もうひとつ多く触れられているのは『Der letzte Tanz』の訳詞変更だ。この曲は終幕近くに配置されることが多く、運命や別離といった重いイメージを歌う。ただ、研究者は日本語訳が原語の象徴的比喩や時間感覚を別の語彙で置き換えたため、曲の余韻や救いのない終わり方が和らげられていると述べる。語彙の選択が舞台演出や照明、俳優の歌い方と結びつくので、歌詞の細かい差異が作品全体の解釈を左右しかねない点に彼らは警鐘を鳴らしている。
翻訳比較を読み返していて気づいたのは、'Ich gehör nur mir'のサビが研究者にとって特に目立つ対象になっている点だ。原語では皇后の自我の確立を強く打ち出す一節が、直訳にすると激しい自己肯定と断絶の響きを持つ。だが研究者は、日本語訳でその決然とした言い切りが柔らかくなり、『自分のものだ』という所有のニュアンスが『自分を取り戻す』『自由を求める』といった願望表現に置き換えられたと指摘している。