未央はすぐに身支度を終わらせて、ゆっくりと上からおりてきた。階段の踊り場まで来た時、ソファに座る悠生に目が釘付けになった。
この日、彼は紺のスーツ姿だった。肩幅は広く腰は引き締まっていて、あの背の高くスラリとしたスタイルがより完璧だった。非常に高貴なオーラを放っている。
未央が彼を見つめている時、ちょうど悠生が顔を上げた。
二人の目線が絡み合い、まるで時間が止まったかのようだった。
悠奈のテンションの高い声が聞こえて、また時間が動き出した。
「このスカート絶対に未央さんに似合うと思ったんです。兄さんと一緒に立ってると、本当にお似合いの二人ね!」
未央はこの時、淡いブルーのドレスを着ていた。悠生の深いブルーと、未央の淡いブルーが、一緒にいるとペアルックのように見える。
彼女は少し気まずかったが、今日はそもそも悠生とは恋人を演じる予定だったのだから、特に多くは語らず少し唇をキュッと結び、自然に見えるよう努力した。
悠生は立ち上がり、未央の前までやって来ると、微笑んで彼女を褒めた。その瞳には複雑な感情が隠れていた。
「とても綺麗だ。よく似合っているよ」
低く魅力的な声が耳元に響いた。
この瞬間、未央の鼓動は加速し、少し下を向いて彼の熱い視線から逃れた。
「い……行きましょうか」
三人はやっと車に乗り込んだ。藤崎家の実家は立花にあるが、少し田舎の郊外にあった。
悠生たちの両親は、昔農家出身で、今は仕事も辞め、畑仕事をしながら暮らしたいと田舎暮らしを始めたのだった。
息子から彼女を連れて帰って来ると聞き、藤崎家は朝早くから忙しくしていた。
「そこにあるごちゃごちゃしたものを片付けなさい。後で息子のお嫁さんにびっくりされてしまうわ」悠生の母親である藤崎京香(ふじさき きょうか)は腰に両手を当て、低い声で命令していた。
藤崎知久(ふじさき ともひさ)は彼女に睨まれると肩をすくめた。そして釣りに使うミミズを全て外に放り出し、小声でぶつぶつと呟いた。
「まだ会ってもいないのに、そんなに切迫してどうするんだよ」
京香は家の中を行ったり来たりして、両手であれやこれやと物を片付けていた。そしてしきりに外の様子を、まだかまだかと緊張の面持ちでうかがい、ぶつぶつ言っていた。
「もう昼になるってのに、どうしてまだ来ないのかしら?もしかして来る途中で何かあっ