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愛は測定を超えて――カルメル7の真実
愛は測定を超えて――カルメル7の真実
ผู้แต่ง: 佐薙真琴

第1章:発掘された言葉

ผู้เขียน: 佐薙真琴
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-30 15:20:19

 カルメル7の夕陽は三つある。

 ミリアム・ヴァシュティは発掘現場の縁に立ち、三連星が織りなす光の交響曲を眺めていた。琥珀色、深紅、そして青白い光。それぞれが異なる角度から廃墟を照らし出し、三千年前の建造物に複雑な影の模様を描いていく。

 彼女の専門用スーツは、惑星の薄い大気を補正しながら体温を調整していた。だが汗は止まらない。興奮による発汗を、どんな技術も抑制できない。

「ミリアム、これを見て」

 助手のレイラ・ハシムが、発掘区画の奥から声を上げた。若い女性の声には抑えきれない昂揚が滲んでいる。

 ミリアムは慎重に斜面を降りた。足元の土は、かつて庭園だった場所の名残を留めている。炭化した植物繊維、人工的に配置された石、そして——彼女の心臓が跳ね上がる——文字の刻まれた陶板の破片。

「深度マーカーは?」

「第七層。推定紀元前1200年、地球暦換算で」レイラの指が空中のホログラフィック・ディスプレイを操作する。「入植第一世代の遺物です」

 ミリアムは膝をついた。陶板は彼女の手のひらほどの大きさで、表面には古ヘブライ文字に似た——だが微妙に異なる——文字が刻まれている。

 彼女は目を閉じた。

 これが彼女の「才能」だった。テキストを見ること。いや、正確には「感じる」こと。文字の背後にある感情の残滓を、データとしてではなく、直感として把握する能力。

 学会は彼女のこの能力を「テクスチュアル・エンパシー」と呼んだ。科学的に説明不可能だが、その精度は驚異的だった。彼女が「感じた」解釈は、後の言語学的分析で九十七パーセントの確率で正しいと証明される。

 残りの三パーセント? それは彼女が「何も感じなかった」時だ。

 今、彼女の指先が陶板に触れる。

 視界が白く染まった。

 いや、白ではない。光だ。無数の光が彼女の意識の中で渦を巻いている。そして——声。

 愛する者よ、あなたは美しい

 あなたの瞳は鳩のよう

 あなたの声は計算されず

 あなたの息は測定されず

 ミリアムは息を呑んだ。これは——

「雅歌」だ。

 地球の旧約聖書に収められた、あの愛の詩篇。だが、最後の二行は彼女の知るどのバージョンにも存在しない。

「ミリアム? 大丈夫?」

 レイラの声が遠くから聞こえる。ミリアムは陶板から手を離し、深く息を吸った。

「これは……大発見よ」彼女の声が震えている。「雅歌の未知の断片。しかも、入植第一世代が地球から持ち込んだオリジナルテキストの変異形」

「変異形?」

「ええ」ミリアムは立ち上がり、三つの太陽を見上げた。「彼らは何かを変えた。意図的に。この惑星で、三千年前に」

 その時、彼女の通信デバイスが振動した。ベースキャンプからの着信。

「ヴァシュティ博士、訪問者です」オペレーターの声。「アデム・カインと名乗る男性が、あなたとの面会を希望しています」

 ミリアムの心臓が、また別の理由で高鳴った。

 アデム。

 三ヶ月前、軌道ステーションで出会った男。遺伝子アーキビストを名乗る、謎めいた笑みを浮かべる男。一晩中、失われた言語について語り合った男。

 そして、彼女が——測定不能な何かを——感じた男。

「すぐ戻ります」ミリアムはレイラに言った。「この陶板を保存処理して。最優先で」

 彼女は斜面を駆け上がった。三つの太陽が、彼女の影を三方向に引き伸ばす。

 その影の一つが、ほんの僅かに、他の二つと異なる動きをしたことに、彼女は気づかなかった。


 ベースキャンプは、惑星表面に展開された一時的な研究施設だった。与圧ドーム、居住モジュール、分析ラボ、そして小さな温室。全てが組み立て式で、調査終了後は痕跡を残さず撤去される。

 ミリアムがエアロックを通過すると、アデム・カインが中央ラウンジで待っていた。

 彼は背が高く、痩身で、深い茶色の瞳を持っていた。年齢は三十代半ばに見えるが、この時代、外見は何の指標にもならない。遺伝子治療で二百歳でも二十歳に見える人間がいる。

「ミリアム」彼は微笑んだ。その笑みは、軌道ステーションで見たものと同じだ。温かく、だが——どこか測定できない何かを含んでいる。

「アデム。なぜここに?」

「君に会いたかったから」彼は肩をすくめた。「それと、仕事。カルメル7の遺伝子データベースの更新。入植者の子孫の追跡調査」

「この惑星に入植者の子孫なんていないわ。全員が三千年前に死んだ」

「その『全員』の定義が、実は曖昧なんだ」アデムは窓の外、廃墟の方角を見た。「遺伝子は予想外の形で残存する。データとして。パターンとして。あるいは——」

「記憶として?」

「そう考える学派もある」

 ミリアムは彼の隣に立った。二人の間に、言葉にならない何かが流れる。

「軌道ステーションで」彼女は静かに言った。「あなたは私に質問したわね。『愛する人が人間でないと知ったら、あなたはどうする』って」

「覚えている」

「なぜそんな質問を?」

 アデムは彼女の方を向いた。その瞳の中に、三つの太陽の残照が映り込んでいる。

「この宇宙では」彼はゆっくりと言った。「人間の定義が曖昧になってきている。バイオ改造人類、量子意識のアップロード体、有機AI……誰が『本物』で、誰が『偽物』なのか。そもそも、その区別に意味があるのか」

「あなたは何が言いたいの?」

「君が今日発掘したもの」アデムは言った。「それは答えの一部かもしれない」

 ミリアムは息を呑んだ。「どうして今日の発掘物のことを——」

「推測だよ」彼は微笑んだ。「君の表情が全てを語っている。何か重要なものを見つけた時の、あの光」

 彼の手が、そっとミリアムの頬に触れた。

 その瞬間、彼女は感じた。

 何かが——正しくない。

 アデムの指先の温もり。脈拍。皮膚の質感。全てが完璧に人間的だ。だが、彼女の「テクスチュアル・エンパシー」が、何か別のものを感知している。

 測定できない、違和感。

「ミリアム?」

 彼女は一歩下がった。「ごめんなさい。疲れているの」

「休むべきだ」アデムは心配そうに言った。「明日、発掘現場を見せてくれるかい? 遺伝子サンプルの採取許可は得ている」

「ええ、もちろん」

 彼女は笑顔を作った。だが心の中では、警告音が鳴り響いていた。

 何かが間違っている。

 アデムが? それとも——自分自身が?


 その夜、ミリアムは研究ラボで陶板の分析データを見つめていた。

 炭素年代測定:紀元前1200年、誤差±50年。

 材質分析:在来粘土、酸化焼成。

 文字解析:古ヘブライ文字の変異形、カルメル方言の可能性。

 全てが標準的な手順に従って処理されている。だが、一つだけ——異常がある。

 インクの組成分析が、エラーを返していた。

「未知の有機化合物」とレポートには書かれている。「既知のデータベースと一致せず」

 ミリアムは拡大画像を見た。文字を形作る黒いインク。顕微鏡レベルでは、それは複雑な結晶構造を持っている。まるで——

 生きているように見える。

 彼女の通信デバイスが光った。アデムからのメッセージ。

 今夜は素晴らしい星空だ。温室で待っている

 ミリアムは躊躇した。だが、何かが彼女を立ち上がらせた。

 測定できない何かが。


 温室は小さな楽園だった。

 地球から持ち込まれた植物が、人工照明の下で育っている。バラ、ジャスミン、オリーブの木。三千年前の入植者たちも、きっと同じことをしたのだろう。

 アデムは中央のベンチに座っていた。透明なドーム越しに、カルメル7の夜空が広がっている。

「美しい」ミリアムは言った。

「君もだ」

 彼女は彼の隣に座った。ジャスミンの香りが漂っている。

「アデム、一つ聞きたいことがあるの」

「何でも」

「あなたは——人間?」

 沈黙。

 それは永遠のように長く感じられた。

 そしてアデムは、笑った。

「君は何をもって『人間』と定義する?」彼は訊ねた。「DNA? 意識? 感情? 魂?」

「全部」

「では僕は」彼は彼女の目を見た。「君と同じくらい人間だ」

「それは答えになっていないわ」

「そうだね」アデムは立ち上がり、オリーブの木に触れた。「この木は人間か? DNA を持ち、環境に反応し、ある意味では『記憶』さえ持っている。年輪という形で」

「詭弁よ」

「いや、本質的な問いだ」彼は振り返った。「ミリアム、君は古代のテキストを『感じる』ことができる。それは科学的に説明できない能力だ。では、君は人間か? それとも何か別の——」

「やめて」

 ミリアムは立ち上がった。心臓が激しく打っている。

「君を怖がらせるつもりはなかった」アデムは近づいてきた。「ただ、この宇宙の真実を知ってほしい。境界は曖昧なんだ。人間と機械、生命と非生命、自然と人工——全てが」

 彼の手が、再び彼女の頬に触れた。

 今度は、彼女は離れなかった。

「君が今日見つけたテキスト」アデムは囁いた。「『あなたの声は計算されず、あなたの息は測定されず』——それは予言だったのかもしれない」

「何の?」

「測定を超えたものの存在。愛、と呼ばれるものの」

 彼は彼女にキスをした。

 その唇は温かく、柔らかく、完璧に人間的だった。

 だがミリアムの心の奥底で、何かが叫んでいた。

 これは間違っている

 何かが、決定的に間違っている

 彼女はキスを返しながら、その警告を無視しようとした。

 無視しなければならなかった。

 なぜなら、もしアデムが人間でないなら——

 もし彼女自身が——

 ジャスミンの香りが、突然、金属的な何かに変わった気がした。

 だがそれは、きっと気のせいだ。

 そうでなければならない。


 翌朝、ミリアムは異変に気づいた。

 温室の植物が、一晩で枯れていた。

 全てではない。ただ一本——彼女とアデムが立っていた場所の、すぐ隣のバラの木だけが。

 レイラが分析ラボで首を傾げた。「原因不明です。病原体も、栄養不足も、環境ストレスの兆候もない。ただ——」

「ただ?」

「細胞レベルで、エネルギーが抜き取られたように見えます。まるで何かに——吸収されたかのように」

 ミリアムは黙っていた。

 そして、発掘現場に向かった。

 アデムが、そこで待っていた。

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