来依は、どうやって時間を稼ぎ続けるかを考えていた。
晴美はソファに腰を下ろし、検査結果を待っていた。
青城はベッドサイドの椅子に座っていた。
来依は、まるで鳥籠の中の鳥だった。どれだけ頭をぶつけ、血を流しても、この牢獄から飛び出すことはできない。
ましてや、この二人の冷酷な人間は、彼女がいくら苦しもうとも、哀れみなど抱かない。
彼女は、目立たないようゆっくりと足の縄を解いた。
そして口を開いた。
「トイレに行きたい」
青城は立ち上がり、彼女を抱きかかえようとした。
彼女は拒否した。
「自分で歩ける」
だが、結局は抱き上げられてしまった。
トイレに座らされても、彼はその場を離れなかった。
「外に出てくれない?」
「出ない」
「……」
来依は、思わず目をひっくり返したくなったが、こらえて言った。
「このトイレ、ドアがあるだけで、窓すらないのよ? あんたがドアを塞いでるんだから、逃げようがないでしょ?下痢してるのに、あんた見張ってるの?」
自分で言っておいても吐き気がするような話なのに、彼は平然としていた。
「どうぞ、出せば?」
「……」
来依は、実際にトイレに行きたかったわけではなかった。
ゆっくりと立ち上がり、ズボンを脱ぐふりをしながら、トイレ内を観察した。
その時だった。看護師が病室に入ってきた。
「検査結果が出ました」
来依には言葉は分からなかったが、青城の表情が変わり、すぐに出て行った様子から、そうだと察した。
彼女もすぐに後を追い、青城が報告書を手にする前にそれを奪い取り、トイレのドアを閉めて鍵をかけた。
青城はすぐにドアを蹴った。
来依は急いで検査報告をトイレに放り込み、水を流した。
青城がドアを蹴破って入ってきた時、報告書はすっかり濡れて原形を失っていた。
彼の目には、鋭い憎しみが宿った。
「病院には記録が残る。紙を潰しても無駄だ」
彼は一歩一歩近づいてきた。
「つまり、嘘をついていたんだな」
来依はバスルームの方に後ずさりし、シャワーヘッドを手に取った。
温度なんてお構いなしに、スイッチをひねり、勢いよく青城の顔に水を浴びせた。
彼は目を直撃され、一瞬視界を奪われた。その隙に、彼女はシャワーヘッドで彼の後頭部を思い切り叩きつけた。
どこからそんな力が湧いたのか、自分でも分からない。