山口の下関、春の夜が海を冷たく包む朝。
佐藤宗次こと佐久間宗太郎は、弟子・太郎の死から一夜明けた宿で目を覚ました。
九州を巡り、中国地方へ足を踏み入れた宗太郎は、博多を拠点に各地で評を広め、偽名を使い江戸での暗殺未遂を逃れていた。
だが、大分で沙羅の偽評「海人」が太郎の評を盗み、山口で太郎が刺客・鉄蔵に命を奪われた。黒崎藤十郎と松葉屋の藤兵衛の陰謀が、刺客・弥蔵のスパイ・宗助と沙羅を通じて宗太郎を追い詰める中、太郎の死が宗太郎の心に深い傷を刻んだ。
宿の窓から下関の海を見つめる宗太郎。そこへ、宿の主・弥平が一通の手紙を持ってきた。差出人は「海人」。中を開けると、沙羅の筆跡でこう綴られていた。
佐藤宗次殿
私の仲間が、そなたの弟子・太郎の命を頂戴してしまい、誠に申し訳ない。一度話をしたい。そなたの怒りはもっともだ。だが、私にも言い分がある。返信を待っている。
海人
宗太郎は手紙を握り、目を閉じた。遺品の血に染まった筆と紙を眺めた。沙羅が偽評で太郎を貶め、その結果、刺客が動いたことは明らかだった。だが、沙羅の悔恨を感じる文面に一瞬迷った。すぐに筆を取り、返信を書いた。
海人殿
弟子・太郎の命を奪った罪は重い。そなたの言い分を聞こう。だが、真実が明らかになるまで、俺の怒りは消えぬ。下関の屋台「瓦香」で待つ。夕刻に来い。
佐藤宗次
宗太郎は弥平に手紙を託し、沙羅に届けるよう頼んだ。弥平は黙って頷き、市場へ向かった。
昼下がり、下関の市場は静かだった。宗太郎は太郎の遺品である筆と紙を手に、瓦香へ向かった。店主の源蔵は、太郎の死を知り、宗太郎に深く頭を下げた。
「佐藤さん、太郎のことは…俺も悔しい。あいつ、瓦そばをうまいって評してくれたのに…。」
宗太郎は源蔵の言葉に頷き、カ