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Home / 恋愛 / 結婚は断るのに、辞職したら泣くなんて / 第573話

第573話

Author: 藤原 白乃介
佳奈は浴室から出ると、俊介が持ってきたご飯を迷うことなく手に取り、大口で食べ始めた。

俊介が仕掛けたこの死地をくぐるのがどれだけ危険でも、自分は必ず通らなければならない。

ヨーロッパの財閥グループを倒すなんて、彼女一人の力ではとても叶わない。

だからこそ、協力者が必要だった。

そして、ヨーロッパ全体の経済を牛耳る俊介は、まさに格好の盾となる存在だ。

彼女はずっと、俊介が二年前に黒風会に加入したことを疑っていた。

田森家の実力を考えれば、簡単に掌握できるような組織ではない。

たとえ、それが強大な黒風会であっても。

だからこそ、当時何か自分の知らない理由があったのかもしれないし、もしくは彼もまた同じ目的、つまり黒風会を倒すために動いているのかもしれない。

彼女が夢中でご飯を頬張る様子を見て、俊介の口元には満足げな笑みが浮かんでいた。

「どう?口に合うか?」

佳奈はずっと考え事をしていて、口に入れていたものが何かさえ気にしていなかった。

この瞬間になって初めて気づいた。弁当の中身はレストランのテイクアウトではなく、自家製のようだった。

少し驚いたように俊介を見つめる。

「あなたが作りました?」

俊介は軽くうなずいた。

「君は、俺の手料理を初めて食べた人だ。どう?俺の本気、伝わった?」

佳奈はふっと笑った。

「私の記憶が確かなら、田森坊ちゃんって昔彼女いましたよね?女の子を口説くとき、毎回同じセリフ使ってるんじゃありませんか?」

俊介は笑って返した。

「調査熱心だね。元カノのことまで調べてるとは……まさか、彼女の存在が気になって、俺の告白を断ろうとしてるの?」

「違います。私は恋愛にはいつだって真剣で、軽々しく始めたりしません」

「じゃあ、元旦那のことがまだ忘れられないのか?」

俊介の鋭い眼差しが佳奈を見つめ、その奥にある痛みが隠せなかった。

彼の拳も、無意識にぎゅっと握られていた。

佳奈はあっけらかんとした笑みを浮かべた。

「田森坊ちゃん、私が未練がましい女に見えます?私ね、何事も引きずるのが嫌いなの。別れたら、それで終わり。智哉とは、もう二度と戻ることはありません」

そう言いながら、心の奥では針で刺されるような痛みが走っていた。

智哉への気持ちは、ずっと胸の奥に秘めていた。

自分が彼の足を引っ張るような存在にはな
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