ただこの数年間は一心不乱に博人と理玖に全てを捧げてきたので、昔の夢もすっかり忘れさられてしまっていたのだ。
一方、悠奈のほうもとても興味津々な様子で口を開いた。
「どこに行くの?私もついていきたい」
それからしばらく経って。
三人は湘洋邸(しょうようてい)に到着した。
未央が車を降りると、一人の中年くらいの男性が迎えた。彼は憔悴しきった様子で悩み事を抱えているようだ。
「あなたが白鳥先生でいらっしゃいますか?」
彼のその口ぶりからは、まるで未央がこんなに若いとは思っていなかったと不安そうな様子もうかがえる。
悠生はすぐに紹介を始めた。「こちらは堂本亮(どうもと りょう)さんと言って、俺のビジネスパートナーなんです」
未央は律儀に会釈をした。
「堂本さん、はじめまして。私のことは白鳥と呼んでください」
お互いに挨拶を済ませてから、亮は三人を連れて邸宅の中へと進み、沈んだ声で言った。「病気になっているのは私の息子なんです。2歳の時に人攫いに誘拐されてしまい、最近になってようやく息子を見つけ出すことができたのですが……一日中クローゼットの中にこもりっぱなしで何も口にしないのです」
それを聞いて、未央は胸が苦しくなり、無意識に歩く速度を上げた。
「蒼空(そら)、いい子だから出てきてくれない?」
部屋の中で。
ある中年女性がクローゼットの前に立って、涙を拭いながら話しかけていた。
足音が聞こえて、彼女はサッと後ろを振り向き、両手を広げ何かの守護神にでもなったかのように部屋の前を死守していた。
「夏希(なつき)、蒼空のためにお医者さんに来ていただいたんだ。どきなさい」と亮が口を開いて話し始めると、すぐ女性の甲高い声がその言葉を打ち破った。
「もういい加減にして!毎日わけの分からないペテン師を家に連れてきて、蒼空の症状はどんどん悪化する一方じゃないの」
堂本亮の妻である夏希は未央たち三人を睨みつけて沈んだ声を出した。「蒼空には治療なんて必要ないわ。今すぐお帰りください」
亮はどうにも困って頭を掻き、急いで説明した。「夏希、今回は今までとは違うんだよ。白鳥先生は虹陽市のあの河本教授が自ら教え育ててこられた方なんだぞ。それに、藤崎社長の妹さんの治療も担当なさっている」
「そうです、未央さんはとってもすごい方なんですよ」この時、悠奈は自分のこと