佳奈は浴室から出ると、俊介が持ってきたご飯を迷うことなく手に取り、大口で食べ始めた。
俊介が仕掛けたこの死地をくぐるのがどれだけ危険でも、自分は必ず通らなければならない。
ヨーロッパの財閥グループを倒すなんて、彼女一人の力ではとても叶わない。
だからこそ、協力者が必要だった。
そして、ヨーロッパ全体の経済を牛耳る俊介は、まさに格好の盾となる存在だ。
彼女はずっと、俊介が二年前に黒風会に加入したことを疑っていた。
田森家の実力を考えれば、簡単に掌握できるような組織ではない。
たとえ、それが強大な黒風会であっても。
だからこそ、当時何か自分の知らない理由があったのかもしれないし、もしくは彼もまた同じ目的、つまり黒風会を倒すために動いているのかもしれない。
彼女が夢中でご飯を頬張る様子を見て、俊介の口元には満足げな笑みが浮かんでいた。
「どう?口に合うか?」
佳奈はずっと考え事をしていて、口に入れていたものが何かさえ気にしていなかった。
この瞬間になって初めて気づいた。弁当の中身はレストランのテイクアウトではなく、自家製のようだった。
少し驚いたように俊介を見つめる。
「あなたが作りました?」
俊介は軽くうなずいた。
「君は、俺の手料理を初めて食べた人だ。どう?俺の本気、伝わった?」
佳奈はふっと笑った。
「私の記憶が確かなら、田森坊ちゃんって昔彼女いましたよね?女の子を口説くとき、毎回同じセリフ使ってるんじゃありませんか?」
俊介は笑って返した。
「調査熱心だね。元カノのことまで調べてるとは……まさか、彼女の存在が気になって、俺の告白を断ろうとしてるの?」
「違います。私は恋愛にはいつだって真剣で、軽々しく始めたりしません」
「じゃあ、元旦那のことがまだ忘れられないのか?」
俊介の鋭い眼差しが佳奈を見つめ、その奥にある痛みが隠せなかった。
彼の拳も、無意識にぎゅっと握られていた。
佳奈はあっけらかんとした笑みを浮かべた。
「田森坊ちゃん、私が未練がましい女に見えます?私ね、何事も引きずるのが嫌いなの。別れたら、それで終わり。智哉とは、もう二度と戻ることはありません」
そう言いながら、心の奥では針で刺されるような痛みが走っていた。
智哉への気持ちは、ずっと胸の奥に秘めていた。
自分が彼の足を引っ張るような存在にはな