意識が徐々に遠のいていく中、大量の血を吐き出していた。
ぼやけた視界の隅で、海斗がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
その焦った様子を見て、ふと3歳の頃のことを思い出した。
彼が「可愛いから」と言って私をリュックに詰め込み、友達に自慢しようとしたあの頃を。
まだ小さかった私は、あっという間に海斗の友達、宏一の心を掴んでしまい、彼は私を抱きかかえて隠してしまった。
あの時の彼は、今よりもっと必死で焦っていたっけ。
そんなことを思い出して、つい笑ってしまったが、また血が口から溢れ出た。
「お兄ちゃん、もし今度も私が死んだら、あの時みたいに教室中をひっくり返して、みんなを殴って探してくれるのかな?」
そんなわけないか。
そう思った瞬間、海斗の足がピタリと止まった。彼は突然携帯を取り出し、緊張した顔で電話に出た。
「美咲、心配するな、すぐに行くよ」
「分かった、宏一には言わないよ。泣かないでくれ」
電話を切った彼は、すぐに別の電話をかけ始めた。
「涼介、俺、事故起こした。南浜の交差点だ。けど今、もっと急ぐ用事があるから、お前が代わりにその人を病院に運んでくれ」
全身に激しい痛みが走ったが、それ以上に心が痛んだ。
美咲と宏一が喧嘩したからって、たったそれだけのことで、海斗は自分が轢いた人間を放っておくつもりなのか。
あんなに彼と涼介が仲直りできるように頑張ってきたのに。
それでも、彼らは冷たく言い放ったんだ。
「アイツが俺の人生をめちゃくちゃにしたんだ。絶対に許さない」
「桜子、無駄だよ。俺たちは絶対に仲良くなれない」
それが、美咲の一言であっさりと手を取り合うなんて。
「あなたたちは私を守ってくれるお坊ちゃま。大事な友達なんだから、三人でずっと一緒にいようね」
海斗と涼介が美咲にどんな気持ちを抱いているのか、私にはわからない。
ただ、彼女はどんな男にも「友達だよ」って言って、相手をその気にさせてしまうんだ。唯一、宏一だけは別だけど。
「桜子?お前か!」
涼介が到着した時、私はまだ意識があった。
彼は震える手で私を抱き上げ、車に乗せた。
「桜子、心配するな。大丈夫だ、絶対に大丈夫だから」
でも、私の出血はひどく、涼介の服や車のシートまで血が染み込んでいく。
彼はきっと怒るだろう。
涼介はボクサーだけど、実は潔癖症