Masuk
知恵と豊穣の国、ルシアーナ。数多の学者を輩出しているこの国は、学業と農業が盛んで、男女問わず学び舎に通い、様々なことを学んでいる。学費がずば抜けて安いことから、他国から移住し、勉学に励む者も大勢いる。
四季折々の野菜や果実も安値で手に入り、活気もあるため、世界1恵まれた国と言われている。
そんな恵まれた国の城内で、王妃と娘が、出かける準備をしていた。
「アンナ、忘れ物はない?」
「はい、お母様」
「それじゃあ、行きましょうか」
薄桃色の淡い長髪を美しく束ね上げた王妃のレイスと、同じく薄桃色の髪を持つ愛らしい姫、アンナ。ふたりは今日から、森の奥にある別荘に移る予定だ。
世界1幸せな国と言われるルシアーナだが、王妃は幸せどころか、不幸な女性だ。というのも、彼女の夫であり国王でもあるゲイリー・バーネットは、側室のメリンダばかりを可愛がり、レイスとアンナを蔑ろにするのだ。
はじめは、それほど扱いの差はなかったが、レイスがアンナを産んでから、ゲイリーは冷たくなった。それでも、まだマシな方だった。挨拶を無視される程度だったのだから。
メリンダがエドワードを産むと、ゲイリーはレイスとアンナを蔑むようになったのだ。
「女は王族にいらない」
それがゲイリーの口癖になり、アンナには誕生日プレゼントすら買い与えない。それどころか、膨大な量の勉強を強要し、できないと「こんな不出来は俺の子なんかじゃない」と酷い言葉を浴びせるのだ。
レイスも毎日のように女を産んだことを責められ、メリンダには嫌がらせをされていた。ゲイリーは気に食わなければレイスを殴り、アンナの食事を抜いた。メリンダは顔を合わせる度に嫌味を言い、年齢もひとつしか違わないのに、レイスを年増呼ばわりする。
エドワードもメリンダに似て性格の悪い子で、アンナの髪を引っ張ったり、転ばせたりと、嫌がらせが絶えない。
いくらやめるように言っても、3人は嫌がらせをやめない。それどころか、エスカレートしていくばかりだ。
服やドレスは何着も切り刻まれ、燃やされた。他国の王族との公務の時間をわざと遅く伝えられ、国際問題に発展しかけたこともある。
使用人達も、ゲイリーや側室のメリンダの肩を持ち、洗剤入りの食事を食べさせようとしたり、、洗っていない服をもう一度着させようとしたりと、やりたい放題。
自分ひとりなら耐えられたが、アンナにまで手を出されるのなら、これ以上城にいるわけにもいかなかった。幸いレイスの実家は公爵家で、金も別荘もある。秘密裏に母と連絡を取り、数回に分けて必要な荷物を別荘に運んだ。
今日はピクニックと偽り、別荘に引っ越すのだ。アンナはまだ6歳と幼いため、うっかり誰かに言ってしまう可能性がある。だからアンナも、このことは知らない。
「あ」
あと数段というところまで階段を降りたところで、アンナが立ち止まる。
「どうしたの?」
「忘れ物!」
「もう、だから忘れ物はないか確認したのに。急いで取ってきて。お母様は、先に馬車に乗ってますからね」
「はーい」
アンナは元気よく返事をすると、軽快な足取りで階段を登っていく。
(一刻も早くこの城から出たいけど、焦りは禁物よ)
心の中で自分にそう言い聞かせながら、階段を降りきると、荷物を下ろす。この中には、最低限のお金と宝石。そしてアンナと食べる予定のサンドイッチが入っている。使用人に任せると何を入れられるか分からないので、王妃であるレイスが作ったものだ。
(アンナ、喜んでくれるかしら?)
荷物に触れながら、アンナとの楽しい時間を想像する。城を出たら公爵家の馬車で移動するのだ。
「きゃ!?」
アンナの悲鳴に驚いて振り返ると、我が子が階段から転がり落ちてくるのが目に飛び込んだ。踊り場には、両手を突き出したエドワード。
「アンナ!」
「うぅ……」
アンナはうめき声を上げ、小刻みに震えていた。
「アンナ! 大変……。待ってて、今医務室に運ぶから」
慎重にアンナの体を抱き上げると、たったったっと可愛らしい足音が近づいてくる。
「おばさん、アンナちゃん大丈夫?」
エドワードはニヤニヤ笑いながら、アンナを覗き込む。
「エド、あなたなんてことするの!? アンナを突き落とすなんて!」
「えー、なんのことー? 僕知らないよ?」
できることなら、今すぐこのニヤケ顔を殴ってやりたいが、今はアンナを医務室に運ぶことが最優先事項だ。
「ちょっと、大声聞こえたけど、なんなの?」
「騒がしいと思ったらお前か、レイス。仮にも王妃なんだ、その自覚を持て」
現れたのはエドワードと同じく金髪のメリンダと、夫のゲイリー。ゲイリーは艷やかな黒髪をひとつにまとめている。
「おばさんが僕のことぶったんだ!」
エドワードは赤くなってすらいない頬を押さえながら、嘘泣きを始める。
お茶も終えると、ゲイリーの手を惹かれ、中庭に出る。だが、中庭は真っ暗で、どこに何があるのかよく見えない。甘く優しい香りがすることから、花が咲いていることが分かる程度で、それ以外はよく分からない。「ゲイリー、暗くて見えないわ。光魔法で照らしましょうか」「いいや、ここで魔法を使うのは俺だ」 ゲイリーは詠唱を唱え、指を鳴らす。すると、花々がふたりのまわりから順に、一斉に光りだす。淡く輝く花々は、愛しい人を幻想的に照らした。「すごいわ! こんなに美しい花園、見たことがない……」 辺り一面、光の花。現世のものとは思えない美しさに、レイスは心を奪われ、うっとり眺める。「レイス」 ゲイリーはレイスの名を呼ぶ。その声は少し震えていた。「なにかしら?」「俺達は、政略結婚だったな」「え? えぇ、そうね」 今更結婚のことを持ち出されて、困惑する。レイスはじっとゲイリーを見つめ、次の言葉を待った。「あの頃の俺は酷かった。横柄で、男尊女卑で、考えが古くて。君のことも、下に見ていた。決まりだから仕方なく結婚してやる、感謝しろ。なんて、最低なことを考えていたよ」「えぇ、あの頃のあなたは、酷かったわ」「君は恐れることなく、俺に歯向かってきていたな」 思い出し笑いをするゲイリーに、少し恥ずかしくなる。「当時は、仕方なくと思った。けど、今は違う。君と結婚して、本当に良かったと思っているよ。君のおかげで俺は王になれた。何より、愛し合う喜びを教えてくれた」「ゲイリー……」 ゲイリーは懐から小さな箱を出すと、開けて見せる。中には指輪が入っていた。「あの時渡した結婚指輪には、意味なんてほとんどない。改めて、結婚指輪を贈らせてくれ。これは君を想って選んだんだ」「どうしよう、嬉しいわ……」「さぁ、手を出して」「はい」 手を出すと、ゲイリーは元々嵌めてあった指輪を外し、新たな結婚指輪をレイスの指に嵌めた。指輪はぴったり嵌り、レイスの華奢な指で光り
シャーリィ達をエンゲリーに届けて半月。頻度は減ってきているとはいえ、レイスは未だに悪夢に苛まれていた。ゲイリーに話して楽にはなったが、夢のせいか、時々ゲイリーとバルトに恐怖を抱く。メリンダに雰囲気の似た女性を見かけると、不安になってしまう。「こんなに幸せなのに……」 レイスは東屋に座り、ゲイリーと遊ぶアンナを見つめる。少し離れたところで、バルトが微笑ましく見守っていた。「前に、進まないといけないのに……」 何度も自分にそう言い聞かせ、思い込んできた。それでも悪夢が、前世が、レイスをじわじわと蝕んでいく。「そろそろ公務の時間だな。バルト、アンナを頼む」「はい、陛下」 ふたりの会話で我に返り、立ち上がる。この後他国の王族が城に来ることになっているのだ。「いこう、レイス」「はい」 レイスはゲイリーと共に、客間へ向かった。 夕方、公務を終わらせたレイスは、紅茶を飲んでため息を付いた。レイスにとって、外交ほど苦痛なものはない。自分のものと偽った功績を褒め称えられるのだから。「レイス、今いいか?」「あなた、どうなさったの?」「出かけないか? 気分転換も必要だ」 ゲイリーは、レイスが外交に苦手意識を持っていることをよく知っていた。だから気遣ってくれたのだろう。「いいわね、行きましょうか」 ゲイリーのエスコートで外に出ると、既に馬車が用意してあった。馬車に揺られながら、隣に座るゲイリーを見上げる。「どこへ行くの?」「さてな」 言葉こそ短いが、楽しそうな雰囲気が伝わってくる。きっと彼なりに何か考えてくれたのだろう。「アンナが一緒じゃないなんて、変な感じがするわ」 プライベートで出かける時は、いつもアンナを同行させていた。思えば、アンナが産まれてから、ふたりで外出したことはなかったかもしれない。「たまにはふたりというのもいいだろう」「そうね。なんだか懐かしいわ」 目を細めて思い出すのは
シャーリィを孤児院に預けてから半年後。レイスは馬車に揺られ、孤児院を目指した。 シャーリィがゲイリーを襲った罰としてレイスが下した罪は、孤児院で半年間奉仕することと、その後の追放。今日は彼女を国外追放する日だ。 いつもならお菓子や玩具をもって行くが、ことがことなだけに、そんな気は起きなかった。 孤児院に着くと、子供達と楽しそうに追いかけっこをしているシャーリィの姿が目に映る。(これは、私が彼女に下した罰だものね) 心の中で自分にそう言い聞かせ、馬車から降りる。レイスに気づいた子供達が一斉に駆け寄ってきた。「王妃様! 遊ぼ!」「私と遊ぶの!」「みんなで遊ぼーよ」 自分を囲んではしゃぐ子供達に、胸が締め付けられる。「ごめんね、みんな。今日はシャーリィお姉ちゃんを連れて行く日なの」 いくら事前に伝えていたとは言え、子供達が泣き出してしまうのではないかと懸念したが、子供達は顔を見合わせ、大きく頷いた。「お姫様だもんね」「でも、お別れ会はさせて」「お願いお願い!」「えぇ、もちろんいいわ」 レイスが了承すると、子供達は飛び跳ねながらはしゃぎ、シャーリィの腕を引っ張って施設内に向かう。シャーリィの顔は青白かった。 レイスも誘われて一緒に行くと、子供達は歌を歌ったり、劇を披露したりした。最初は暗い顔をしていたシャーリィだったが、頑張る子供達を見て、笑顔になっていく。「おまたせー!」 職員と数名の女の子たちがケーキを持ってきた。チョコレートプレートには、ぐにゃぐにゃした文字で、『シャーリィ大好き』と書かれていた。「こんなに素敵なケーキを用意してくれるなんて……」 シャーリィは泣き崩れ、子供達は慰めるようにシャーリィに抱きつく。(とても心苦しいわ……) 半年という短い期間だったが、シャーリィと子供達の間には強固な絆が感じられる。それを引き離すのは心苦しいものだった。 皆でケーキを食べた後、子供達はそれ
「ズルというのは、自分が得をしようとしてするものだ」「私は、自分を守るためにしたの。できるだけ知名度と支持率を集めて、あなたに酷いことをされても、民衆に守ってもらえるように……。だから、これはズルだと思うの」「いいや、守るためなら、ズルとはいわない。それに、バカ正直に前世の記憶だと言いながら発表してたら、誰も聞き入れなかっただろう。何より、お前の数々の発表で、ルシアーナは大きく発展した。レイス。お前は王妃としても、母親としても、妻としても、立派だ」「ゲイリー……」「それに、魔剣士になったり、乗馬が上達したりしたのは、お前の努力だ。前世では、どれもうまく行かなかったんだろう?」「そう、そうね……」 ゲイリーの言葉に、今まで抱えていた罪悪感が消えていく。自分とアンナを守るためとはいえ、他人の知識を自分が発案したかのように振る舞うのは、心が痛んだ。大きな棘が抜けたような気分だ。「レイス……」 ゲイリーはレイスを抱きしめる。安心したからか、睡魔がやってきて、あくびが出てしまう。「ごめんなさい……」「いや、いい。眠くなったんだろう?」「えぇ、なんだか、安心してしまって……」「それなら、寝よう」「そうね、おやすみなさい」「なぁ、レイス」「何かしら?」 ベッドに入ろうとして呼び止められて振り返ると、ゲイリーが好奇心で輝いた目でレイスを見つけていた。「さっき言ってたニホン? の話、また聞かせてくれないか?」「えぇ、喜んで。次は絵を描きながら説明するわ。絵に自信はないけど」「楽しみにしてる」 ふたりはベッドに入り、抱き合って眠った。 今度はレイスも悪夢を見ずにぐっすり眠れた。 翌日、レイス、ゲイリー、アンナはサンドイッチを持って敷地内の池に来た。最近公務で娘との時間が取れなかったからと、ゲイリーが提案したのだ。「わぁ、おみず、きらきら!」 まだ3歳のアンナは、きらきら輝く水面に興味津々。ゲイリーはそん
「私とアンナは、バルト達に引き離されたの。私は、寝室に閉じ込められて……。扉の隙間から入れられた魔便りを見たら、バルトがアンナを、麻袋に入れて、焼却炉に入れてる映像で……」「レイス……」 ゲイリーはどう声をかけていいか分からず、アンナを強く抱きしめ、背中をさする。自分や使用人の中にある残虐性を覗いてしまった気がしておぞましい。だが、そのおぞましい記憶を、目の前にいるレイスはずっと抱えてきた。そう思うと彼女の健気さがより愛おしくなる。「……たの」「え?」「動いてたの……。麻袋が、焼却炉に入る前に」 それは前世でアンナが焼かれる苦しみの中で死んでいったことを意味する。「すまない、レイス……」「いいえ、今のあなたは、悪くない……」「まったく記憶にないとはいえ、お前を傷つけてきた自分が許せない……。レイス、お前が望むのなら、別居したっていい。バルトが怖いのなら、解雇する」「いいえ、いいのよ。今のあなたも、バルトも、悪い人じゃないから」「無理してないか?」「えぇ、してないわ」「それならいいが……。今度からは、つらいことがあったら全て話してほしい。支えていきたいんだ」「あなた……」 真摯なゲイリーに胸を打たれたレイスは、最後の秘密も彼に打ち明けるべきだと思った。長年隠してきた、もうひとつの記憶を。「実は、もうひとつ、打ち明けたいことがあるの」「なんだ?」「私には、他の記憶もあるの」「他の? 違うパターンのレイスの人生ってことか?」「いいえ、まったく別人の記憶よ。それが私を支えてくれたの」 胸に手を当て、彼女を想う。孤独と戦い続けた好奇心旺盛な少女、火野玲海のことを。「こことはまったく別の世界。ニホンっていう国の女子高生……。15歳から18歳が通う学校の生徒の記憶よ。火野玲海っていう、とても強い女の子。その記憶があったから、私はここまでやってこれた」「ニホン……。ジョシコウセイ……。どれも聞いたことがない単語だ…
真夜中、レイスはうなされていた。「うぅ、やめて……」「レイス……」 彼女のうめき声で目を覚ましたゲイリーは、レイスの手を握る。ゲイリーが知る限りでは、レイスは王位継承式があった日から、毎晩のようにうなされている。「いったい、何がお前を苦しめているんだ?」「ゲイリー、メリンダ、やめて……!」 自分とメリンダの名がレイスの口から出たことに驚き、起こそうと伸ばした手が止まる。「何故、俺とメリンダの名を?」 ゲイリーは困惑した。自分が彼女の悪夢に出ていることにも、メリンダの名前が出たことにも。メリンダは数年前に投獄され、それっきり顔も見ていない。それにメリンダは、未だに地下牢にいる。「アンナを、返して……。バルト、やめて……」「アンナ? バルトが、一体何を……。レイス、起きろ! 起きてくれ!」 不安になってレイスを揺り起こすと、彼女は飛び起きた。「はぁ、あぁ……」「またうなされていたぞ、レイス」 ゲイリーはサイドテーブルの水差しからグラスに水を注ぐと、レイスに差し出す。「ありがとう、ゲイリー……。毎晩ごめんなさいね……。落ち着くまで、寝室は別にしましょうか」「いや、いい。それより、どんな夢を見たんだ?」 ゲイリーの問いに、レイスは押し黙る。まさか、前世でゲイリーとメリンダに酷いことをされたなど、言えるわけがない。魔法こそある世界だが、前世がどうという話を信じているのは、一部のオカルト好きくらいだ。「俺とメリンダの名前を呼んでいた。それと、バルトも」「え?」「俺達にやめてと言い、アンナを返してと……。何がお前を不安にさせている? バルトに何をされた?」「違うの……」「どう違うというのだ? レイス、頼むから話してくれ。心配なんだ」 ゲイリーの心配そうな顔に胸が苦しくなる。(あぁ、私……。いつの間にかゲイリーを好きになっていたのね……。こんな顔、させたくない) レイスは自分の気持
それからレイスは、最低限の公務と、魔法の練習代わりに、発光石に魔力を込めた。発光石自体は比較的安価で、子どものお小遣いでも買えるような値段だ。 レイスが魔力を込めた発光石は、電球を買えない平民達に、黒塗りのカップと共に配られた。発光石の光はそこまで強いものではなく、黒塗りのカップを被せてしまえば、ほとんど気にならない。 暇つぶしを主な目的とした慈善活動は平民達から大変喜ばれ、レイスの支持率はまた上昇していった。 月日が流れ、破水し、陣痛が来た。それはゲイリーとふたりでお茶をしている時に起きた。ゲイリーはバルトに医者を呼ぶように言いつけ、レ
月日は順調に流れ、レイスが18歳になると、彼女はゲイリーと結婚した。 この時既に、レイスは魔剣士として認められ、学会経由で世界に名を轟かせていた。その知名度や支持率は、ゲイリーを遥かに上回っていた。レイス側の出席者も、学者や剣士が多く、ゲイリー側の出席者達は軽くどよめいていた。 ここまで来るとゲイリーのメンツ潰しもいいところではあるが、この男にはこれくらいがちょうどいい。 すっかり紳士になったゲイリーとの生活は、前世の記憶と比べると遥かに快適だった。ゲイリーも使用人達も、レイスに嫌がらせをすることがない。今のレイスにはある意味王族よりも力
午後2時、いつもはレイスが嫌味を言われながら様々なことを学ぶ勉強部屋の空気はピリついていた。4人掛けのテーブルには、レイスとアルフレッドが向かい合って座っている。その間に、家庭教師の男が、2枚の紙を持って立っていた。「では、まずは問題の確認からしてください」 家庭教師は2枚の紙をテーブルの真中に並べる。紙にはそれぞれ算数の問題が書かれている。片方には10問、もう片方には15問。10問は同じ式だ。2桁の問題は3問程度で、残りは1桁の問題となっている。「本当に良いのか?」「えぇ、かまいません」 小馬鹿にするようなアルフレッドの目を真っ直ぐ見て、返事をする。その態度が気に入らないのか、
翌朝、目が覚めるとこころなしか体が軽い。それに、玲海の記憶が馴染んでいる感じがする。 侍女が来る前に着替えを済ませ、食堂に向かう。途中、父のアルフレッドに会う。「レイス、落馬をしたと聞いたが、動いて大丈夫なのか?」 その言葉に、心配は感じられない。アルフレッドはレイスを、フレアージュ家を繁栄させるための道具としか思っていない。レイスも、父が自分に愛情を注いでいないのは昔から分かっていた。昨日までなら、そんな父に萎縮していたが、もう違う。「はい、問題ありません」「そうか、気をつけなさい」 アル







