LOGIN紗雪はかつて母親と賭けをした——もし加津也が自分を愛したら、彼との恋を成就させると。彼が控えめで芯の強い女性を好むと知り、彼女は貧しい女子大生を装い近づいた。 しかし、彼が抱き寄せたのは初恋。冷ややかに彼女を嘲笑いながら、彼は言った。 「お前みたいな成金趣味の貧乏人が、初芽と比べられると思うのか?」 完敗を喫した彼女は、やむなく家へ戻り、億万の財産を継ぐことになった。 それから時が経ち、 彼女は数億円のオートクチュールを纏い、権力と名声を誇る「禁欲の男」と噂される男性の手を取る。華やかな姿で再会したとき、ようやく加津也は後悔を知った。 彼はSNSで堂々と告白する。 「俺はずっと芯の強い特別な女性を愛していると思っていた。でも紗雪、君と出会って初めて、『愛には例外がある』ということを知った」 しかしその夜、決して公の場に姿を現さなかった華原家の若き御曹司が、一枚の写真を公開した。それは長年大切にしまわれていた一枚。 写真の中の少女は、自由奔放で眩いほどの輝きを放っていた。 彼は紗雪の手をしっかりと握りしめ、こう宣言する。 「二川さん、君は俺にとって例外じゃない。君は俺の朝も夜も思い焦がれる人。そして、ずっと前から心に決めていた人だ」
View More「確かに。そうだ、それならちょうど、君が興味を持ちそうなものがある」そう言って、京弥は一つの書類袋を紗雪に差し出した。紗雪は不思議そうに受け取り、中を開く。するとそこには、緒莉とある男の写真が何枚も入っていた。食事をしている場面、親しげに会話している様子――さらには、二人がホテルへ出入りしている写真まである。「......これ、どこから手に入れたの?」紗雪は驚きを隠せなかった。まさか京弥が、ここまでプライベートな情報を掴んでいるとは思わなかったのだ。京弥は少し得意げに顎を上げる。「一人や二人の身辺調査くらい、簡単なものさ。俺に調べられないとでも思った?これくらい把握できなきゃ、椎名グループの社長なんて務まらない」その言葉を聞き、紗雪は思わず笑みを零し、そのまま京弥の頬に軽くキスを落とした。「ありがとう。録音まであるなんて、まさに渡りに船だよ」すると京弥は、わざと不満そうな顔をする。「さっき、『一人で何とかして見せる』って言ってなかったか?」紗雪は少し気まずそうに頭を掻いた。「だって、あんまりあなたに迷惑かけたくなかったし......それに、犯人の目星自体はもうついてたから......でも、これのおかげで、私の推測が間違ってなかったって完全に証明できた」京弥は再び問いかける。「で、これからどうする?やっぱり手伝おうか」彼は本気でそう思っていた。紗雪がいつも一人で戦っている姿を見るたびに、力になりたかったのだ。だから何度も申し出ている。だが案の定、今回も紗雪は自然に首を横へ振った。「本当に大丈夫。もうこれだけ証拠が揃ってるんだから、後は私一人でできる」彼女は書類を見つめながら整理するように言葉を続ける。「まずは、これを持ってあの人に直接話しに行くつもり。だって、あの人にとって、緒莉は『一番の自慢の娘』だもの。まさかここまで徹底的に私を潰しに来るなんて、きっと彼女も思わなかった」紗雪は録音データを軽く叩いた。「この録音だけでも、『SNSで工作する』って話をしてるのは分かる。それに加えて、ネット上の流れや、二人の会話内容を合わせれば――今回の件が緒莉の仕業だって、十分証明できるはず」その冷静で筋道立った分析を聞きながら、京弥はどこか安心したように微笑む。
古今東西、この問題に明確な答えを出せた者はいない。長い年月をかけて議論され続けてきたが、誰もが「努力して学ぶことには意味がある」と信じている。だが今、ろくに努力もしていないように見える人間が、大きな利益を手にしている。そう映ってしまえば、人々の心に不満が生まれるのも当然だった。緒莉もその投稿を目にし、思わず栄斗を褒める。「この人、本当にやり手ね。この話題が出たら、紗雪も黙っていられないはず」まさか社会問題にまで結び付けてくるとは。裏で糸を引いている人物は、かなり頭が回る。人々は公平性というものをとても重く見ている。だからこそ、「コネで上がった人間」など許せないのだ。もちろん、ネット上の騒ぎを見ている人間の多くは、ただの野次馬だ。面白半分で騒ぎを眺め、適当に噂を消費しているだけ。だが、自分たちの興味を引く話題や、自分の利益に関わる問題が出てきた瞬間、一気に声を上げ始める。そういう人間は、あまりにも多い。栄斗は満足げに鼻を鳴らした。「ただの炎上程度じゃ連中も監督も動かないらしいからな。だったら、もっと燃やしてやればいい。そのうち、監督も紗雪を使い続けるなんて無理になる」その言葉を聞き、緒莉はわざと残念そうな表情を作る。だが、その瞳には隠しきれない悪意が滲んでいた。一方の栄斗は、そんな本音に気付かないふりをして、以前約束された「ご褒美」の話を持ち出す。「緒莉、前に約束してくれたこと、忘れないでくれよ?」緒莉は甘えるような声を出した。「もう、今はそういう話じゃないでしょ」彼女は照れたように言い返す。だが、顔に浮かんでいる表情は、その声色とはまるで一致していなかった。――所詮は踏み台。少し餌を与えて機嫌を取るくらい、どうってことはない。そもそも、こういう関係は一人だけが得をするものでもないのだから。「安心して。約束したことは、ちゃんと守るわ」緒莉はよく理解していた。人に働かせるなら、相応の見返りを与えなければならないということを。その言葉に、栄斗はすっかり機嫌を良くする。「だったら、結果を楽しみにしてろ。絶対うまくいく」......一方で、紗雪はネット上の議論が、哲学や社会問題にまで発展しているのを見て、さすがに落ち着いてはいられなくなっていた。
【前はこんな監督じゃなかったよね?これまで担当したバラエティ、どれも評判良かったのに。今回どうしちゃったの?】【見損なった】【ここではっきり言っとく。たとえ推しが出てても、この番組だけは絶対見ない】【推したちが可哀想......なんでこんな女と共演しなきゃいけないの】ネットでは好き放題に叩かれていた。だが、それでも監督の考えはまったく変わらなかった。その様子を外から見ていた紗雪でさえ、思わず胸が痛くなる。彼女はずっと、「自分が降板になる」という知らせを待っていた。なのに、監督側からは何の動きもない。その瞬間、紗雪は本当に胸がいっぱいになった。――まさか、ここまで自分を信頼してくれているなんて。彼女は強く思う。番組が始まったら、必ず全力で向き合おう。真剣にこの企画に取り組み、ちゃんと視聴者へ建築の魅力を伝えよう、と。その横で、清那も感極まったように紗雪の肩を軽く叩いた。目にはうっすら涙まで浮かんでいる。「......こんな監督、私初めて見た。ネットじゃあんなに叩かれてるのに、全然ブレないんだよ?ずっと自分の信念を貫いてる」清那は本気で感動していた。「きっとこういう監督だからこそ、何をやっても成功するんだよ。私、これから絶対、この監督のことを応援するよ」紗雪も同じ気持ちだった。むしろ清那の言葉は少しも大袈裟ではないと思う。――こんな監督なら、きっと何をやっても成功する。それは間違いない。「私もそう思う」紗雪は静かに頷いた。「番組が始まったら、私たちも頑張ろう。アンチが何も言えなくなるくらい」そう口にしながら、彼女は心の中で密かに決意を固める。すると清那がふと思い出したように尋ねた。「そういえば、いつ頃から収録参加するんだろ?もうここまで来てるのに、まだ正式な連絡ないよね?」「たぶん、ここ数日じゃないかな」紗雪は少し考えてから答えた。「今ネットの話題もどんどん大きくなってるし、逆に番組の宣伝にもなってる。たぶん『絶対見ない』って言ってる人ほど、放送始まったら結局見に来ると思う」それに清那も深く頷く。「分かる。そういう人たちって、叩きながら『番組でどう失敗するか』を見に来るんだよね」紗雪は思わず笑った。「今の人って、だいたいそんな感じだ
「でも、紗雪は......」緒莉が話を途中でやめると、美月は真面目な顔で言い切った。「全部、あの子の自業自得よ。二川グループを離れるって決めた以上、それに伴う代償くらい覚悟しておくべきだったの」そのあまりにも冷淡な態度を見て、緒莉もそれ以上は何も言えなくなった。これ以上話を続ければ、美月を不機嫌にさせてしまいそうな気がしたのだ。だったら、わざわざ逆らう必要もない。むしろ今は、美月に合わせておいた方がいい。「うん、そうだね」美月は、素直に頷く緒莉を見て満足そうに微笑んだ。「緒莉は、自分の仕事をちゃんとしていればそれでいいの。今までみたいに、二川グループのためにしっかり案件を取ってきて。他のことまで気にしなくていいわ」少し声を柔らかくして続ける。「私はずっと、あなたを鍛えたいって思ってた。いつまでも私の後ろに隠れてほしくなかったから。でも時には、お母さんに頼ったっていいのよ」その「立派な母親」らしい言葉を聞きながら、緒莉は内心少し笑いそうになっていた。だがもちろん、顔には出さない。向こうがここまで綺麗にセリフを用意してくれているのだ。ここで空気を読まずに反発すれば、自分の方が聞き分けのない娘に見えてしまう。「ありがとう。お母さんが私のためを思って言ってくれてるの、ちゃんと分かってるから」そうして母娘は寄り添い合う。まるでお互いこそが、一番の支えであるかのように。だが、そのやり取りをそばで聞いていた伊藤は、心の中で大きな衝撃を受けていた。――まさか、美月がここまで変わってしまうなんて。本当に紗雪のことを心配していないのか?それとも、もう何の情も残っていないのか?そう思うと、伊藤は紗雪が不憫でならなかった。こんな母親の元に生まれてしまうなんて。むしろ、有佑がまだ生きていた頃の方が良かった。少なくともあの頃の紗雪には、ちゃんと愛してくれる人がいたのだから。だが今の美月は違う。もう紗雪の味方にはなってくれないだろう。伊藤は、これから先は紗雪が一人で道を切り開いていくしかないのだと感じていた。――もっとも、紗雪の夫はかなり良い人だと聞いている。二人で力を合わせて生きていけるなら、きっと悪い未来にはならないはずだ。今の伊藤には、ただ心の中でそう祈ることしか
辰琉は頭を垂れ、まるで悪いことをして叱られている子どものようだった。孝寛の背筋も、いつものようにしゃんと伸びることはなく、ずっと曲がったまま。その間、彼の胸中では、自分の顔を地面に押しつけられ、踏みにじられているような屈辱が渦巻いていた。こんなに時間が経っているのに、この女はまだ考えを決められないのか。その思いが積もるたび、孝寛の背中はさらに重く沈み、今度こそ二度と真っ直ぐには戻らない気がした。理由は分からない。ただ、胸の奥で確信に近い予感があった。隣の名津美も、歯を食いしばって堪えていた。彼女は決して、手に入れた栄華を手放したくはない。ようやく掴んだ安穏な
彼女は恥ずかしそうに小さく頷き、それが答えになった。伊吹は満足げに唇を上げ、寝室へ向かう足取りが一気に軽くなる。そのころ、二人が想いを遂げている一方で、加津也の病室には重苦しい空気が漂っていた。彼は苛立ちを抑えきれず、テーブルの上の食事を一気にひっくり返す。初芽の声に滲む苛立ち――それを感じ取らなかったわけではない。ただ、認めたくなかっただけだ。最初は落ち込んでいたが、今は怒りに変わっている。どこで間違った?あんなにうまくいっていたのに。初芽はずっと自分の味方で、困ったときには真っ先に頼れる存在だったはずだ。なのに、今はもう彼女の心がどこにも見えない
美月は鼻で冷たく笑い、そのままズカズカとソファに腰を下ろした。「こっちにも限界があるの。さっさと本人を呼びなさい。無断で家に踏み込んだって言いたいなら、警察でも誰でも呼べばいいわ。最後まで付き合ってあげる」彼女はもともと事を恐れない性格だが、無駄に騒ぎを起こすタイプでもない。だが今は、相手にここまで頭ごなしに踏みつけられている状況だ。黙って引き下がるつもりなどなかった。彼女には何より大事な子どもが二人いる。その二人ともが、相手の息子に傷つけられた。まさか本気で、とぼけて逃げ続ければ済むと思っているのだろうか。息子が使い物にならなくなっても、父親も母親も健在。
いざというとき安東家がしらばっくれたらどうするのか。そう考えると、やはり万全の準備をしておくべきだ。今回は、とにかく向こうの態度をきっちり正させないといけない。自分の娘たちが、こんな理不尽をただで受けるなんて絶対に許せない。とくに紗雪は、病院のベッドにあんなに長く寝かされていた。失った時間を、いったい誰が償うのか。それに会社へ与えた損失もある。一つ一つ挙げれば、どれも人聞きの悪い話ばかりだ。だからこそ美月は、安東家と縁を切る決心を強めている。この縁談だけは、絶対に認めない。緒莉が嫁いだところで、損をするのは目に見えている。今になってようやくはっきり分
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