『恋人』になってからも、夏芽さんによる『軟禁』は変わらない。自分のマンションに戻るのは許してもらえると思ったのに、『恋人同士なのに、わざわざ別々に暮らす必要がどこにある?』と真顔で返され、思わず私まで返事に窮してしまった。『ずっとここにいろ、美雨。毎晩ベッドで愛でるにも、一緒に住んでいる方がいろいろと都合がいい』ただでさえ色っぽい人が、意図的に色気を出してそんなことを言うと、その破壊力は半端じゃない。結局いいように丸め込まれ、強引で不遜な命令で始まった同居生活も、すでに丸二週間経過。もはや、何故同居することになったのか、その理由さえ曖昧になっていた。確か、私に余計な情報を与える、よからぬ人間が接触するのを阻止するため、だった気がする。夏芽さんが言う、『よからぬ人間』が多香子さんなのは明白だ。実際、彼女は私が仕事復帰したと知って、オフィスビルまでやって来た。あれ以来見かけてないけど、夏芽さんはまだ警戒を解かない。だからこそ、私の中から、不可解な思いは消えない。私が、彼と出会い関係を持つようになっていたことを『知った』今も、『余計な情報』がなにかあるんだろうか――。こういうことを考え込むのは、いつも決まってベッドに入ってから。そしてたいてい、後からベッドに来る夏芽さんによって、一人きりの瞑想タイムは阻まれる。今夜も例に違わず……。