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Home / 恋愛 / 結婚は断るのに、辞職したら泣くなんて / 第575話

第575話

Author: 藤原 白乃介
智哉はふっと笑って言った。

「そんな簡単な話じゃないよ。M国が欲しがってるのは、俺のチップ技術なんだ。俺が基礎データを渡しさえすれば、すぐにでも姉さんを解放するってわけ。でもな、その技術は俺が十年かけて開発したものだ。そんなもん、他人に横取りされてたまるか。この件は、もっと慎重に進めないと」

二人は現状を踏まえて、次の動きを打ち合わせた後、電話を切った。

智哉は車を走らせ、かつての別荘へと向かった。

だが、車からは降りなかった。遠くの路肩に駐車し、静かに目を向ける。

爆破で無惨に壊れた庭を見つめながら、胸の奥がツンと痛んだ。

ここには、佳奈とのたくさんの幸せな思い出が詰まっている。

二人はここで愛を育み、小さな命の誕生を、共に喜びながら待っていた。

あの頃は、すべてが眩しいくらいに美しかった。しかし、そんな日々は長くは続かなかった。

突然の悲劇が、すべてを壊した。

二年前のあの日のことを思い出すと、智哉の胸に重しがのしかかったような息苦しさが広がる。

ポケットからタバコを取り出し、火をつけて深く吸い込む。

廃墟と化した庭を見つめ、そしてスマホの画面に映る佳奈と佑くんの写真に目を落とすと、低くつぶやいた。

「佳奈、佑くん……もう少しだけ待っててくれ。必ず迎えに行くから……」

翌日。

佳奈はようやく眠りについたばかりだったが、突然の激しいノック音に起こされた。

ベッドから起き上がり、ドアを開けると、そこには満面の笑みを浮かべた美誠の顔があった。

彼女は中をのぞき込みながら言った。

「お姉ちゃん、お父さんを迎えに来たよ」

佳奈の表情が一気に冷たくなった。

「連れて行かせないわ。もうすぐ目を覚ますのよ」

美誠はくすっと笑った。

「もう二年も昏睡状態なんだよ?医者も可能性はないって言ってるし。まだそんな夢みたいなこと言ってるの?まさか、お金全部使い果たすまで手放したくないってわけ?」

佳奈は鋭い視線を向けて言い返した。

「たとえあなたが本当にお父さんの実の娘だったとしても、絶対に連れて行かせない。ましてや、その可能性すら疑わしいんだから」

「佳奈、あんた、ホントにしつこいね。私は裕子の実の娘って、もう確定してるの。何をごちゃごちゃ言ってんの?」

「私は弁護士よ。すべては証拠が
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