未央はすぐに聞き返した。「どんなこと?」
「その人ってかなりの借金を抱えていたらしいの。それに、その借金の相手はあの江川薬品の社長、横山宏太だったの」
瑠莉はゆっくりとした口調で話していた。その声は少し重かった。
「未央、なんだかどんどん複雑になってきちゃったわね。これ以上調べていたら、あなた命の危険に晒されてしまうかもしれないわ。やっぱりさぁ、私たちこれ以上は……」
話し終わる前に、未央が瑠莉の言葉を遮った。
「瑠莉!」
未央は険しい表情で、真面目に言った。「絶対に調べてはっきりさせるわ。父さんは罪に問われたのよ。もし、私が何も知らなかったらまだいいけど、今は知ってしまった後だもの。だから、父さんが意味もなく20年も刑務所に入れられているのを見ていられないわ」
この瞬間、その場の空気は凍り付いた。
電話越しに瑠莉はため息をついた。
「うん、分かったわ。また何か手伝えることがあったら、遠慮なく言ってね」
電話を切った後、未央の頭の中にはさっき瑠莉が言っていた言葉がこだましていた。
江川薬品の横山宏太。彼女は以前二回彼に会ったことがある。彼は父親のライバルだったのだ。
もともと、彼女はこの間バーに行って横山宏太を待ち伏せしていたのだが、結局会うことはできず、危険な目に遭うところだったのだ。
未央は少し考え、またバーに行って彼に会えないか賭けてみようと思った。しかし、今度は彼女も学習していたので、先に催涙スプレーとスタンガンを準備し、それから携帯を定期的にメッセージが送れるような細工をしておいた。
もし、何かあった時には、友人に自分がどこにいるのか知らせることができるのだ。
ただ、これらを使わなくて済むのならそれが一番なのだが。
未央は深呼吸し、道端でタクシーを拾って、再びバー・グランスターへ赴いた。
まだ昼間なので、お客は少なく、バーの中は閑散としていた。
未央は隅のほうへ座り、辛抱強く待つことにした。
どのくらい経ったのかは分からないが、バーの客が増え、強いタバコと酒の匂いが充満しだした。
未央は容姿がかなり良いので、彼女がいくら目立たないようにしていても、ナンパは防げなかった。
彼女は眉をひそめ、ナンパしてきた男をまた断った後、突然入り口に見慣れた姿が現れた。
そこにいたのは――
宏太は横に金髪美女を侍らせ、活気あふれ