杏奈の体を拭いて部屋を出た二人は、彼女をホテルに連れて行って休ませようとしたが、杏奈は大西渉のことが心配で、手術が終わるまで待つと言い張った。医師から、大西渉の腱が無事に繋がったと聞いて、ようやく彼女は安心した。
大西渉は麻酔でまだ眠っていた。彼が無事だと知った杏奈は、白石沙耶香に説得されて、ようやく立ち上がった。病室を出ようとしたその時、霜村冷司が差し向けたボディガードから電話がかかってきた。
「霜村社長、相川言成さんが死亡しました。銃撃によるものです」
霜村冷司は言葉を失い、ボディガードの話を最後まで聞かずに電話を切ると、歩みを止めた杏奈の方を向いた。
少し迷った後、彼は言った。「杏奈、言成が死んだ......」
杏奈の体は硬直した。
恐怖のせいなのか、それとも何か別の理由があったのか、彼女の手が震え始め、足に力が入らなくなった。
和泉夕子と白石沙耶香が支えていなければ、彼女は倒れてしまっていたかもしれない。
彼女の顔色はみるみるうちに青白くなり、背筋も丸まっていった......
彼女はどれくらい立ち尽くしていたのだろうか。霜村冷司の冷たい声が再び聞こえてきて、ようやく彼女はゆっくりと振り返った......
「え?」
今の言葉が何も聞こえなかった。まるで世界が静まり返ってしまったかのように、耳鳴りの音だけが、耳の中、頭の中で、爆音のように鳴り響き、霜村冷司の言葉が全く聞き取れなかった......
霜村冷司はスマホを握りしめ、重い足取りで杏奈の前に立った。
「警察が、遺体に触れることを禁止している。もし、彼に会いたいのなら、彼らが来る前に、最後に一目だけ会うことができる」
銃撃による死亡は刑事事件に発展するため、現場保存が必要だ。さらに、国内の警察も相川言成の行方を追っていたため、遺体を簡単に持ち帰ることはできないだろう。
ぼんやりとしていた杏奈は、「遺体」という言葉で、ようやく相川言成が本当に死んでしまったことを理解した。しかし、彼はあんなに優秀な医者なのに、どうして......
彼が若い頃、山の中で銃で撃たれた時、自分で手術をして助かったことがあった。あの時も助かったのに、どうして今は......
杏奈は自分の手を見た。きれいに洗って、血はついていないはずなのに、なぜか、まだ手に血がついているように感じた......
しばら