江戸時代の生活を描いた『i live in edo』の考証を検証するなら、まず浮世絵や屏風絵が貴重な資料になる。葛飾北斎や歌川広重の作品には町人の日常が細かく描かれ、建築様式や服装の確認に最適だ。
文献では『守貞漫稿』が江戸後期の風俗を詳細に記録している。特に商売のやり取りや娯楽の記述は、登場人物の職業設定をチェックするのに役立つ。料理の再現には『料理物語』や『豆腐百珍』を見ると、当時の食生活がわかる。
意外と役立つのが『東海道中膝栗毛』のような滑稽本。庶民の会話のリズムや旅行の様子が生き生きと伝わってくる。町奉行所の記録『御仕置例類集』なら犯罪や罰則の描写を検証できる。
長年にわたって資料の海を泳いできて気づいたのは、蟻の戸渡りという伝承を時代背景まで遡って検証するとき、単一の“決定的証拠”はほとんどなく、いくつもの種類の資料を組み合わせて総合的に判断するのが普通だということだ。
私はまず文献資料にあたることが多い。古文書類では寺社縁起や年中行事を記した記録、藩の公文書や村方日記・庄屋日記といった地元史料が重要で、そこにある地名や行事、用いられる語彙から実際にいつ頃にその話が語られていたかを推測できる。並行して民話集や聞き書きの収集物、『日本民俗学』系の学術論文を照合し、地域差や語形の変化を追う。比較民俗学的には'Motif-Index of Folk-Literature'などのモチーフ目録を参照し、類話がどの地域・時代に広がったかを把握することが多い。
加えて図像資料も見逃せない。絵本や木版画に残る表現は、口承だけでは分からない視覚的な定着度を示してくれる。さらに新聞アーカイブや出版物の刊行年をたどることで、伝承が口頭から書記媒体へ移った時期、あるいは再流行した時代が特定できる場合がある。考古学や気候史の研究成果を参照して生活様式や家屋構造、通行の習慣がいつ変わったかを照合することもある。こうして各種資料を相互に照らし合わせ、話の原形、拡散経路、時代層を慎重に組み立てていくのが私のやり方だ。最後に、そうして積み上げた証拠の質と量を比べて結論の確かさを判断するしかないと感じている。