新生心療内科。
未央は自分のオフィスのデスクに腰かけ、難しい病気のカルテに目を通していた。
「コンコンコン!」
研修医の石田が困った顔でドアをノックして入ってきた。
「白鳥先生、昨日いらっしゃった患者さんがまた来ました。あなたに診ていただきたいと」
未央は顔も上げずに冷たく言った。「彼らの診察はしません。他の腕の良い精神科医に行ってもらってちょうだい」
石田は続けてまた口を開いた。「ですが、診察料の十倍出すから、不眠症の治療をしてもらいたいと」
未央は仕事をする手を一瞬止めた。以前の博人は何も問題なかったではないか。
診察料を十倍出す?
医者として未央は結局、頷き受け入れることにした。しかし、ある要求をした。
「彼一人の診察しかしないわ。一緒に来ていた女はどこかに行かせて」
「未央、俺と雪乃はただ空港でたまたま会っただけで、彼女を連れてくるつもりなんてなかったんだよ」
博人はまっすぐに未央を見つめて、小声でそう釈明した。
未央は顔色を変えず、それを信じるかどうかは返事せずに、ただ淡々と冷たい口調で言った。
「私はあなたの病気の診察に専念するだけで、プライベートのことなんか知りません。現状を教えてください」
博人は暗い表情になり、引き続き話した。「重度の不眠症に悩まされているんだ。もう長い間ゆっくりと眠れていなくて」
未央は眉間にしわを寄せた。「いつからですか?」
「君が俺の元を去っていったあの日からだ」博人は真剣な眼差しで彼女を見つめた。
未央は彼の深い黒い瞳と目が合い、心臓が一瞬跳ね上がったが、すぐに冷静になった。
「横になってください。寝られるように眠りを促してみます」
博人は心の奥底で未央を完全に信頼していた。それで大人しくベッドに横たわり、彼女の手に一定の速度で揺れる懐中時計を見つめていた。
「今体がとても重たく感じるでしょう。体をリラックスさせて……」
ゆっくりとした優しい女性の声が耳元に響いた。
博人はすぐに眠気に襲われてきた。
「今何が怖いの?どうして眠れないの?」未央は以前の経験から彼の睡眠を促していった。
そして。
博人は何の抵抗もなく口を開いた。「妻がいなくなって、もう二度と彼女に会えないかと心配になったんだ。息子も母親を失ってしまうかもしれない」
未央のペンを持つ手が少し震え、その瞬間紙にペ