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巻き込むつもりじゃなかった 3

Author: 水守恵蓮
2025-03-31 17:15:18

その夜、私は慧斗を寝かしつけてからお風呂に入った。バスタブに熱いお湯を張って、身体がふやけるまでのんびり浸かること四十分。入浴を終えて、毛先が鎖骨にかかる長さの髪をタオルドライしながらラウンジに戻り、ドア口でギクッとして足を止めた。ソファに、塔也さんが座っている。「と、塔也さん。お帰りなさい」こちらに向けられた背中に声をかけた私を、ネクタイを緩めただけでワイシャツ姿の塔也さんが、ソファの背越しに振り返った。「……ああ」それだけ言って、ふいと正面に向き直る。私は一瞬所在ない気分に駆られ、遠慮がちに歩を進めた。ローテーブルの上に、ウィスキーのボトルとグラスが置かれている。「もしかして、結構早く帰ってきてましたか?」そう訊ねながら、壁時計を見上げた。私がお風呂に入っている間に、時計の針は午後十時を過ぎていた。「三十分くらい前に」塔也さんは返事をしてから、指先で摘まむように持ち上げたグラスをグッと呷る。それを聞いて、私は肩を縮めた。「ごめんなさい。今日はゆっくりお風呂入りたくて。塔也さんのこと、待たせちゃい……」「別に。俺が入りたければ、お前が先に入っていようと遠慮なく入っていくし」「は……?」あまりに太々しくて、言われた意味が瞬時にわからなかった。傍らに突っ立ち、パチパチと瞬きをする私に、彼が上目遣いの視線を向ける。「そんなことはどうでもいい。長閑、ちょっとここ座れ」自分の隣をポンポンと叩いて示されても、私の忙しない瞬きは続く。「……なんだよ。またメイドプレイ続行?」塔也さんの眉間に、皺が刻まれる。「ご主人様の命令だ。長閑、俺の隣に来い」やけにねっとりと単語で区切って言われて、私は重力に負けたように首を傾けた。「あの……酔ってます?」彼に訊ねながら、目線はウィスキーのボトルに向く。ボトルには、ウィスキーが半分ほど残っている。これ……この三十分で飲んだんじゃないよね……?「酔ってねえよ。まだこのグラス一杯だ」塔也さんが、顔の高さにグラスを持ち上げ、軽く揺らした。大きな氷がカランと音を立てる。「そ、そうですか」私はおどおどと視線を彷徨わせたものの、観念して彼と間隔を空けて腰を下ろした。塔也さんは私の方に顔を向け、穴が開きそうなほどジーッと見つめている。本人が『酔ってねえ』と言うなら、そうなんだろうけど……。それなりにアルコール度数が高いウィスキーのせいか、私を捉える瞳はしっ
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