「嘘をつくな!」
博人は咄嗟に叫び、クローゼットから一つの段ボールを取り出し、中身を床に散らかした。
「バサッ――」
彼は散らばったものを指しながら、一つ一つ説明した。「これは君が俺のために、わざわざ神社まで行って、苦労して手に入れた御守りだ。これは一晩中かけて編んでくれたマフラーだ。それからこれは……」
博人の声が次第にかすれて、赤くなった目が懇願の色に染まっていった。
「未央、思い出してくれ、お願いだから」
自分にくれたその愛を。
未央は散らばったその見覚えのあるものを見つめ、目を細めてふっと笑った。
「おかげさまで、私はかつてこんな愚かなこともしてきたことを思い出せたわ」
博人は凍り付いたようにその場に立ち尽くした。
未央はベッドにいる理玖と立ち竦んでいる博人を交互に見て、冷たく言い放った。
「理玖なら大丈夫みたいだから、私は帰るわ。これ以上私のところに来ないで。あなた達がいない生活の方がずっと充実しているから」
博人は口を開いたが、一言も出てこなかった。ただ、その慣れ親しんだ姿が視野から消えていくのをじっと見つめることしかできなかった。
この時、夜が静かに訪れていた。
未央がホテルを出た時には、すっかり日が暮れ、美術展もとっくに終わっていた。
冷たい風に吹かれ、地面に落ちた葉がさらさらと音を立てた。
未央はコートのボダンを締め、ため息をつき、タクシーで家に帰った。
「ガチャ」
彼女が玄関に入ると、悠奈が部屋から飛び出してきて、その目は好奇心で輝いていた。
「未央さん、今日はどうだった?楽しかった?」
しかし、返ってきたのは沈黙だけだった。
悠奈はぽかんとした。この時、玄関には未央一人しかおらず、兄の姿がないことに気付いた。
二人が一緒に美術展に行ったら、兄の性格からして、きっと未央を家まで送ってくれるはずだ。
何かあったに違いない……
未央の機嫌が悪いと察し、悠奈の表情も次第に曇っていた。
「どうしたの?もしかして兄さんが何かした?今兄さんに文句を言ってやるわ!」
そう言いながら、悠奈は怒った様子で外へ出ようとした。
彼女はわざと口実を作り、二人きりでいられる時間を作ってあげて、くっつけようとしたのに、まさか兄が全く役に立たないなんて。
未央は呆れたように彼女を引き止めた。
「お兄さんとは関係ないわ」