佳奈はすぐに俊介の手を放し、清司のもとへ駆け寄って、その手を握った。
「お父さん、私の声が聞こえるなら、指を動かしてみてください」
清司はその言葉を理解したかのように、指をかすかにくいっと動かした。
佳奈は感激のあまり目に涙を浮かべた。
「お父さん、必ず目を覚ましてください。まだお父さんに決めてもらわなきゃいけないことがたくさんあるの。藤崎家が、お父さんと裕子の娘を見つけたって……でも私、その子に財産を渡すべきか迷ってる。お父さんが目を覚ましてくれたら、どうすればいいか分かるのに……」
その言葉を聞いて、清司の眼球が再び動いた。
後ろで見ていた俊介は、佳奈の苦しむ様子に思わず胸が締めつけられるのを感じた。
だが、表情はあくまで穏やかな笑みを保った。
「信じるかどうかは別としてな、俺って昔から福の神なんだよ。俺が来た途端、お父さんが反応しただろ?藤崎弁護士、これはちょっと感謝されてもいいんじゃない?」
佳奈は少し疑わしげに睨んだ。
「何かお父さんに言いました?」
父はこれまでも指を動かすことはあったが、それはごく稀で、こんなふうに眼球まで動いて、しかも言葉に反応するなんてことはなかった。
俊介は肩をすくめて笑った。
「信じられないなら、ここにカメラがあるだろ?自分で確認してみなよ」
彼のあっけらかんとした態度に、佳奈も少し警戒を解いた。
「時間がある時、食事でもおごるわ」
「おっ、約束だな。この資料、一通り目を通しておいて。理解したら、次のステップについて相談しよう」
俊介は立ち上がり、机の上にあった弁当箱を片付けながら、佳奈に向かって眉を上げた。
「どうやら俺の作った料理、けっこう気に入ったみたいだね。これからもちょくちょく持ってくるよ。じゃ、またな」
そう言って、彼は佳奈に笑いかけ、部屋を出て行った。
車に乗り込むとすぐに、俊介は携帯を取り出し、ある番号に電話をかけた。
「どうだ?佳奈、承諾してくれたか?」と、電話の向こうから晴臣の声が聞こえる。
俊介は先ほどまでの淡々とした表情を崩し、目に隠しきれない痛みを浮かべた。
その声も、元の落ち着いたトーンに戻っていた。
「予想通りだった。佳奈はあの財閥グループのことを調べたがってる。俺が目的を持って近づいたって分かってるはずなのに、それでも協力を承諾してくれた……」
晴