶然と計算のバランスなんだと改めて思わされた。
こうした裏話を知ると、同時期に発表された作品群、例えば『3月のライオン』と比べて、作り手の視点がどう異なるかを考えるのも楽しい。技術や手法の違いが感情の伝わり方に直結していると感じるからだ。