「こんなにも私に深い傷を負わせた人と、やり直せると思ってるの?
江原秘書、仕事に集中しなさい。私にちょっかい出すなんて、身の程知らずもいいところよ」
そう言い終えると、彼女は斗真を連れて宴会場へと歩き出した。
少し歩いたところで、智哉の姿が目に入った。
相変わらず背が高く、引き締まった体つき。はっきりとした顔立ちは冷たい鋭さを帯びていた。
佳奈の姿を見た瞬間、彼の表情がわずかに曇った。
かつて深く愛し合った二人が、今はまるで仇のように振る舞わなければならない。
その苦しみは、当人たちにしか分からない。
智哉は薄く唇を曲げ、先に口を開いた。
「藤崎弁護士は相変わらず口が達者だな。うちの秘書を言い負かすなんて、さすが法曹界のナンバーワンだ」
佳奈は冷ややかな表情を崩さず、美しい瞳からは何の感情も読み取れなかった。
「高橋社長、分かってるなら結構。自分の犬はちゃんと繋いでおいて。誰にでも噛みつかせていい相手じゃないわよ。少なくとも、私にはね」
そう言い放つと、彼女は険しい顔の斗真の腕を引いて智哉の横を通り過ぎた。
斗真はそっと彼女の手の甲を叩き、心配そうに顔を覗き込んだ。
「佳奈姉、大丈夫?」
佳奈はやっと自分が斗真の腕を力いっぱい掴んでいたことに気づいた。
彼女は苦笑しながら唇を引きつらせた。
「痛かったでしょ、ごめん」
斗真はにっこり笑った。
「俺、皮も肉も厚いから平気っすよ。それより姉さん、顔色ヤバいっす。無理しないで、帰ろっか?」
佳奈は首を振った。
「ここまで来たんだから、腹を括るしかないわ。まだ浩之の姿を見てない。……うちの息子を殺した犯人を」
二人は会話を交わしながら会場の中へと入っていき、ビジネス関係の知人たちに軽く挨拶を交わした後、席に着いた。
その時だった。
晴臣がオーダーメイドのスーツに身を包み、会場に姿を現した。
そして彼の腕にいたのは、あの長らく狂人のふりをしていた奈津子だった。
その光景を見た瞬間、佳奈の心臓がドクンと跳ねた。
奈津子は外には「精神を病んだ」と言っていたはずだ。
なのに、なぜ晴臣が彼女をこの場に連れてきたのか?
だが、奈津子の後ろに車椅子の男がいるのを見た瞬間、佳奈はすべてを悟った。
浩之の仕業だ。
彼が奈津子をここに連れてきたのは、彼