彼は話しながら身をかがめ、佳奈と視線を合わせた。
その目は一切の遠慮を見せず、じっと彼女を見据えている。
まるで獲物を狙う狼のように、一つ一つの視線が「お前を喰ってやる」とでも言っているかのようだった。
佳奈は本能的に一歩後ろへ下がった。
「私はどの依頼人に対しても同じように接します。調査内容とあなたの話が一致しているか確認してからでないと、案件は受けません」
「そう?てっきり藤崎弁護士は俺に一目惚れでもしたのかと思ったよ。でもさ、自分に彼氏がいないこと、気にならない?前の旦那を忘れられないって陰で言われてるよ?それが君の将来に悪影響になるかもしれない。だったら、俺が最適な相手じゃない?」
俊介の前では、いつも心を見透かされているような感覚になる。
まるで心を読めるように、彼は佳奈の内心を理解してしまう。
佳奈はこの男が恐ろしいほど危険な存在に思えた。
彼女は落ち着いた様子で口元を少しだけ緩めた。
「今日の件は、ありがとうございました。今度ご飯でも奢りますわ。ちょっと用事があるから、先に失礼しますね」
そう言って佳奈は俊介にコートを返し、斗真の手を引いてパーティー会場を後にした。
急ぎ足で去っていく佳奈の背中を見送りながら、俊介の口元がほんの少しだけ持ち上がった。
彼はスマホを取り出し、一通のメッセージを送った。
【佳奈を24時間体制で護衛させろ】
車に乗り込んだ佳奈の胸は、まだどこかざわついていた。
この二年間、いろんな人間を見てきたが、ここまで取り乱しそうになったのは初めてだった。
この感覚は、智哉と一緒にいた頃を思い出させる。
斗真がエンジンをかけ、彼女の青ざめた顔をちらりと見て尋ねた。
「佳奈姉、大丈夫?」
佳奈は澄んだ瞳で彼の方を見た。
「ねえ、俊介って人、智哉に似てると思わない?」
斗真は眉をひそめた。
「姉さん、妄想癖でも出た?アイツと兄貴、顔も性格も全然違うじゃん。まさか、兄貴と重ねてんじゃないよね?」
「違う。ただ……なんとなく、似てる気がして。言葉にできないけど」
斗真は引き出しからイチゴ味のキャンディを取り出して手渡した。
「これ、姉さんの好きなやつ。一粒食べれば少しは気が紛れるでしょ?」
佳奈は一粒口に入れ、脳裏には俊介の顔が浮かんで離れなかった。
椅子の背にもたれ、目を閉じながらぽつり