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Home / 家族もの / 恋の毒が私を溶かす / 第9話

第9話

Author: 篠原 静香
まるで人が変わったように、

涼川は昼夜を問わず私の後を追い回すようになった。

「若菜、ほら見て。陽太だよ。僕たちの子供」

赤ちゃんを両手で大切そうに抱え、私の前に差し出す。

生後六ヶ月の赤ちゃんは、白くふっくらとした頬をして、

大きな瞳で何も分からない様子で私を見つめていた。

私は軽く目をやっただけで、早々に返すように促した。

すると涼川は目を真っ赤にして、声を震わせた。

「子供まで見捨てるつもりなのか......なら俺も、いつか捨てられるのか?」

左手で筆を動かしながら、平然と答える。「子供はずっと姉さんが育ててるでしょう?

長く離れていたから、私を怖がってるはず」

涼川は血の気が引いたように青ざめ、言葉を失った。

ふうん。

このクチナシの花は、前より少しマシね。

そう、私はまた絵を描き始めていた。

右手は使えなくなったけれど、左手で描けるようになった。

まるで取り憑かれたように、クチナシの花ばかり描いている。

心の奥で、このクチナシの花は私にとって大切なものだと、誰かが囁いている気がする。

でも、なぜなのかは分からない。

「よくもそんな策を考えついたわね」

大きな腹を抱えた姿が現れた。

「駆け引きのつもり?」

冷笑を浮かべて続ける。「残念だけど、私と匠の子供がもうすぐ生まれるの。そんな手には乗らないわ」

私は一瞥もくれず、手元のクチナシの花を描き続けた。

彼女は苛立ちを覚えたのか、不意に笑みを浮かべた。「ねえ若菜、匠にはもう、この子しかいないのよ。陽太は死んだの」

筆が止まり、一本の線が歪んだ。

クチナシの花も、真ん中から引き裂かれたように見えた。

目を伏せたまま、新しい画用紙を取る。

「どうして死んだのか、聞きたくない?」

私の反応が演技なのか本心なのか測りかねている様子で、不満げな声で、でも目には笑みを浮かべながら。

「夜泣きがうるさくて。お腹が空いてるのかと思って、ミルクを作ってあげたの。

赤ちゃんって本当に繊細ね。少し熱いお湯も飲めないなんて…」

大きな腹を優しく撫でながら、柔らかな声で続けた。

「でも今は分かったわ。

私と匠の子は、大切に育てるから」

だから最近、涼川が姿を見せないのね。

きっと後ろめたさで、眠れない夜を過ごしているんでしょう。

あの子が生き延びていたとしても、こ
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