七年前、涼川と結婚した時、私たちは本当に愛し合えると信じていた。
私は彼と共に、どん底から這い上がり、富と権力を手に入れた。
幾度となく夜更けに、彼は私の肩に顔を埋めて囁いた。「若菜がいてくれて、本当に良かった」
それなのに、私が子供を産むと、涼川は赤ちゃんを連れ去ってしまった。
「産後で体が弱っているんだから。子供は姉さんに預けよう。
彼女は君のせいで子供を失ったんだ」
彼はまるで当然のように言い放った。
今、私に治験を強いているのと、同じような口調で。
「君は彼女に借りがあるんだ。
姉さんが毎日悪夢に苦しむのを、君だって見過ごせないだろう?」
夏目千夜――私の従姉であり、夫の初恋の人。
彼女が子供を欲しがれば、涼川は我が子さえ躊躇なく差し出す。
彼女がうつ病になれば、私を実験台にすることも厭わない。
治験なんて、簡単に聞こえるかもしれない。
でも、それは耐えがたい痛みと、終わりのない恐怖との闘いだ。
本来なら、厳密な臨床試験を重ねてからでないと使えない薬を、この私の体で試すのだから。
私はただの実験動物。彼女のための、生きた実験台。
それも、私が千夜の妹だからという理由だけで。
血のつながりがあれば、薬の効果も高まるというのだ。
たとえ、私たちが疎遠な従姉妹でしかなくても。
「治験?ええ、いいわ」
喉元に甘い血の味を感じながら、私は微笑んだ。
涼川は私を精神病院に入れることにした。
より良い実験台として使えるように、と。
その前日、七年前に涼川を捨てて海外へ去った彼女と、初めて顔を合わせた。
真っ白なワンピース姿の彼女は、まるで人形のように美しく整えられていて、うつ病なんて嘘みたいだった。
「まあ、療養院に行くですって?」
私が答える間もなく、彼女は艶やかな微笑みを浮かべて続けた。
「あなたがいなくなったら、陽太はどうなるのかしら」
陽太は、私のたった一人の宝物。
難産で子宮を失い、もう二度と母になれない私の、唯一の子供。
「お願い......陽太のことを......」
震える声で懇願する私に、彼女は愉しげに微笑んだ。
「治験台になってくれるお礼よ。もちろん大切にするわ......
あなたと同じように育ててあげる。そうでなきゃ、可愛そうでしょう?
同じように......ね」
その言葉に、私の血が凍った。
そう、これが私の姉。幼い頃から私を弄んで楽しむ姉。
両親を事故で亡くし、私の家に引き取られた彼女は、養女となった。
私が彼女を嫌がっただけで、私は両親から「嫉妬深い子」というレッテルを貼られた。
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