京弥は目の前の伊澄を見つめながら、内心ではますます苛立ちを感じていた。
しかし伊澄は、まるでそれに気づかないふりをするかのように、京弥の問いには答えず、一方的に話し続けた。
「実はね、私が欲しいものはすごく単純なものなんだよ。もう忘れちゃったの?」
「何が欲しいんだ」
京弥は自分の体を這うその手に鳥肌が立つのを感じ、思わず伊澄の手を振り払った。
眉間に深いしわを寄せながら、蚊も潰せそうなほど顔をしかめて言った。
「自重しろ」
伊澄の笑顔はぎこちなくなったものの、今のところはまだ我慢できる範囲だった。
少なくとも、京弥が話を聞いてくれている時点で、部屋に引っ込んでしまうよりはずっとマシだった。
「そんなに冷たくしないでよ。ただ一緒にご飯を食べてほしいだけなの」
京弥は意外そうに伊澄を見つめた。
その目には驚きの色が浮かんでいた。
「飯だけ?」
「そうよ」
伊澄の瞳が輝く。
「それとも、京弥兄は私と他のことがしたいの?それもいいけど」
京弥は背筋に悪寒が走るのを感じた。
これが、自分の知ってる伊澄か?
こんなにも変わってしまったのか?
あんなに可愛かったあの子が、今では欲にまみれた目で自分を見るなんて......
京弥の脳裏には、先ほど彼女が自分を見つめたあの執着に満ちた視線がよみがえる。
まさか、彼女はずっと前から自分にそんな気持ちを抱いていたのか?
深く息を吸って、京弥は低く言い放った。
「まともに話せないなら、今すぐ出ていけ」
「いいよ。お義姉さんもきっと、京弥兄の『正体』を知りたいよね」
伊澄はにっこりと笑いながら言った。
「騙されてたって知ったら、いい気はしないかな?この数日で気づいたけど、あのお義姉さん、結構気が強そうだし?」
京弥は拳を握りしめ、その気配だけで周囲の空気がピリつくほどの威圧感を放っていた。
さすがは伊吹の妹だ。
とんでもない根性してやがる。
その視線に一瞬たじろいだ伊澄だったが、相手の顔を見て、また気を張り直す。
まるで「死ぬ気で突っ込む」ような覚悟の表情だった。
人生なんて短いんだし、好きな人と一緒にいられないなら、生きる意味がない。
だから今を全力で生きる。
彼女はそっと京弥に近づきながら、自分の太ももをつねっていた。
抖えるな......しっかりしなさいよ.....