裏庭が裏ダンジョンでした

裏庭が裏ダンジョンでした

last updateLast Updated : 2026-03-12
By:  まっど↑きみはるUpdated just now
Language: Japanese
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 結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。  裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえられてしまう。  そこで知る憧れの世界の厳しくも残酷な現実とは……?

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Chapter 1

一番てっぺんに! 1

「この結婚式、とんでもない盛り上がりね。聞いた?霧島弁護士の幼馴染がホテルの屋上で自殺騒ぎって!」

ドアの向こうから漏れ聞こえるひそひそ話に、安藤明乃(あんとう あきの)の胸は苦いもので満たされた。

これで秦美優(はた みゆ)の自殺未遂は九十九回目だ。

もう慣れたと思っていた。

でも今日は違う。

今日は彼女と霧島岳(きりしま たける)の結婚式の日なのだ。

美優のこの騒ぎで、また自分が譲歩しなければならないと悟った。

明乃と岳が付き合った五年間、美優はずっと騒ぎ続けてきた。

毎回、岳は真っ先に美優をなだめに行く。

この恋愛の中で、明乃は自分こそ人目を忍ぶ愛人と感じることがあった。

けれど前回、自分を置いて美優のもとへ向かった岳は約束してくれたのだ――あれが最後だと。

彼の「最後」という言葉を信じたからこそ、今日の結婚式を行う。

「死にたければ死なせておけばいい!俺に電話してどうなる?」

明乃がはっと顔を上げると、バルコニーのドアが少し開いていて、岳の低く冷たい声が漏れてきた――

「飛び降り?そんな度胸はあるはずがない!何度自殺騒ぎを起こした?今まで一度でも本当にそうしたことがあったか?」

最後に、岳が声を落として何か指示を出しているのが聞こえたが、あまりに小さくて聞き取れなかった。

岳が電話を切り、振り返った時ちょうど明乃の視線とぶつかった。

明乃の心臓が高鳴る――今回はまさか美優のもとに行かなかった……

ということは、彼は嘘をついていなかった?

本当にあれが最後だったのか?

「そんな顔をしてどうした?もうすぐ式だ、準備はできているか?」岳の顔には何の表情も浮かんでいない。

それでも、明乃は嬉しかった。

彼女は知っていた。岳は生まれつきの失感情症で、他人に共感することができないのだと。

けれど、青春時代の淡い恋心から始まり、今こうして本気の愛を捧げるに至った自分は、ようやく報われたのだと信じていた。

彼女は岳にとって、特別な存在のはずだ。

そうでなければ、どうして彼は結婚を承諾したのだろう?

明乃は花のような笑顔を咲かせて彼の腕を組み、瞳を細めた。「岳、私たちついに結婚するのね……」

岳は相変わらず無表情だった。「ああ、そうだな」

控え室のドアが開く――

「それでは新郎新婦のご入場です」司会者のよく通る声が会場を包み込んだ。

明乃は満面の笑みで岳の腕を組み、ステージへと歩を進めた。

「それではお二人に祝福を――」

言葉が終わらないうちに、岳のスマホが鳴り響いた。

司会者の顔に一瞬気まずさが走り、客席からはどっと笑いが起こる。

明乃の笑顔が凍りついた。この着信音は彼女にとって悪夢そのもの――美優専用の呼び出し音だ。

岳は胸ポケットからスマホを取り出し、応答した。「もしもし、今度はどうした?」

司会者は慌てて場を取り繕おうとした――おそらく長いキャリアの中でも、こんな事態は初めてだ。

だが、彼が口を開くより早く――

「今すぐ行く」

岳はそう言い捨てると、大股で客席の方へと歩き出してしまった。

一瞬にして、会場は騒然となった。

「行かないで……」明乃はウェディングドレスの裾を引きずりながら追いかけ、懇願するように訴えた。「最後だって言ったじゃない」

岳は眉をひそめ、冷徹に利害を計算しているようだった。

数秒後、彼は冷静に説明した。「美優が本当に飛び降りたそうだ。確認しに行かなければならない。君は客の対応をしてくれ。すぐ戻る」

「岳!」明乃は彼の手首を握りしめて離さなかった。「行くなら、私は結婚しないわ!」

岳は冷ややかに彼女の手を振り払った。「後悔するなよ」

明乃は心が粉々に砕ける音を聞いた気がした。涙がぽろりと零れ落ちる。

岳は彼女の涙を見て、胸がわずかに震えたが、これが彼女なりの妥協だと解釈した。

いつものように。

彼女は自分を手放せないのだ。

明乃がどれだけ自分を愛しているか、彼は知っていた。箱入りの令嬢でありながら、実家と対立してまで、天都で彼と共に苦労してきたのだ。

どんな時も、彼女は必ず自分の味方だった。

彼女の最大の願いは、自分と結婚することだったはずだ。

それに、これまで美優が何度も騒ぎを起こしても、明乃はいつも後始末をしてくれた。

だが今回は「結婚しない」とまで言い出した。よほど追い詰められたのだろう。

だが、美優の方は本当に緊急事態だった。

明乃のわがままに付き合っている暇はない。

岳は何か言おうと唇を動かしかけたが、ポケットのスマホが再び振動した。彼は電話に出ると、そのまま外へ駆け出してしまった。

残されたお客さんたちは一斉に顔を見合わせた。

これは……どういうこと?

新郎が逃げた?

混乱する会場で、明乃は涙を拭い、気丈に振る舞った。呆然とする司会者からマイクを受け取る。「皆様、大変申し訳ありませんが、本日の結婚式は中止いたします……」

会場は一気に騒然となった。

だが明乃にはもう、それを気にする余裕などない。

今日を境に、自分は天都で一番の笑い者になるだろう。

誰もが知っている。明乃は岳に心を奪われ、数多のエリートを振り切って貧しい彼を選び、共に苦労を重ねてきた。ようやく幸せな未来を迎えると思った矢先、結婚式当日に捨てられたのだ。

明乃がホテルを出ると、入り口は野次馬でごった返していた。

少し離れた場所で、美優が岳に抱きかかえられてエアマットから降りるところだった。彼女もウェディングドレス姿で、泣き腫らした目を赤くしている。

「岳、どうして私を一人にしたの?一生一緒にいるって約束したじゃないの?」

「ふざけるな」岳は軽く眉をひそめ、相変わらず無表情だった。

美優は彼の顔を両手で包み、漆黒の瞳を覗き込む。「嫌よ!」

明乃はその光景を見て、まず岳が怒るだろうと思った。

彼女もかつて、彼の顔を包み込んで見つめたことがあった。しかし彼は冷たい目で「顔を触られるのは嫌いだ」と言い放ったのだ。

氷のような声、瞳には感情のかけらもなかった。

だが今の岳は抵抗せず、美優が彼の整った顔を弄ぶのを許し、最後には彼女を泣き笑いさせた。

明乃は岳の感情欠落が誰に対しても同じだと思っていた。しかし今、彼が美優を抱えて救急車へ向かう姿を見て、自分がいかに滑稽だったか思い知らされた。

来る日も来る日も待ち続ければ、いつかは岳の冷たい心を温められ、彼が自分を好きになり、あの美しく冷たい瞳が自分への愛情で満たされると信じていた。

しかし現実は――

無慈悲に突きつけられた。

岳にも感情はあるのだ。ただ、それが明乃に向けられたものではなかっただけ。

明乃は笑いながら、涙を流した。

この五年間。

いったい自分は何だったのか?

明乃、あなたは本当に愚かで、滑稽だわ。

この五年はただの長い夢だった。

今、その夢は砕けた。

そろそろ目を覚ます時だ。

明乃は控え室に戻り、ウェディングドレスを脱いで私服に着替えた。

式の混乱による余波はまだ収まらず、明乃が法律事務所に戻ると、賑やかに話していた同僚たちは急に口をつぐんだ。

だが明乃は気にしなかった。元々図太い性格で、学生時代に法学部の秀才である岳を追いかけ回した時から、すでに学内の笑いものだったのだ。

彼女はひたむきな勇気を胸に、一心不乱に突き進んだ。今、ようやく痛い目に遭い、岳が本当に自分を愛していないことを思い知ったのだ。

明乃は自分のデスクに戻り、退職届を印刷して署名し、岳のデスクの上に置いた。

置いた途端、スマホが震え始める。

岳からの電話だ。

「結婚式をキャンセルしたって?どうして事前に相談してくれなかったんだ?法律事務所の評判にどう影響するか考えたことはあるのか?」

「キャンセルしないでどうしようって言うの?」明乃は冷ややかに言い返した。「大勢のお客さんを待たせて、あなたがヒーローごっこから戻ってくるのを待てと?」

岳は数秒間沈黙した。明乃が自分に食ってかかるとは思っていなかったようだ。

二人が付き合い始めた頃から、明乃はいつも明るく彼の周りを賑やかに回り、常に活力に満ち、笑顔を絶やさなかった。

彼に怒りをぶつけることなど一度もなかった。

「俺が悪かった」岳は相変わらず理性的で冷静だ。「配慮が足りなかった」

明乃は自嘲気味に笑った。当時の自分は本当に怖いもの知らずだった。なぜ生まれつき感情を持たない人間が、自分を愛してくれるなどと思ったのだろう?

明乃は机の上の退職届に目をやると、「岳、私の退職……」

言葉を終える前に、受話器から甘えた声が割り込んでくる。「岳、腰が痛いの。早く来てマッサージしてよ」

「今忙しい。また後で」

受話器からの無機質な電子音がすぐに響いている。

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一番てっぺんに! 1
 ムツヤ・バックカントリーは今、外の世界に出て来て早々パンツ一丁にされてしまった。 月明かりに照らされるムツヤ少年の前にはオークが3人。その内1人は人間の美的感覚で見ると美人だ。 拾った本で外の世界の事を勉強していたムツヤは最悪の展開に気付いてしまい、一瞬で血の気が引いてしまう。「あ、あの、オーグさん、ひとつぅー…… いいですか?」「なんだ」 ムツヤは今にも泣きそうな、震えた声でオークへと質問をする。「ご、これから私は、あのー、いわゆる『っく、殺せ』って奴んなるんでしょうか? お、おれ、外の世界で女の子とは、ハーレムしだかったのに、お、オーグに」「何を気持ち悪いことを言っているんだ馬鹿者!!」 女のオークは顔を怒りと恥ずかしさで顔を赤くしてムツヤを怒鳴り散らす。 どうしてこんな状況になってしまったのか、それは少し時間をさかのぼって説明をする事になる。 ムツヤ・バックカントリーはクソ田舎に住んでいる。 生まれも育ちもクソ田舎だ。 田舎と聞いて何を思い浮かべるだろうか。 雄大な自然、のどかな暮らし、どこまでも続く草原。 それを思い浮かべたら間違いなく田舎を勘違いしている。 実際の田舎は気持ちの悪い虫が当たり前のように部屋に現れ、のどかと言えば聞こえは良いが、娯楽も何もない暮らし。 草原は基本的に肥やしを撒いているので臭い。 草原の爽やかな風なんてものは幻想だ。基本的には肥やしの匂いが風と共にやってくる。 遊び場やゲーム等の気の利いた娯楽が無い場所で、子供たちはどの様に遊ぶだろうか。外を駆け巡り冒険をするしか無い。 田舎の子供たちが元気に外を走り回るのも、それしか選択肢が無いからだ。 ムツヤもその田舎少年の例に漏れず、物心が付く前から家の周りを探検していた。 ここまでは田舎のよくある話だろう、そしてここから先が田舎ではよくある話でなくなる。 ムツヤの住む家のすぐ後ろは、世界中の冒険者が求める幻の裏ダンジョンだ。その事はここに住むムツヤですら知らない。 裏ダンジョンの家の前に住む人間の朝は早い、ムツヤの祖父であるタカクは今年で73歳になる。 動きやすさを重視し、ゆったりとしたローブを着て、曲がった腰に手を当てながら玄関のドアを開け一歩一歩ゆっくりと外へ出ていく。 するとそこに全長2メートルはあるコウモリのような化物が上空か
last updateLast Updated : 2025-10-24
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一番てっぺんに! 2
「外の世界は危険だ、お前が行ってもすぐに怪物の餌食になってしまうだろう」 組んでいた腕を崩してタカクは続けて言う。「しかし、あの裏の塔の最上階にまで行けるぐらい力を身につけたらこの結界を解いて外の世界へと行かせてやろう」 その言葉を聞いた日からムツヤは塔の最上階を目指す日々が始まった。 物心が付く前から塔の60階までは冒険をしていたムツヤだったが、そこから先の階段には『触手だらけのキモいし臭いしデカイトカゲ』が居る。 近付きたくなかったので、いつもそこまで行って帰ってを繰り返していた。 それでも塔は毎回入る度に使い道も名前も知らないけど、面白そうな物がたくさん落ちている。 そして、それを試して遊ぶモンスターも充分に居たので、遊ぶだけだったら退屈はしなかった。 ムツヤは塔の外まで来るとカバンから鎧を取り出す。 走る時に邪魔になるので装備はこの便利な肩掛けのカバンにしまってある。 だが、カバンは剣を入れるには少し小さいように見えた。 中身が入っていたとしても全然膨らみが無かったのだが、カバンから取り出されたムツヤの手にはしっかりと鎧が握られている。 仕掛けは簡単で、このカバンは念じながら手を突っ込むと入れておいた物をすぐに取り出せるのだ。 更にいくらでも入るし、食べ物や薬を入れても腐らないのでムツヤの大切な宝物だった。 まぁ、宝物と言ってもこのカバンは年に1度ぐらいは落ちているので家には10個以上予備はあるのだが。 その予備はただ家に置いても仕方がないので、1つはタカクが体調を崩した時にと薬をたくさん入れたカバンを作ってある。 他には多くとった魚やモンスターの肉、食べきれなかった食事も入れておく食料の備蓄用に家に1つと。 もう1つはカバンの口を広げられたままトイレの底に置かれている。こうすると臭わない上に虫も沸かず、肥溜めに持っていく時も楽なのだ。 後はゴミ箱に2つ使い、残りは特に使い道が思い浮かばなかったので家のタンスに入れてある。 このカバンは使い道によっては無限の可能性があるはずだった。 商人であれば、自分の身と馬一頭あれば無数のキャラバン隊を連れる事が出来るようなものだ。 ありとあらゆる物を入れて移動し、売って莫大な富を生み出す事が可能だろう。 戦争で使うのならば、余剰の武器をしまい込み、軍隊の移動中の負担を減らせる
last updateLast Updated : 2025-10-24
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一番てっぺんに! 3
 ムツヤは『割ると辺りのクサイ匂いが消える青い玉』を触手トカゲの消えた場所に投げる。 これは割れた場所を中心として、約半径30メートルの空間に漂うどんな有害物質でも除去できる代物なのだが、普段は使い道が見つからないのでトイレのちり紙の横に山積みにされていた。 大きい方をした後のエチケットだ。 もちろん、これも外の世界で1玉売れば1週間は酒場で豪遊が出来る価値がある。 部屋は快晴の空の下で心地の良い風が吹いたように、爽やかな空気になった。 さっきまでの匂いを嗅いでいたムツヤは普段より余計に清々しく感じている。 ムツヤは知らない事が多い。 触手トカゲの吐き気を催す臭いは、常人であれば一吸いで昏睡状態に。ゆっくり深呼吸すれば次の瞬間にはあの世へ行っている毒ガスだと言うこと。 触手で触られれば痒みを感じるどころか、その部分から細胞の壊死が始まり体が腐り落ちる事を。 それでは、何故ムツヤは平気なのかと言うと、おそらくどんな病気も治す幻の秘薬を小さい頃からジュース代わりにガブガブと飲んでいるからだろう。 長年気持ち悪いと思っていたトカゲが消えて、ムツヤはもっと早く倒しておけば良かったかと思いながらもちょっとした喪失感を感じた。 ヤツが居た場所には鱗が数枚落ちていて、変わった匂いも、触って皮膚がどうこうなる事も無かったので、とりあえずカバンにしまって階段を登り始める。 ここから先は未知の場所なので少しだけ身構えたが、そんなムツヤの心配は杞憂に終わり、どのモンスターも一撃で真っ二つに出来た。というか素手でも倒せるぐらいに弱い。 それから塔の内部の森を抜け、砂漠を抜けてこれまた1時間もしない内におそらく最上階付近まで来た。 そこには開けた広間があり、天井からはガラス製の燭台がいくつも垂れ下がっている。 床にはフカフカの赤い絨毯が広がっている。そして奥の大きな扉の前の豪華な椅子に何者かが座っていた。「あー、やっと登ってきたのね」 突然の声にビックリしてムツヤの視線は釘付けになる、人影だ。 暗闇の中で蝋燭の光を浴び、黄金色に赤みを含ませて照らし出される椅子、そこから誰かが立ち上がるのが見えた。 剣先をそちらに向けたまま姿をよく見てみる。 一歩一歩近付いてくる相手は自分とは違う褐色の肌、長い髪は真っ白。 だが同じ白髪でもじいちゃんとは違う感じだな
last updateLast Updated : 2025-10-24
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一番てっぺんに! 4
「私はね、この扉を……。まぁ言ってしまえばこの塔自体を何千年と守っているの。この先に行きたかったら私と戦って勝たなくちゃいけないわ」 人間ではないといえ、祖父以外で初めて言葉を交わして、胸が変にドキドキする相手と戦いたくない。 剣を構えたままどうすれば良いか答えも出てこないのでムツヤはじっと立っていた。「でもね、私はあなたと戦いたくないのよ、ムツヤ。あと邪神様じゃなくてサズァンって呼んで」 初めて他人に、まぁ、正確には人ではないのだが。 ともかく知らない相手に名前を呼ばれてムツヤは胸が高鳴る。 腰をくねっくねさせながら一歩一歩サズァンはムツヤの元へと歩いてきた。 これが本で読んだ色っぽいという奴なのだろうか、そんな風に冷静に考える自分と、一方で胸の高鳴りで死にそうになる自分がいる。「私はね、あなたが子供の頃からあなたを見守っていたわ。最初はもうビックリしたわよ?」 そう言ってサズァンはクスクスと笑った。「だって、子供がこの塔の中に入ってきちゃうんだもん。しかもそれが危なっかしいけど中々に強くて」 こちらは相手のことを今日初めて知ったというのに、相手からは自分を子供の頃から知っていたと告げられる感覚は実に妙なものだ。「ねぇ、覚えてるかしら? あなたが油断してコカトリスに噛まれちゃって、死にそうになってた時に助けてあげたの私なのよ?」「コカトリス?」 頭をひねってみるがムツヤにはコカトリスが何者かわからない。「あぁ、アレよ。鶏に蛇のしっぽが生えたやつ」 あー、とムツヤは声を出して合点が言ったようだ。 あの『しっぽに毒を持ってて、目を合わせ続けると段々と体が動かなくなる鶏の化物』だ。 ムツヤは外の世界の本に載っているモンスターならば正しい名前を知っているが、それ以外は自分の付けた安直な名前で呼んでいるので無理もない。「確かに一回噛まれた時がありますたね」 今度は敬語を意識しすぎてしまい、語尾を噛んでしまった。「あの時、目の前に解毒薬置いてあげたの私よ。本当はそういうのダメなんだけど」 完全に思い出した。ムツヤは鶏の化物に噛まれて冷や汗が止まらなくなり、体が死ぬほど重くなった時があった。 当時はまだ、何でも入る小さなカバンを持っていなかったので、手持ちに飲むと元気になる青い薬が無い時だ。 そんな時、目の前にガラスが転がる音が
last updateLast Updated : 2025-10-24
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一番てっぺんに! 5
「待って待って待って、本当この子可愛すぎ、どーしよ、年の差なんてまぁうーんいやでもーうー…… やっぱり小さい頃から見てたから情が移っちゃったのかしらね」 さっきまでの気品と神々しさはどこへ言ったのか、サズァンは小声で言いながらくねくねと悶ている。 ふと、独り言をピタリとやめて振り返った。 そのサズァンには気品と妖艶さが戻っている。 そして、聞き分けのない小さい子供を諭すように言う。「いいムツヤ? 私は神で、あなたは人間、しかも私にとってあなたは弟とかそんな感じなの」 そう言われたムツヤはこの世の終わりが来てしまったとそんな顔をしていた。 その後はもう、わかりやすいぐらいに落ち込んだ。 おそらく人生初の恋はすぐに幕を閉じたのであった。「あーそのえーっと、あなたが嫌いってわけじゃ無いわよ? むしろ好きだし、でも私は邪神だしね、それにアナタには外の世界を見て来て欲しいの」 ムツヤは聞いているのか聞いていないのか、口を開けたままアホっ面をしてピクリとも動かない。「わかった、もうわかったから! 外の世界を見て成長なさい。それでハーレムでも作って、色んな女の子を知るの、それでも好きな人間の子が出来なかったらその時はまた戻ってらっしゃい。そうしたらまたもう一回考えてあげる」 ムツヤはその言葉を聞くとコレまたわかりやすくパァッと笑顔を取り戻した。 この時サズァンはムツヤが尻尾を振る可愛い子犬の様に見え、抱きしめて頭を撫で回したい衝動に駆られたがぐっと堪える。「わかりました、サズァン様。俺は外の世界を見て、外の世界で成長すてハーレムを作ります!」「はいはい、わかったわかった。そのペンダントを付けてればたまーにお話もできるから困ったら頼って頂戴ね」 ムツヤはハッと思い出して頭を下げる。これは感謝の気持ちを表す行為らしい。 来た道を戻る途中、一度だけサズァンを振り返ると笑顔でひらひらと手を振り返してくれた。 急いで階段を駆け下りた。 途中またモンスターと出くわしたが剣を取り出すのも面倒だったので全てぶん殴って片付ける。「じいちゃん、てっぺんまで登ってぎだからあの結界って奴を壊しでぐれ!」 ムツヤは家に帰るなり祖父のタカクへと言った。 タカクはお茶を飲みながら目線だけをムツヤに移して、とうとうこの時が来てしまったかと湯呑を置く。「そうか、それ
last updateLast Updated : 2025-10-24
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オークの女 1
 一番先頭にいるオークの、おそらくは女であろう者が、後ろで結ってまとめた栗色の髪を揺らしながらこちらへ近付く。 そして、剣先と殺意をムツヤに向けて質問をする。「異国の者だろうと関係はない。何をしに来た」「あのですねぇー、こっちにさっぎ結界から通っで来だばかりでしてぇ、怒らせだのなら謝るんで許してくださいませんか?」 ムツヤは両手を胸の前で開いて言った。 戸惑っていたし、恐かった。 モンスター相手の戦いであれば慣れたものだが、対人戦は経験がない。 サズァンと戦うことを渋ったのも、サズァンを好いてしまった事の他に、内心では人と戦う恐怖もあったのだ。 オークは互いに目を合わせる。 目の前の人間の言っていることが何一つ理解できない。「とにかくだ、その剣に鎧、上質な物だろう、ただの冒険者ではないな? まずは武器を捨ててこちらに投げろ」 ムツヤは頷くと剣を女オークの元に放り投げた。 地面に落ちたそれらを女オークは自分たちの背後へ蹴飛ばした。豚のようなオークがムツヤに次の命令をする。「次は鎧を脱げ。いや、ナイフでも隠されていたらたまらん、荷物と服も全て地面に置け」 鎧とカバンはまだ良いが、服を脱ぐのは流石に抵抗があった。しかしオーク達は剣と斧を構えて無言の圧力を掛ける。 月明かりに照らされながら外の世界に来て早々ムツヤはパンツ一丁にされてしまった。 サズァンから貰ったペンダントが胸元をひんやりと冷やし、そして最悪の展開に気付いてしまい、一瞬で血の気が引いてしまう。「あ、あの、オーグさん、ひとつぅー…… いいですか?」「なんだ」 ムツヤは今にも泣きそうな、震えた声でオークへと質問をする。「ご、これから私はーあのーいわゆる『っく、殺せ』って奴んなるんでしょうか? お、おれ、外の世界で女の子とは、ハーレムしだかったのに、お、オーグに」「何を気持ち悪いことを言っているんだ馬鹿者!!」 女のオークは顔を怒りと恥ずかしさで顔を赤くしてムツヤを怒鳴り散らす。「貴様もオークは性欲の化物のように思っているのか、我らを愚弄するか、私は今にも貴様を斬り殺したくてたまらない!」 初めて祖父以外に怒られたムツヤはビクビクとしている。 パンツ一丁で。 しかし女のオークがムツヤに近付いた瞬間、ペンダントが光りだし、目の前の空間に褐色の美女であり邪神のサズァ
last updateLast Updated : 2025-10-24
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オークの女 2
 オークの女はしゃがみこんだままの状態でハァハァと乱れた呼吸を整わせてから顔を上げる。 苦しさからか緑色の顔が少し赤みを帯びて、潤んだ目からは涙が滲んでいた。 そして言う。「っく……、殺せ……」「いや、お前が言うんかい!」 ビシッと右手を上げムツヤは人生で初めて見知らぬ他人に、いや、他オークにツッコミを入れる。 そこには静寂と寂しげな風がサーッと流れた。「それってオークが女騎士に言わせるやつだしょ? 何で、何でオークが? それぐらい俺だって知ってるよ? 田舎者だからってなめんじゃねー!」 そう言われた女オークは目をギュッとつぶり、悔しさと怒りの声を絞り出す。「貴様もそうやってオークを偏見の目で見るのだな、誰でも襲う醜い豚と! 性欲の化物と! 貴様の悪趣味に付き合ってなぶり殺しにされるつもりはない、もうこれ以上生きて屈辱は受けぬ!」 ムツヤに背を向けるとオークの女は短剣を自分の喉元に充てがい、一筋の涙を流した。「ヒレー、済まない。私は先に行って待っている。先立つ私を許してくれ」「お、おいちょ、ちょっど待でー!」 オークの女はそのまま覚悟を決めて目をつぶり短剣を自分の元に引き寄せる。 痛みが走らない。 興奮で感覚が麻痺しているのか、それとも痛みなく死ねたのか、肉を切る感触はあったのだが。「ううううういっでええええええええ!!!!!」 大声を聞いて目を開けると短剣は先程の人間の右手を貫いていた。「な、何をしている!?」「それはこっちのセリフだ馬鹿! お前それ死んじゃうべよ! え、なに、それやったら死ぬどかわがらんの!?」 オークの女はうろたえた、目の前の人間が何をしているのか全くわからない。 可能性があるとすれば、なぶり殺す趣味の為ならば、自分の体さえ犠牲にできる狂人なのだろうかと。「間に合わねえから掴んじゃっだけどクソ痛てえええええ! ってか刺さってんじゃん、こんな怪我久しぶりだ、くそー!」 人間は手から短剣を抜き取り、左手で出した光を血が吹き出している右手に当てた。 すると一瞬で男の傷口が塞がっていった、治癒魔法は今まで何度も見たことがあるがここまで見事な物は初めて見る。「傷が一瞬で……!? 何故助けた? 本当にお前は何者なのだ!?」「だーがーらー、俺はもう本当にさっぎごの世界に来だの! あ、俺は『ムツヤ・バックカ
last updateLast Updated : 2025-10-25
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オークの救世主になろう 1
 藁にでもすがりたい思いのモモは目の前の男を信じてみることにした。 妹も仲間もどの道、何らかの手を施さなければ死んでしまうかもしれない。「信じるな! そいつは嘘を付いている! そんな薬が存在しているはずがない!」 声のする方をモモとムツヤは同時に見た。 茂みに殴り飛ばされたオークの一人が顔を抑えながら立ち上がり、モモに警告を入れる。「バラ…… しかしもう何も手が……」 バラと呼ばれたオークの男は脳震盪から回復し、その間は体が動かせなかったが、数分前からぼんやりとした意識はあった。 そして、二人のやり取りを聞いていて思った。自分は一瞬で治せるが他人は治せない魔法だと? 傷が一瞬で治る薬だと? 嘘に決まっている。 そんな輩を村に引き入れるなど正気の沙汰でないと力を振り絞り立ち上がり叫んだ。「どう聞いてもおかしいだろ、その薬なんてはどうせ毒だ!」「いや、違う俺は……」 弁明をしようとしたムツヤをモモが手で軽く制し、その後一歩前へ歩み出て言う。「私はムツヤ殿を信じてみたい。どうせ何もしなければみんな死んでしまうかもしれない。」 バラの言うことも分かる。 しかし、モモは今、僅かな可能性にも賭けたかった。 それ以上に、この男は不思議と信用しても良いと思えたのだ。 その後も何度かお互いに声を荒げて話をし合っていたが、最終的にはバラと呼ばれるオークの男が折れる形でムツヤは村に連れて行かれる事になった。 ムツヤはモモと殴り飛ばしてしまった二人のオーク達に連れられてオークの村にまで来た。 村のオーク達は敵意の目を持ってムツヤを見つめる。「モモ!! どうした、その人間が犯人なのか!?」 武器を手にして睨みを利かすオーク達、30人以上は居るだろうか。 その後ろから騒ぎを聞きつけた一際体格の大きいオークが声を荒げた。 真っ白でボサボサの髪と、それと同じ色の立派なひげを顎下に蓄えている。「いえ、違います村長。この方は薬を分けてくださるそうで」 村長ということはこのオークが一番この村で偉いのだろうかとムツヤは考えていた。「信用ならんな」 倍以上の体格差がある相手にモモは一歩も引かず、毅然とした態度で話を続ける。「ではまず私の身内であるヒレーに薬を与えます。私はこの方、ムツヤ殿にそういった悪意があるとは到底思え
last updateLast Updated : 2025-11-01
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オークの救世主になろう 2
「あーじゃあ俺とじいちゃんの二人しか居なぐでですね、周りは結界で囲まれてたのですよ」「結界で……?」 モモとロースは互いを見つめ合って不思議そうな顔をし、視線をムツヤに戻す。「失礼ですがムツヤ様、住んでいた場所の名前は何というのでしょう、もしかしたら何か分かるかもしれませんので」 村長のロースは至極当然な質問をする。 だが、その質問にはムツヤも困ってしまう。「うーん…… 今まで気にしたことも無かっだし、じいちゃんも『田舎』としか言わなかったから…… そう言えばわからないです。聞いておけば良かった……」 確かに閉じた空間に住んでいるのであれば、そこが世界の全てだから地名なんて物は無いのだろうとモモは察した。「そうですか。いえ、お話を遮ってすみません」 ロース村長はそう言って少し考える。 確かに変に知らない地名が出るよりもその答えの方がしっくりと来る。「そんなある日、俺はこの本を拾いましで。外の世界には冒険者ってのが居で、女の子とハーレムっでの作るんだと思ったらドキドキして眠れなくなっで」「えっ」 ムツヤが急にとんでもない大火炎魔法の爆発級発言をしてモモは固まる。 村長も思考がピタリと止まってしまった。 手に持っている本の表紙には際どい格好をした女のイラストが描かれている。「俺もハーレムを作りたいと思っで、それでじいちゃんにお願いしで外の世界へ出してもらっで、気が付いたらあの森に居たってわけなのですよ」 モモとロースは話を整理するために考えた、ムツヤ殿は結界に住んでいた。 ここまでは、まぁわかる。それでハーレムを作るために外の世界に来たと言っていた。「ちょっと待って下さいムツヤ殿、ムツヤ殿はえーっとその…… ハーレムを作るために冒険の旅へ出たのか?」「そうです!! 話を読むだけでドキドキするのですがら、きっど作っだら凄い楽しいに違いないと思っで」 子供のようなキラキラした笑顔を作って、最低のゲス男みたいな発言をする村の恩人に、自分は何と言えば良いのだろうかとモモは悩んだ。 多分、ムツヤ殿はハーレムというものを勘違いしていると。「ムツヤ様…… そういったハーレムを作る人間も確かに居ることは居るでしょうが…… 夢を壊してしまい申し訳ない、一般的にハーレムなんて作れないし、作らないのです」 モモの代わりにロースが言いにくい事を
last updateLast Updated : 2025-11-02
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オークの救世主になろう 3
「ヒレーこの方はムツヤ殿だ」「ムツヤ様ですか…… 改めまして私はヒレーと申します」「あ、どうもどうも」 ヒレーは可愛らしく両手でスカートを持ち上げてペコリとお辞儀をする。 それに対してムツヤは頭を掻きながら愛想笑いをしていた。「ヒレーも元気になりましたし、遅い時間ですが夕飯をごちそうしたいのですが、いかがでしょうかムツヤ殿」「良いんですか!? ありがとうございます、もうすっかりお腹が減っていたのでありがたいですよ」 促されてムツヤは椅子に座る。 人間にとってはだいぶ大きめの木製椅子だ。モモは別室で鎧を脱ぎ、エプロンに着替えて台所に立つ。「お姉ちゃん、私も手伝うから」「ヒレーは病み上がりなんだ、大人しくしていて大丈夫だ」「もー、ムツヤ様のお薬で本当にもう何ともないってば!!」「わかったわかった、それじゃ皮むきをしていてくれ」 ヒレーに押され、観念したモモだったがその顔は嬉しそうだった。 ムツヤは椅子に座りボーッと台所を眺める。 人に料理を作って貰うなんていつぶりだろう。 じいちゃんが腰悪くなってからは殆ど自分が作ってたし、そういや勢いで外の世界へ来ちゃったけども、じいちゃんはちゃんと生活できてるのかなと心配にもなる。 まぁ、飲むと元気になるっていうか、あのじいちゃんの腰が真っ直ぐになって走り回れる緑の薬をたくさん置いて来たし大丈夫だろうと自分に言い聞かせた。「ムツヤ殿? ムツヤ殿、起きて下さい」 ムツヤはモモに体を揺さぶられて目が冷めた。 いつの間にか寝ていてしまったらしい。 あまりに気持ちよさそうに寝ていたからそのままにしておいてくれたのだという。 頭が段々と冴えてくるとムツヤの目の前にはいい香りのする料理が運ばれてきた。 似たようなものは作ったことがあるがそれよりもずっと美味しそうだ。「お客人が来るとは思わず、普段どおりの食事で申し訳ないのですが……」 モモは少しバツの悪そうに下を向いて言った。 妹を村を救ってくれた客相手にこの様なもてなしが精一杯の自分が恥ずかしい。「いえいえ、美味しそうでずよ。モモさんありがとう、いだだぎます」 皮肉を言われたのではないかと不安になったが、ムツヤ殿はそのような事は言わないだろうとそのまま感謝の意味としてモモは受け取る事にし、笑顔を作る。「どうぞ、お召し上がり
last updateLast Updated : 2025-11-03
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