あの日、悠治と穂香が図書館で一緒に読んでいた新聞紙もバレンタインデーのものだった。
「え、ええ…そうです……両親は、バレンタインデーに他界に行ったのです……」
雪枝の口調が少し落ち込んでいたが、大介に理由を伝えることにためらいはなかった。
「すみません」
「いいえ、私はまだ小さかったから何も覚えていません。全部お兄ちゃんが処理したのです。あれから、お兄ちゃんはチョコレートが嫌いになって…嫌いというか、ダメになっちゃったの……そうです!」
いきなり、雪枝のテンションが躍起した。
「嫌な思い出を忘れさせましょう!」
「!?」
「大介さんはお兄ちゃんをバレンタインデートに誘って、楽しく遊んで、嫌な思い出を上書きしましょう!」
「……」
(嫌な思い出が増えるだけじゃないか……)
いかにも自分の名案に興奮する雪枝に、大介は本当の考えを言い出せなかった。
「ちょうど、私と正樹もテーマパークに行く予定です。ダブルデートもいいです!」
「いや、雪枝さんたちを見たら、悠治はまた挫けるだろう……」
「あっ、確かに、その可能性が……」
「それじゃあ、大介さんの好きなところでいいと思います。お兄ちゃんはあまり外出しないから、遊びに不得意です」
「……」
(決めた言い方にしないでほしい……)
雪枝のアドバイスはちょっと困ったものだが、無意味ではなかった。
少なくとも、チョコレートという地雷が分かった。
気分転換させるのもいいアイデアだし、とりあえず、チケット送って、好きにさせろう。
「テーマパークのチケット?」
寝起きなのか、悠治声が弱くて、かすれたよう