「ようやく気づいた。俺はずっと君のことが好きだったんだ。時雨、一緒に帰ろう」
私は不思議そうに彼を見て、問い返した。
「それが私と何の関係が?」
丈が何か言いかけたそのとき、私の背後から若い男の声がした。
「時雨さん、まだ帰ってないんですか?あとで一緒にご飯どうです?」
和真が近づいてきて、私を見つめながら言った。
「この人は……?」
丈は、私を見る目にどこか期待の色を浮かべていた。
私は平然と答えた。
「女遊びの激しかった元夫よ」
和真は、光から私と丈のことを聞いたことがあり、彼は露骨に軽蔑した目で丈を見た。
「……今さら後悔して、復縁でもお願いしてるんですか?」
その言葉に込められた嫌味はあまりにもあからさまで、丈の表情が曇った。
「お前には関係ないだろ」
私はクスッと笑って、彼には何も返さず、和真のほうを見た。
「どこで食べる?ちょうど今日は光がいないし」
和真は少し考えてから、遠慮なく言った。
「刺身が食べたい気分です」
私は片眉を上げて彼を見てから、先に歩き出した。
背後から丈が何度も私の名前を叫んだ。
声には次第に涙が混じっていた。
でも私はまったく心が揺らぐことなく、足を止めずに前へと進んだ。
食事の席で、和真は興味津々に丈とのことを聞いてきた。
私は食事をしながら、これまでの経緯を淡々と話して聞かせた。
話し終える頃には、和真は驚きのあまり食事の手が止まっていた。
そして最後に彼は酒を一口で飲み干し、同情するような目で私を見た。
「時雨さんなら、次はきっと、もっといい人に出会えるはずです」
その真剣なまなざしに、私は思わず笑ってしまった。
まさかあのプライドの高い丈が、こんなにも粘着質なことをしてくるなんて思わなかった。
翌日、出勤すると、私はまたスタジオの前で丈の姿を見た。
彼はバラの花束を抱えて、情熱的な眼差しで私を見ていた。
「時雨、俺は諦めない。君が気持ちを変えてくれる日まで、ずっと待ってる」
私は眉をひそめて、彼を見据えた。
「丈、私たちはもう終わったの。契約も済んでる」
それでも丈は現実を受け入れようとせず、無理にでも花を手渡そうとしてきた。
私は一瞥もくれず、くるりと背を向けてスタジオに入った。
その後しばらくの間、丈は毎日私の職場の前に現れた。
彼が自分に酔って