その場が凍りついた。雅彦は険しい表情を浮かべたまま、長いこと口を開かなかった。
二人の男が沈黙を保ったまま立ち尽くす。だが、そこには嵐が来そうな緊張感が立ちこめていた。
その張りつめた空気を破ったのは、ベッドの上の莉子だった。彼女の指がぴくりと動いたのを見て、雨織はすぐにそれに気づき、二人の対立どころではなくなった。「お姉ちゃん、目が覚めたの!?」彼女は慌てて駆け寄る。
莉子はゆっくりと目を開け、心配そうな雨織の顔を見て、少し戸惑ったように口を開いた。「私……これは……」
「今はICUにいるの。気分はどう?」海もすぐにそばに寄ってきて、様子をうかがう。
莉子の頭はまだぼんやりとしていたが、しばらくしてから、ようやく言葉を発した。「もう……大丈夫だと思う」
その返事に、海はほっと息をつき、次いで雅彦に目を向ける。「雅彦様、莉子はこちらでちゃんと見てます。桃さんのことがそんなに心配なら、どうぞ行ってあげてください。私たちで十分対応できます。さっき言ったことも、ぜひご検討を。早めに後任者を見つけていただかないと、会社にも支障が出ますので」
状況がつかめず、莉子は困惑したように雅彦の方を見た。険しい顔をしている彼を見て、そっと尋ねる。「何があったの?後任者って……どこかへ行くつもりなの?」
「彼は菊池グループを離れるつもりらしい。もう俺の部下じゃなくなるって」雅彦の声には、どこか冷え切ったものが混ざっていた。長年、自分の傍にいた海が、こうもあっさりと離れていくとは。
「そんなの……ダメよ!」莉子は驚いて声を上げた。「いったい何があったの?どうして急に……」
「お姉ちゃん、もう止めないで。雅彦さんは、自分の奥さんに少しも罰を与えようとしないの。つらい思いなんてさせたくないから、今すぐにも連れ戻そうとしてるのよ。海さんはあなたのために怒ってるの。菊池グループに、お姉さんや海さんみたいな人材が必要ないって言うなら、どこでだってやっていけるんだから」
「何を言ってるの、雨織。私も海も、小さい頃から菊池グループに育てられたのよ。簡単に『辞めます』なんて言える立場じゃないでしょ」
莉子は雨織を叱りつけ、海に向き直って、経緯を聞いた。
桃が彼女に自殺をそそのかした容疑で警察に拘束されていると知ると、莉子の瞳からは光が失われていった。「ごめんなさい、雅彦。雨織はま