大西渉が片付け終えると、振り返って杏奈を見た。
彼は唇を開きかけ、何か言おうとしたが、言葉の空しさを感じた。
彼は部屋に立ち尽くし、丸々数分間そのままでいた後、寝室を後にした……
沙耶香と柴田夏彦がまだ外で待機していて、彼が出てくるのを見ると、すぐに近寄った。
「杏奈はどう?」
大西渉はもう一度寝室の方を振り返った。
「感情は安定してるけど、心に壁を作っている」
言い終えると、大西渉は視線を戻し、沙耶香を見た。
「沙耶香、しばらくの間、ここに残って彼女の世話を頼めるかな」
「問題ないわ」
大西渉が言わなくても、沙耶香は杏奈の世話をするつもりだった。
「できれば、穂果ちゃんも連れてきてもらえないかな……」
杏奈は子供が好きで、子供がそばにいれば、彼女の心を温かくできるかもしれない。
「わかった」
沙耶香はうなずき、ようやく大西渉は歩き始めた。
半月が過ぎ、大西渉は相川言成を法廷に訴えた。
一方、杏奈も沙耶香と穂果ちゃんの付き添いのもと、少しずつ元気を取り戻していった。
和泉夕子と霜村冷司が国内に戻った日、柴田夏彦と大西渉は荷物を持って杏奈の別荘に向かった。
沙耶香は大西渉から食材を受け取りながら尋ねた。
「裁判の件はどうなってる?」
「裁判所に提出したばかりだから、召喚を待つ段階だよ」
裁判はそう早くは進まないが、大西渉は焦っていなかった。時間はたっぷりある。
沙耶香は軽くうなずき、ソファに座って穂果ちゃんを抱いて遊ぶ杏奈を見た。
「最近杏奈の気分が随分良くなってきたわ。あなたが時々来て励ましてくれたおかげよ」
大西渉は食材を分類して冷蔵庫に入れた後、沙耶香に向かって微笑んだ。
「相川言成を倒したら、彼女に盛大な結婚式を挙げるつもりだ」
沙耶香は小さな拳を握り、大西渉に「頑張って」というジェスチャーをした。
「じゃあ頑張って。あなたたちの結婚式でお酒を飲むのを楽しみにしてるわ」
「その時は大きな祝儀袋を用意してくれよ」
「もちろんよ」
沙耶香は笑いながら答え、大西渉に手を振った。
「杏奈のところに行ってあげて。ここは私と夏彦に任せて」
大西渉は「わかった」と答え、キッチンを後にした。
「沙耶香」
「ん?」
野菜を洗っていた沙耶香は横を向き、野菜を洗う柴田夏彦を見た。
「どうしたの?」
「霜村社長