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Home / 家族もの / 恋の毒が私を溶かす / 第11話

第11話

Author: 篠原 静香
「同じドアの向こうに、別の人間が住んでるなんて、誰も気付かないさ」

完全な狂人。

私は必死に暴れ始めた。

涼川は軽く私の頬を叩くと、一気に私を抱え上げた。

背中に担がれて。

18階の部屋のバルコニーから覗くと、真っ暗で底が見えなかった。

夜風が冷たく、冷や汗で濡れた服を揺らす。

思わず震えが走る。

隣のバルコニーに飛び移るつもりらしい。

私の体からは力が抜け切っていた。

一時間が過ぎた。もう逃げられない。

絶望的な気持ちに沈んでいた時、玄関に微かな物音がした。

暗闇の中、涼川の目が不安げに揺れるのが見えた。

「まさか......

どうやって見つけた?」

涼川男は私の襟を掴み、狂気の目で睨みつける。

「若菜、お前か?

言え!どうやって連絡した?」

もう、全てが終わりに近付いている。

私は微笑んで、胸元を指差した。

細いネックレスに吊るされたルビー。

よく見ると、かすかな赤い光が。

肉眼では気付けないほどの。

隠しカメラ。

特殊部隊の整然とした足音が近付いてくる。

無数の銃口が涼川に向けられる。

涼川は私を盾にした。

血走った目で、追い詰められた獣のようだった。

私は溜息をつく。「もういいでしょう、匠。

逃げられないわ」

すると彼は耳元に唇を寄せ、低く笑いながら一言一言囁いた。

「若菜、一緒に死のう、な?」

そう言って、私の腰を抱えたまま窓から飛び降りた。

でも残念なことに。

彼は地面に叩きつけられ、血飛沫を上げた。

一方私は、用意されていたエアマットの上に助けられた。

かすり傷一つ負わなかった。

全ては、白く混ざった脳漿が血と共に流れ出し、雨に洗い流されて消えていった。

かわりに、私の新しい人生が、始まる。

30年分の苦労をすっ飛ばして、お金持ちになれたわ。

良かったけれど、誰にもこんな目には遭って欲しくない。

陽の光が暖かい。生きているって、素晴らしいわね。
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