都合の良い事に、生徒指導室は一階、職員室の隣にある。
本命は生徒指導室だけど、先に職員室の中の様子を確認する事にした。少しだけ扉を開けて、中の様子を伺ってみる。もうすぐ朝のホームルームということもあり、埋まっている座席の数は少ない。
扉から見やすい位置にある横島先生の机も当然空席だ。
となると、やっぱり滝沢が連行されたのは生徒指導室か。
ゆっくりと扉を閉めてから踵を返した。
そして、少し歩いて歩みを止めた。
『生徒指導室』室名札にはそうしるされている。
室内からは想像していた怒号のような物が聞こえてくる事はない。
しかし、なんというか、言葉では現しづらい、禍々しい異様な空気が生徒指導室一角に漂っていた。
なんとか助けようと思ってここまで来たものの、尻込みしてすぐに扉を開ける覚悟はできなかった。
中がどんな様子か探るために、俺は扉にピタリと耳をつけた。
壁に耳ありってやつだな。
「────」
室内での会話は途切れ途切れながらも聞き取る事はできた。
しかし、中での会話の異様さが、耳をついた。
『こんなに顔怪我しちゃって、どうしたのよー。まさか!誰かにやられたの?まさか男!?うちの学校の生徒なら今すぐ言いなさい!お姉ちゃんが締めてあげるから』
聞いたことのある声だ。いつもより甘ったるく感じるが、芯の通った声。
横島先生のそれとよく似ている気がする。いや気の所為だよな……?
聞いてはいけない物を聞いてしまったような気がして、思わず扉から耳を離した。
きっと来る場所を間違えてしまったのだろう。
念の為、顔を上げて、先程確認したばかりの室内札を何度か確認してみるが、そこにはしっかりと『生徒指導室』と表記されていた。
もしかしたら滝沢はもっと上、校長室なんかに連れて行かれてしまったのかもしれないな。
『だ、大丈夫。わ、私がドジで、一人で転んだだけだから』
かなり弱々しい声色だけど、静まり返った廊下にかすかに聞こえたその声は滝沢の物で間違いない。
慌てて扉に耳を寄せる。
『なに言ってるのよ!ただ転んだだけで、こんな風になるはずがないでしょ!お姉ちゃんの目はごまかせないんだから!私が昔、元カレに二階から投げ飛ばされた時と同じよ!凛もそうされたんじゃないの!?』
頭の中はクエスチョンマークで溢れていた。
あの横島先生が滝沢のお姉ちゃん!