顔が一気に真っ赤に染まる。血が滴り落ちそうなほどに。
「くそっ!」育ちの良さなど微塵も感じられない罵声が漏れる。
まるで何かから逃げるように、シャワールームに駆け込んだ。
シャワーの音が、荒くなった呼吸を掻き消す。
もう若くはない。とうに心の高鳴りなど卒業したはずだった。子供までいる身なのに。こんな思春期じみた失態を演じるような年齢じゃないはずなのに。
冬真は目を閉じ、引き締まった表情に水を浴びせる。
夢の中の不可解な光景を、もう二度と思い出したくなかった。
女に飢えているのか?
Lunaの姿が、なぜ夕月の顔に変わったのか。
冬真は自嘲気味に笑う。あまりにも馬鹿げている。
ALI数学コンテストの決勝戦の日が、ついに訪れた。
ALI グループは桜都大学に特設会場を設け、大会の模様をネット配信することに決めた。
ネット上で公平性を疑問視する声が上がっていたからこそ、今回の配信を通じて、真の公平性を示すと同時に、長期的な視点から大会の知名度を上げる狙いもあった。
「ここで大丈夫よ」天野の四駆から降りながら、夕月は声をかけた。瑛優を学校に送った後、天野が桜都大学まで送ってくれたのだ。
目の前に聳え立つ大理石の門柱を見上げ、夕月は思わず息を呑んだ。キャンパスを去った時には、まさかこうして戻ってくることになるとは思いもしなかった。
「もう行って」
振り返って天野に手を振りながら、夕月は深く息を吸い込んだ。
離婚って、本当に良かった。
颯爽と歩を進める夕月。
天野は立ち尽くしたまま、夕月の後ろ姿を見つめていた。
今日の夕月は、ベージュのロングコートに黑のミモレ丈スカート、ショートブーツという出で立ち。肩にはウールのアーガイルマフラーを巻き、頭にはフェルトのベレー帽を被っていた。
PCバッグを手に、キャンパスを行き交う学生たちの中に溶け込んでいく夕月の姿には、変わらぬ若々しさが漂っていた。
腕を組んだまま佇む天野は、薄灰色の半袖シャツ一枚で寒さにも動じない。逞しい長い脚は、同じく灰色のミリタリーパンツに包まれていた。
その屈強な体格は圧倒的な存在感を放っていた。薄手のシャツの下からも、まるで小山のような筋肉の盛り上がりが確認でき、道行く人々の視線が自然と引き寄せられる。
天野の後ろ、数メートル離れた場所には、シックな黒のカイエ