涼は頭の中でオフロードコース全体を走破し、目尻に笑みを浮かべた。
「この先、コース安定してる。思いっきり攻めていいぞ!」
漆黒の闇の中、ライト無しで全開のコロナ。夕月は涼を完全に信頼し、ついに暗闇を抜けて光明を見た。
エンジン音が遠くから近づいてくる。フィニッシュラインで待つ観衆が首を伸ばした。
マシンがブラックゾーンに入ってからは、観客席後方の大型スクリーンも真っ暗になっていた。
誰もが固唾を飲んで見守る。
どのマシンが最初にブラックゾーンを抜け、通常コースに戻ってくるのか、誰も予想できない。
悠斗は柵に登り、冷たい風の中、遠方を食い入るように見つめていた。
突然、漆黒のマシンが視界に飛び込んできた。大型スクリーンが再び明るくなり、観客席からは歓声と悲鳴が響き渡る。
コロナだ!
ブラックゾーンを抜け、トップに躍り出た。
その後ろを追うのは、冬真の操るブラックホール。
「Luna!パパ!!」
悠斗は声が枯れんばかりに叫び、両手を合わせて祈った。
パパもLunaも、どちらも一位になれますように!
光が冬真の漆黒の瞳を照らす。目前のコロナに、彼の勝負魂が完全に目覚めた。
ビジネスの世界で幾度となく戦い、極限まで追い詰められても、感情を乱すことはなかった。
だが、コロナを追いかける中で、アドレナリンが急上昇。最も原始的な本能が全身を支配していく。
礼節という仮面が剥ぎ取られ、全力で疾走する野獣は、ただ前を行く獲物の首筋に噛みつきたいだけだった。
しかし、フィニッシュまであと二キロを切っている!
「シュッ!」
コロナがフィニッシュラインを駆け抜けた。
待ち構えていた観衆から歓声が沸き起こる。
カラフルなテープが噴き出し、黄金の雨のようにコロナのボディを覆った。
「うわぁ!!」悠斗は目を丸くし、視界にはコロナしかなかった。
胸に手を当てる。まるで金の矢に射抜かれたかのように、コロナとLunaに完全に心を奪われていた。
コロナがブラックホールを打ち破った。
Lunaがパパを倒した。
今日からLunaは、彼の心の中で超えられない神様になった。
冬真の操るブラックホールは路肩に停車した。
ヘルメットを外し、レーシングスーツのジッパーを下ろしたものの、シートベルトを解く力さえ残っていない。
シートに深く沈み込み、荒い息を繰