LOGIN紗雪はかつて母親と賭けをした——もし加津也が自分を愛したら、彼との恋を成就させると。彼が控えめで芯の強い女性を好むと知り、彼女は貧しい女子大生を装い近づいた。 しかし、彼が抱き寄せたのは初恋。冷ややかに彼女を嘲笑いながら、彼は言った。 「お前みたいな成金趣味の貧乏人が、初芽と比べられると思うのか?」 完敗を喫した彼女は、やむなく家へ戻り、億万の財産を継ぐことになった。 それから時が経ち、 彼女は数億円のオートクチュールを纏い、権力と名声を誇る「禁欲の男」と噂される男性の手を取る。華やかな姿で再会したとき、ようやく加津也は後悔を知った。 彼はSNSで堂々と告白する。 「俺はずっと芯の強い特別な女性を愛していると思っていた。でも紗雪、君と出会って初めて、『愛には例外がある』ということを知った」 しかしその夜、決して公の場に姿を現さなかった華原家の若き御曹司が、一枚の写真を公開した。それは長年大切にしまわれていた一枚。 写真の中の少女は、自由奔放で眩いほどの輝きを放っていた。 彼は紗雪の手をしっかりと握りしめ、こう宣言する。 「二川さん、君は俺にとって例外じゃない。君は俺の朝も夜も思い焦がれる人。そして、ずっと前から心に決めていた人だ」
View Moreすると美月は、またしても道徳的な優位に立ったつもりで、紗雪を責め始めた。その話を横で聞いていた伊藤でさえ違和感を覚えた。子どもを産んだ以上、育てるのは親として当然の責任だ。それなのに今になって、そのことを持ち出して紗雪を縛ろうとしている。その姿を見ていると、伊藤は紗雪が不憫でならなかった。裕福な家庭に生まれながら、実の母親からこんな扱いを受けているのだから。思わず何か言ってやりたくなる。紗雪を庇いたくなる。しかし美月自身は、自分の言葉に何の問題もないと思っていた。「そもそもあなた、本当に私との血の繋がりを断ち切れると思っているの?」その言葉に、紗雪が答えようとしたその時、背後から低い男の声が響いた。「まさか美月さんが、ここまで恥知らずな人だったとは思いませんでした」その場の全員が声のした方を振り向く。美月は来訪者の顔を見た瞬間、表情を変えた。「椎名くん......」震える指で彼を指差す。「今の言葉、どういう意味なの?」「意味なんて説明する必要がありますか?」そう言いながら、京弥はゆっくりと紗雪の隣まで歩いてきた。彼は思いもしなかった。自分がいない間に、紗雪がこれほどまでに責め立てられていたなんて。その事実に気づいた瞬間、彼の瞳の奥の冷気はさらに鋭さを増した。京弥は紗雪の隣に立つと、その手をしっかり握る。そして小さな声で囁いた。「大丈夫だ。俺はここにいる。もう心配しなくていい」その言葉を聞いた瞬間――なぜだろう。紗雪の心は不思議なほど落ち着いた。美月に会っても得られなかった安心感が、そこにはあった。この時になってようやく気づく。人の感情というものは、本当に理屈では説明できないのだと。実際に経験してみなければ分からない。人それぞれ抱く感情が違うのは、それぞれ歩んできた人生が違うからだ。だからこそ、紗雪は確信した。京弥だけが、自分に特別な感情を与えてくれる存在なのだと。ならば、この手だけは絶対に離したくない。美月が自分と緒莉をどれほど差別していたのか。その現実を知った今、紗雪はもう何も期待していなかった。こんな偽りだらけの愛情など、いらない。だったら、これ以上ここで時間を無駄にする必要もない。紗雪は少し不思議そうに
その瞬間、紗雪は全身の力が抜けていくような感覚に襲われた。やがて彼女は深く息を吸い込み、美月を見つめた。「それでも母さんは、緒莉を信じるの?」美月は少し眉を寄せた。「確かに事実は並んでいるわ。でも、あの人たちを緒莉が雇ったという直接的な証拠はまだないでしょう?もし本当に緒莉がその男性を知らなかったら?」その言葉は、紗雪にとってまさに頭を殴られたような衝撃だった。そしてようやく理解した。美月の心は、最初から最後まで緒莉の側にあったのだ。そこに自分の居場所は欠片もない。なぜ、そこまでして母親の愛情を求めていたのだろう。今日ここへ来たのも、ただ真実を知ってほしかったからだ。そして同時に、自分自身への区切りをつけるためでもあった。真実を知った時、美月はどんな反応をするのか。少しでも自分の気持ちを理解してくれるのか。もしかしたら、自分の味方になってくれるのではないか。そんな期待が、心のどこかに残っていた。けれど今になって分かる。全部、自分の思い込みだった。美月には美月の考えがあり、その天秤はいつだって緒莉の方へ傾いている。紗雪は静かにため息をついた。「そうですか」そして真っ直ぐ美月を見据える。「何があっても、あなたは緒莉を選ぶんですね。わかりました。もう弁解もしません。今日ここへ来たのは、ただ私の考えを伝えたかっただけです」少し間を置いてから続ける。「ネットの件を知ったら、お母さんが少しは私を見る目を変えてくれるのか確かめたかった。母さんは、何か変わるんじゃないかって」美月の胸がどくりと鳴った。紗雪の言葉の意味が分からない。「何が言いたいの?」紗雪は首を横に振った。「別に何も。母さんが私をどう見ているのか、これでようやく理解できました」彼女は薄く笑う。その笑みには諦めが滲んでいた。「好きじゃないものは、好きになれませんからね。もうあなたたちの輪の中へ入るのを、諦めます」そして静かに告げた。「これからは、本当に必要な時以外、この家には帰りません。私のことは、もう他人だと思ってくれて構いません」そう言って、紗雪は踵を返した。その瞬間、彼女の中に残っていた家族への期待も完全に断ち切られた。あのブレスレット。美月が何年も大切にしまって
「紗雪、この写真、本当に全部本物なの?」美月は紗雪を見つめながら尋ねた。その瞳には純粋な疑問が浮かんでいる。「誰かが緒莉を陥れようとしている可能性はないの?あなたたちの仲を壊そうとしているとか......」紗雪はしばらく黙り込んだ。「......」そして心底呆れたように口を開く。「母さん、誰かに洗脳でもされてるの?」その言葉に美月は眉をひそめた。胸の奥が妙にざわつく。「どういう意味?」「どういう意味も何もないでしょう」紗雪は冷たく笑った。「私が何を言っても聞こうとしないのに、緒莉が一言弁解しただけで全部信じる。証拠をここまで揃えて目の前に突きつけても、まだ疑う。だったらもう何を言っても無駄だよね」彼女は肩をすくめた。「正直、もう説明する気もない。証拠はすべてここにある。信じるか信じないかは、母さんの自由よ。でも私は違うわ。ネットで私を攻撃していた人間が緒莉だと分かればそれで十分。それ以上のことには興味はないから」緒莉が何か言おうとしたとき、紗雪は即座に言葉を被せた。「あなたは黙って。証拠を突きつけられても、まだ認めないなんて。本当に往生際が悪いわね」緒莉は拳を強く握り締める。それでも食い下がった。「その男の人、私は知らないよ。仮に知り合いだったとしても、ネットの件と私が関係している証拠にはならないでしょう?お母さんに聞いてみれば分かるはずよ、この間ずっと私は会社の仕事で忙しかった。だから、こんなことをする時間なんてなかったの」その言葉に美月の表情がわずかに明るくなった。気づけば、また心が緒莉の方へ傾いている。確かに、それにも一理あるように思えた。最近の緒莉の成長は、自分も見てきた。短期間で取引先との契約を成立させたのも事実だ。努力なしにできることではない。仕事には時間も労力も必要だ。一朝一夕で成果が出るものではない。だが美月が口を開くより先に、紗雪が冷笑した。「本人に時間がなくても関係ないでしょう。代わりにやってくれる人間がいればいいんだから。今回だってそう。自分でやらなくても、その男にやらせれば済む話じゃない」紗雪の声は鋭かった。「そんなこと、今に始まった話じゃないでしょう?」そして美月へ視線を向ける。「母さんはもう忘れた?前にも
美月もまた、緒莉の様子がおかしいことに気づいていた。書類袋を受け取ってからというもの、緒莉の視線はずっと自分の手元にあるそれに釘付けになっている。まるで中身が何なのか、自分以上に気になっているかのようだった。美月は眉をわずかに上げ、手にした書類袋を軽く持ち上げる。「緒莉も中身が気になるの?」緒莉は一瞬表情をこわばらせたが、すぐに取り繕った。「だって、これは妹が私を陥れるための『証拠』なんでしょう?もちろん気になるよ。自分の潔白を証明したいのだから」その言葉を聞き、紗雪はますます可笑しくなった。だが、あえて口には出さない。代わりに美月へ向かって言った。「緒莉も気になっているみたいだし、早く開けてみたら?そうすれば、彼女もちゃんと現実を理解できるでしょう」紗雪は冷ややかに笑う。「自分がネットで私に何をしたのか、その結果をね」その一言で、緒莉は確信した。中に入っているのは間違いなく、自分とネット上の騒動を結びつける証拠だ。一方で美月も複雑な気持ちになっていた。なぜなら、この件についてはすでに緒莉本人に確認している。その時、緒莉ははっきりと「自分は関係ない」と言ったはずだった。それなのに今はどういうことなのか。疑問を抱きながらも、美月はすぐに書類袋を開封した。結局のところ、人を納得させるのは証拠しかない。そして中身を見た瞬間、美月は息を呑んだ。そこには何枚もの写真が入っていた。SNSへの投稿時刻。ホテルへの出入りの記録。さらには二人の会話内容まで詳細に記されている。どれを見ても、緒莉がこの件と無関係だとは到底言えなかった。次の瞬間、美月は写真を勢いよく床へ投げつけた。写真は緒莉の足元へ散らばる。「あなた、ネットの件とは関係ないって言ったわよね!?」美月は怒りを抑えきれずに問い詰めた。「これはどういうこと!?」「そ、それは......」緒莉は言い返そうとしたが、言葉が喉で詰まった。足元に散らばった写真へ視線を落とす。その瞳が大きく揺れた。まさか、自分と栄斗が会っていた様子を、誰かがずっと撮影していたなんて。しかも写真だけではない。会話の内容まで記録され、丁寧に注釈まで付けられている。つまり、自分たちはずっと誰かに監視されて
岡目八目。緒莉は横で、母の心の中をとっくに見抜いていた。そして、妙に気になって仕方がなかった。どうして母は、明らかに紗雪を気にかけているのに、あえて無関心を装うのだろう。どんなに観察しても、その理由だけは理解できなかった。いくつかの可能性を考えたこともある。たとえば「紗雪は母の実の娘ではない」とか。けれどその考えは浮かんだ瞬間に消えていった。だって、紗雪はあまりにも美月にそっくりなのだ。いや、そっくりどころか、美月の美点を余すところなく受け継ぎ、さらに磨き上げたかのように......まるで人形のように整った容姿。幼いころからずっと、緒莉はその美しさを
若い紗雪は足を一歩踏み出そうとした、その瞬間。床の亀裂は一気に広がり、彼女の立っている場所がまるで危険地帯の中心になったかのようだった。次の瞬間、足元の床はずるずると崩れ落ち、彼女には避ける暇すら与えられない。近くにいた四人の学生も助けようと駆け寄ろうとしたが、その周囲までもが同時に崩れ始めた。そのとき、ようやく彼らも事態の深刻さを悟る。「どうしてこんなことに......!床が突然割れるなんて!」「いやだ!まだ若いのに、死にたくない!」「ありえない......一体どうなっているんだ!誰か、誰か助けてくれ!」だが、紗雪の足元の崩落はさらに速かった。声を上げよう
美月は眉をひそめた。あの先頭に立っている人、どこかで見た顔のような......いったい、いつどこで会ったのだろうか。誰も何も言わず、その一隊の人間を止めることもせずに、黙って作業へと入らせた。校長は額の汗をぬぐいながら、困惑していた。いったい、今度はどこの関係者だ......?今日は本当に散々だ。政府からの圧力、あの女の強烈な追及......そこにさらに、無言で現れた新しい救援隊。ということは、瓦礫の下には相当な家柄の子どもが埋まっているということか。見ただけで分かる、この人たちの動きは訓練されたプロだ。背後にはきっと強力な後ろ盾があるに違いない。
校長はついさっきまで自分の世界に浸っていたので、突然背後から声をかけられ、心臓が飛び出そうになった。思わず胸を押さえ、後ずさりを数歩。振り返った先で、険しい表情を浮かべる美月を見て、少しだけ胸をなで下ろす。この人は誰だ?見覚えがない。娘?どの子の親だ?ここに閉じ込められているのは女の子が二人だが、たしか両家とも平凡な家庭だったはずだ。そう考えた瞬間、校長の表情は一変した。「保護者の方、お気持ちは分かります。しかし今は落ち着いてください。閉じ込められているのはあなただけのお子さんじゃないんですよ」無責任とも言える態度に、美月の胸の奥に苛立ちが込み上げてきた。口
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