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第568話

Author: 藤原 白乃介
奈津子の声は大きく、感情も激しく高ぶっていた。

唇は震え続け、目には恐怖の色が浮かんでいる。

その言葉を聞いた瞬間、浩之の鋭い眼差しがわずかに細められ、大きな手で車椅子のアームレストをぎゅっと握りしめた。

彼は静かに、この見世物の開幕を待っていた。

佳奈も緊張して拳を握りしめる。ようやく、浩之の本当の狙いが見えてきた。

彼の目的は、智哉を人前で非難させ、奈津子が本当に狂っているのか、それとも狂ったふりをしているのかを見極めることだった。

もし奈津子が狂ったふりをしていると分かれば、彼女はすでに記憶を取り戻していて、浩之が黒幕であることに気づいているという証拠になる。

そして晴臣と智哉の兄弟は、ずっと浩之に芝居を見せていたことになる。

そうなれば、外祖父はもう救い出せず、麗美もずっと監禁されたままになる。

智哉が二年かけて築いてきた潜伏計画はすべて水の泡になる。

高橋グループも、浩之の手に落ちてしまう。

会場の空気は、呼吸すらままならないほど張り詰めていた。

誰もが奈津子に視線を向け、彼女が真実を暴露するのではと期待していた。

そのとき、舞台から奈津子の恐ろしい声が響いた。

彼女は智哉を指差しながら、どもりながら叫んだ。

「彼、彼は私生児なんかじゃない……神様が私を捕まえに送ったのよ……来ないで、私じゃない……私には関係ない……来ないで!」

奈津子は体裁も気にせず、舞台の上をふらふらと逃げ回った。

きちんと整えられていた化粧は一瞬で崩れ、美しいチャイナドレスも大きく裂けていた。

その狂気じみた姿は、見る者の胸を締めつけた。

晴臣はすぐに駆け寄り、彼女を抱きしめてなだめた。

「お母さん、もう大丈夫よ。休憩しにいこう」

奈津子は彼の腕の中で必死にもがきながら、なおも叫び続けた。

「来ないで……私じゃない……来ないで……私じゃないってば……」

彼女の大騒ぎによって、先ほどまで智哉を非難していた人々の視線が一斉に奈津子へと移った。

会場は一気に混乱の渦に包まれた。

本来なら華やかな記念パーティーが、来賓たちの笑い話のネタになってしまった。

智哉は両手を固く握りしめ、手の甲の血管が浮き上がっていた。

彼には分かっていた。母がこんなことをするのは、すべて彼のためだった。

彼が非難される姿を見たくなかったのだ。

その思いが、
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