LOGIN結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。 裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえられてしまう。 そこで知る憧れの世界の厳しくも残酷な現実とは……?
View Moreムツヤ・バックカントリーは今、外の世界に出て来て早々パンツ一丁にされてしまった。
月明かりに照らされるムツヤ少年の前にはオークが3人。その内1人は人間の美的感覚で見ると美人だ。
拾った本で外の世界の事を勉強していたムツヤは最悪の展開に気付いてしまい、一瞬で血の気が引いてしまう。
「あ、あの、オーグさん、ひとつぅー…… いいですか?」
「なんだ」
ムツヤは今にも泣きそうな、震えた声でオークへと質問をする。
「ご、これから私は、あのー、いわゆる『っく、殺せ』って奴んなるんでしょうか? お、おれ、外の世界で女の子とは、ハーレムしだかったのに、お、オーグに」
「何を気持ち悪いことを言っているんだ馬鹿者!!」
女のオークは顔を怒りと恥ずかしさで顔を赤くしてムツヤを怒鳴り散らす。
どうしてこんな状況になってしまったのか、それは少し時間をさかのぼって説明をする事になる。
ムツヤ・バックカントリーはクソ田舎に住んでいる。
生まれも育ちもクソ田舎だ。
田舎と聞いて何を思い浮かべるだろうか。
雄大な自然、のどかな暮らし、どこまでも続く草原。
それを思い浮かべたら間違いなく田舎を勘違いしている。
実際の田舎は気持ちの悪い虫が当たり前のように部屋に現れ、のどかと言えば聞こえは良いが、娯楽も何もない暮らし。
草原は基本的に肥やしを撒いているので臭い。
草原の爽やかな風なんてものは幻想だ。基本的には肥やしの匂いが風と共にやってくる。
遊び場やゲーム等の気の利いた娯楽が無い場所で、子供たちはどの様に遊ぶだろうか。外を駆け巡り冒険をするしか無い。
田舎の子供たちが元気に外を走り回るのも、それしか選択肢が無いからだ。
ムツヤもその田舎少年の例に漏れず、物心が付く前から家の周りを探検していた。
ここまでは田舎のよくある話だろう、そしてここから先が田舎ではよくある話でなくなる。
ムツヤの住む家のすぐ後ろは、世界中の冒険者が求める幻の裏ダンジョンだ。その事はここに住むムツヤですら知らない。
裏ダンジョンの家の前に住む人間の朝は早い、ムツヤの祖父であるタカクは今年で73歳になる。
動きやすさを重視し、ゆったりとしたローブを着て、曲がった腰に手を当てながら玄関のドアを開け一歩一歩ゆっくりと外へ出ていく。
するとそこに全長2メートルはあるコウモリのような化物が上空から3匹タカクへ襲いかかってきた。
タカクは不気味なコウモリを見上げると面倒臭そうに右手を天に上げる。
その瞬間老人のシワシワの手から轟音と閃光が鳴り響き、地上から天へと雷が打ち上げられた。
コウモリ達は即死したらしく地上に落ちると煙と共に消えた。
「じいちゃーん、今日こそ最上階行ってくるからよー!」
そんな光景を見たら一般人どころか、冒険者でさえ何事か、どこかの高名な大魔法使いかと注目するだろう。
しかし、孫のムツヤは一切動じずあっけらかんと玄関から顔を出し、こげ茶色の目で祖父を見ていた。
コバエを叩き潰したぐらいで自慢をする人間も、倒した相手を英雄のように称える人間も少ないだろう。彼らにとって今の行為はそれぐらいの感覚に近い。
「わかったわかった、気を付けて行って来い」
タカクの言葉を聞いているのか聞いていないのか、ムツヤは倍速の魔法を使う。
肩まで伸びた黒髪が全て後ろに逆立つ速さで塔へ走り出した。軽く見積もっても馬の数倍は早い。
ムツヤにとって裏ダンジョンは最高の遊び場だ。塔の中のはずなのに大きな池もあれば、林も、砂漠も、谷もある。
それらが毎回入る度に地形も変わり、誰かが丁寧に置いたかの様に使いみちの分からない道具や武器、それに防具や薬も宝箱も新しいものが落ちていた。
その為、同じモンスターを倒すこと以外は毎日が新鮮だったので、祖父からたまに聞く外の世界にそこまで興味は無かった。
そう、無かったのだが、とある本がムツヤを変えてしまった。
それは冒険者がよりどりみどりの美女達と冒険をしてハーレムを作る小説だ。
ムツヤが生まれてからこの場所には誰も人が来たことがない。
しかし、何故かある日その本が家の前に落ちていたのだ。
文字の読み書きが出来ないムツヤだったが、何故か指に付けていると文字が読めるようになる指輪が腐るほどあったのでそれを付けて本を読んだ。
そして衝撃を受けた。
この外の世界には黒く長い髪で、一見戦闘にしか興味が無いように見えて実は主人公が大好きなことを隠している女と。
金髪を左右で結んで意地悪な事を言いながらも実は主人公が好きで好きでたまらない女が居ること。
そして、見ると胸が高鳴る挿絵、祖父から話には聞いていた『女』とやらの挿絵の笑顔を見ると、ドキドキして夜眠れなくなってしまったこと。
ムツヤは外の世界に出てみたくなった。
そして、そのハーレムというものを作ってみたくなる。
そんなムツヤだったが、この場所と外の世界は『けっかい』とか言う青白く光る壁で隔たれていた。
これがまたやっかいで、剣で斬りつけても弾かれ、触ると電気が走って物凄く痛いのだ。
脚力を魔法で強化して飛び越そうとしても、どこまでもどこまでも空高く壁は続いている。
ムツヤは何度もその壁を壊そうとした。それはもう何度も壊そうとした。
壊そうとして『スゲー爆発が起こる玉』を何度も投げつけた事もある。
100個ぐらい投げつけてもビクともしなかった時はちょっとだけ涙が出た事もあった。
そんなある時にムツヤを見かねてか祖父のタカクが言う。
「どう? 興味湧いちゃったでしょ?」 ルーは両手を後ろに回して、前のめりになる形で顔を突き出した。いつも軽口を叩いているギルスは呆然としている。「他にもモモちゃんが今持っているのは無力化の盾でしょ、それに私の新しい杖も名前はわからないけど魔力の伝導率は90%越えのすぐれものよー」「ちょっと待ってくれ、状況に頭が追いついていない」 ギルスが頭を抱えるのも無理はなかった、今日も適当に武器を売り買いする平凡な日常が始まると思っていたら、とんでもない人物がとんでもない物を持ってきたのだ。「とりあえず、話は聞く」 ギルスはカウンターを出て店のドアの営業中という看板をくるりと回して閉店にし、ガチャリと鍵も掛けた。「えーっと、それで俺はどこから…… 何から話を聞けば良いんだ?」 もう何度目だろうかと思いながらムツヤは自分の生い立ちを話し始めた。「なるほど、事情は分かった」 長話になるだろうと、途中ギルスは紅茶を入れてくれた。 話を聞き終わるとすっかり冷めてしまったミルクと砂糖をたっぷりと入れた紅茶を一口飲んで言う。 ムツヤ達は裏ダンジョンの事、キエーウがそこで手に入る裏の道具を狙っていること全てを話した。「到底信じられない話だが、論より証拠ってか。本物の魔剣や見たこともない魔道具を見せられたら信じるしかないわな」「そこでだ、お前にはこの裏の道具の研究を頼みたい」 アシノの言葉にギルスは首を横に振る。「お断りだ、俺はただの武器屋の店主。研究なんてバカバカしくて出来っこないね」「もー! なんでよー!」 ルーはむくれて地団駄を踏む。次に話し始めたのは意外にもモモだった。「ギルス、頼む。キエーウは裏の道具を使って亜人を殺そうとしている」 真面目にそう言われるとギルスも腕を組んで少し唸ってしまう。そして唐突に口を開く。「それじゃあ…… 俺の昔話もちょっとして良いか?」「俺が昔、王都で研究員をしていた事は知っているかな?」「はい、アシノさんから聞きました」 ムツヤは相づちを打つ、片目を開けてギルスはムツヤを見るとそのまま上を向いて話を続ける。「死ぬほど勉強してやっと入った研究員だったが、現実は俺の理想とは全く違うものだった」「俺はただ、純粋に道具の研究がしたいだけだったが、現実は馬鹿な派閥争いに、足の引っ張り合いだらけだった」 濃いめの
「あ、あの、ムツヤ殿…… 口を開けて頂けますか?」 モモは照れて俯きながら言う、ムツヤは言われた通りに口をあーんと開けた。そこへモモはクッキーを近づけた。「んむんむ、美味しいですね」 裏の道具の探知盤を操作している為に両手が使えないムツヤへ茶菓子を食べさせている。ただそれだけなのに、モモは物凄い気恥ずかしさを感じている。 ムツヤがクッキーを食べ終わると、砂糖を多めに入れた紅茶を口元へ近づけた。「はぁー、紅茶とクッキーって良いですね。モモさんありがとうございます」 ムツヤは満足そうに言った、その笑顔を見てモモはニヤけた笑顔になってしまう。「そ、そうですね」 顔を隠すようにモモも自分の紅茶を飲んだ、フワッとした茶葉の香りが気分を良くさせる。「ヨーリィちゃん、クッキー美味しい?」 真顔でクッキーをサクサク食べているヨーリィを見て思わずユモトは声をかけた。「うん、おいしい。ユモトお姉ちゃん」 首だけをぐるりと横に向けてヨーリィは返事をした。それを見てユモトはアハハと苦笑いする。「そ、そっかー、それと僕は男だからお姉ちゃんはやめてね?」 ルーはいつの間にかシートの上で大の字で寝ていた。アシノはあぐらをかいて紅茶を飲んでいる。 そんな時間がしばらく過ぎた後、そろそろかとアシノは立ち上がり手をパンパンと叩く。「さて、そろそろ気を引き締めていくぞー」「あ、はい! それじゃお片付けしますね」 ユモトはティーセットを集め、カバンの中に洗ってないまま入れても大丈夫なのか心配になったが、中で汚れることはないとムツヤが言うのでそのまま入れてしまう事にした。 またムツヤはルーを背負い直し、ユモトは探知盤を持って冒険者ギルドのあるスーナの街を目指す。 キエーウに襲われるといった心配は杞憂に終わり、あっという間に街へと着いてしまった。活気ある喧騒がムツヤ達を出迎えてくれる。「おら、ルー。いい加減に起きろ」 アシノに頭をペチンと叩かれてルーは目を覚ます。「何よーまだ冒険者ギルドに着いていないじゃない」 アシノははぁーっとため息をついた。「お前は仮にも冒険者ギルドの幹部だろ? もっと威厳を持て!!」「えぇー、ついこの間まで勇者だったのに酒飲みだったアシノがそれ言うー!?」 痛い所を突かれてアシノはうっと言葉に詰まった。「とにかくだ、歩け!!」
朝になりユモトは目が覚めた。若干、寝不足気味だが、時間になるとちゃんと起きてしまう。 居間ではルーが真剣な表情で探知盤を見ていた。あれからずっとそうしていたのかと思うと、ユモトは尊敬と感謝の念を覚える。「おはようございます、ルーさん」「あぁ、おはよーユモトちゃん」 元気そうにウィンクをしたが、その顔には少し疲れが見えた。「あの、ルーさんも少し休まれては?」「私が休んじゃったら探知盤見る人が居なくなっちゃうからねー、ヘーキヘーキ」「そうですね…… すみません」 ユモトは気遣って言った言葉だが、当たり前の事を返されて言葉が出なくなる。「それよりお腹空いちゃった!!! ユモトちゃんごはん頂戴ごはん!!!」 メイド服を着たルーはソファの上でニーソックスを履いた足をバタバタとさせた。「はい、今作りますね」 笑顔でユモトは言った後に朝食の準備に取り掛かる。 やがて、簡単な朝食が出来上がるとユモトは皆を起こして回った。「ンまあーーーい!!! さすがユモトちゃん、絶対私のお嫁さんにするから!!!」 皆が揃う前にルーはガツガツと朝食を食べている。「ですから、僕は男ですって」 半分諦めたような苦笑いでユモトは言った。「ルー殿、一晩中寝ずの番お疲れさまです」「いいのいいの、私は夜の方が元気だから」 モモがねぎらいの言葉を掛けると握ったフォークと一緒に手を振る。「でも私、流石に朝になったら眠くなってきちゃったからギルドまでは誰かおんぶしていってよねー」「お前は子供か」 アシノは呆れたように言った。他愛もない会話をしながら朝食をとる、昨日キエーウというテロリストによる襲撃があったとは思えないほど穏やかな朝だ。 そして朝食を食べ終えると全員が準備を終え、スーナの街のギルドを目指す。「よーししゅっぱーつ!!! それいけムツヤ号!!」「はい!」 ムツヤの背中には本当にルーが乗っかっていた。 裏の道具である『魔法の固定具』でしっかりと密着している上に、ルーはギューッと抱きついているので背中には小柄な体の割には大きな2つの柔らかい感触が感じられる。 デレデレとした表情になるムツヤを見てモモは一言進言した。「あ、あのー? ムツヤ殿? やはりルー殿は従者である私が背負うべきでは?」 しかし、ルーはムツヤにしがみついたままだ。「モモちゃん、
モモはベッドの上に膝を抱えて座り、窓から月明かりを浴びていた。自分が魔法で感情を暴走させた時の事をなんとなく覚えている。 自分はやはりムツヤ殿の事が好きなのだろうか。 いや、命の恩人、村を救ってくれた恩人。強い戦士。そしてオークを偏見の目で見ない人間として考えれば確実に好きなのだろう。 では異性として見た場合はどうなのだろうか。優しく純粋で、強いムツヤ殿。人間の顔は同じに見えるので美醜についてはよくわからないが。 栗色で艶のある髪を指先でクルクルといじる。そして月明かりに照らされた自分の緑色の肌を見た。 自分はオークとして産まれ育ったことを誇りに思っている。力強く、自然を愛し、自然と共に生きるオークという種族も自分の誇りだ。 だが「もしも」と考えてしまう。自分の肌が薄橙色で…… それでムツヤと出会っていたらと。 自分が情けない。戦士として戦わなくてはいけない、もっと強くならなくてはならないというのにこんなくだらない事ばかり考えてしまうことが。 モモはどうしたら良いのかわからない感情を胸に秘めたまま、三角座りの膝に顔を押し付けた。 ユモトはベッドの上でジッとしていた。なんだか寝付けない。 横になるのは何となく好きじゃない、病気で動けなかったあの時を思い出してしまうから。 お父さんには心配をかけまいと一緒にいる時は大丈夫そうに振る舞っていた。 しかし、ユモトはムツヤに薬を飲ませてもらう3日前から父ゴラテが家にいない時には、トイレまで這って行って血を吐く程に症状が重くなっていた。 今でも鮮明に覚えている、目の奥が痛くて頭痛がして、関節は全部痛くて。這いつくばってトイレに血を吐いた時の恐怖と弱い自分への情けなさ。 全ての希望が消えていって、世界が灰色になって……。 そんな世界から僕を突然引っ張り上げてくれたのがムツヤさんだった。 僕にとってムツヤさんは勇者だ。助けてくれたことはもちろんだけど、僕が使えない魔法も触媒無しに軽々と使ってしまい、優しくて仲間思いで、本当に遠い遠い憧れの存在だ。 そんなムツヤさんの仲間でいられることは誇らしく思う。その反面、僕なんかがムツヤさんの仲間としてやっていけるのだろうかという不安がある。 ユモトはシーツを頭の上まで引っ張り上げた。「お兄ちゃん」 ヨーリィとムツヤは向かい合って寝ていた。ムツヤはヨー