「それだけではありません。私たちは万が一に備えて、スナイパー対策の人員も配置しています」
最後の言葉を聞いて、紀美子は思わず驚嘆した。
そこまで手配していたのか……
自分の心配は、本当に余計なものだったようだ。
「入江さん、あなたが今考えるべきは、どうやって彼に近づくかですよ」
美月は続けた。
「命の安全については、彼自身に任せておきましょう。自分の命さえ守れないようじゃ、家族を守るなんて無理ですよ」
紀美子は美月の言葉に笑みを浮かべた。
「前例があるから、どうしても心配になってしまいます」
「必要ありません」
美月は回転椅子に座ると、半回転して紀美子の資料を手に取った。
「ところで入江さん、もうすぐあなたの誕生日ですよね」
紀美子は一瞬戸惑い、携帯の日付を確認した。
確かに、あと5日で自分の誕生日だ。
10月10日。
紀美子は笑顔で言った。
「遠藤さんも来てくれませんか?」
「もちろんです。後で時間と場所を教えてください」
「わかりました」
電話を切った直後、珠代の声がドアの外から聞こえてきた。
「入江さん、塚原さんがいらっしゃいましたよ」
一体何の用?
前回あんなことを言ったのに、どうしてまた?
まさか、晋太郎がここに来たことをボディガードが漏らしたのか?
紀美子は急いで返事をした。
「書斎に通して」
珠代はすぐに悟を案内してきた。
悟が部屋に入ってきた瞬間、紀美子は彼の目に浮かぶ痛みをはっきりと見て取った。
「今度は何の用?」
紀美子は冷たい声で尋ねた。
悟はドアのそばに立ちながら言った。
「紀美子、俺はできるだけ君の前に現れないようにしてた。でも、ここ数日、どうしても我慢できなかった。正直に教えてくれ。君と龍介は、いったいどんな関係なんだ?」
「もう十分に話したはずよ!」
紀美子は言い放った。
「龍介とは何の関係もない。どうして彼にこだわるの?」
「じゃあ、なぜ彼はそんなに長い時間君の家にいたんだ?」
悟は紀美子に近づいた。
「紀美子、許してくれないか?」
悟が近づいてくるにつれて、紀美子は彼の身から強い酒の匂いを感じた。
紀美子はすぐに立ち上がった。
酔っ払った人間とは話すつもりはない。
そう考えると、彼女はドアの方へ歩き出した。
しかし、悟が素早く彼女の手首をつかんだ。