広島の港町、春の陽射しが瀬戸内海を穏やかに照らす朝。佐藤宗次こと佐久間宗太郎は、広島の「瀬戸」で過ごす三日目を迎えていた。享保年間の九州を巡り、中国地方へ旅を進めた宗太郎は、博多を拠点に各地で評を広め、偽名を使い江戸での暗殺未遂を逃れていた。山口で弟子・太郎が刺客に命を奪われたが、沙羅の協力で藤十郎の暗殺計画が一旦中止となり、宗太郎は新たな旅を続けていた。前々日に「瀬戸」で出会った17歳の鮎子に一目惚れし、昨日、結納の条件として旅に同行してほしいと伝えた。鮎子は戸惑いながらも父・辰五郎に相談し、宗太郎の真剣な想いに心を動かされていた。
「瀬戸」の店内は、朝から穏やかな空気が漂う。宗太郎はカウンターに座り、鮎子を見つめていた。彼女の優しい笑顔と、時折見せるはにかんだ表情が、宗太郎の心を温かく満たしていた。鮎子は宗太郎に気づき、頬を赤らめながら声をかけた。
「宗次さん、今日も来てくれて…ありがとう。昨日、父さんと話して…私、決めたよ。」
宗太郎は鮎子の言葉に胸が高鳴り、真剣な目で彼女を見つめた。
「鮎子、そなたの答えを聞かせてくれ。」
鮎子は少し緊張しながらも、はっきりと答えた。
「宗次さん、私、そなたと旅に着いていく。命の保証がないって言われたけど…そなたと一緒なら、怖くない。結婚して、そなたの旅を支えたい。」
宗太郎は鮎子の決意に目を潤ませ、静かに微笑んだ。太郎の死で冷えていた心が、鮎子の言葉で再び温かさを取り戻した。
「鮎子…そなたの覚悟、ありがたく受け取る。俺はそなたを守り、共に味を探求する旅を続けよう。」
二人は見つめ合い、初めて手を握った。鮎子の小さな手は温かく、宗太郎の大きな手に包まれた瞬間、互いの距離が一気に縮まった。
店の奥から辰五郎が現れ、二人の様子を見て微笑んだ。
「鮎子、宗次殿…よく決めたな。俺も賛成だ。今日はお前たちの結婚を祝う。祝い飯を作ろう。」
鮎子は父の言葉に目を輝かせ、宗太郎も感