翻訳比較を読み返していて気づいたのは、'Ich gehör nur mir'のサビが研究者にとって特に目立つ対象になっている点だ。原語では皇后の自我の確立を強く打ち出す一節が、直訳にすると激しい自己肯定と断絶の響きを持つ。だが研究者は、日本語訳でその決然とした言い切りが柔らかくなり、『自分のものだ』という所有のニュアンスが『自分を取り戻す』『自由を求める』といった願望表現に置き換えられたと指摘している。
この変更は単なる言葉遣いの違いではなく、人物像の読み替えを生む。皇后が自分の存在を堂々と宣言する場面が、内面的な切実さや可憐さにシフトすると、観客が受け取る彼女の行動動機や強さの度合いも変わってしまう。研究者たちは翻訳者の文化的判断が、歌の力動を変えてしまう例としてこのサビを挙げている。僕も何度か歌詞を比較してみて、劇全体の語調が微妙に変わるのを感じた。