智哉はふっと笑って言った。
「そんな簡単な話じゃないよ。M国が欲しがってるのは、俺のチップ技術なんだ。俺が基礎データを渡しさえすれば、すぐにでも姉さんを解放するってわけ。でもな、その技術は俺が十年かけて開発したものだ。そんなもん、他人に横取りされてたまるか。この件は、もっと慎重に進めないと」
二人は現状を踏まえて、次の動きを打ち合わせた後、電話を切った。
智哉は車を走らせ、かつての別荘へと向かった。
だが、車からは降りなかった。遠くの路肩に駐車し、静かに目を向ける。
爆破で無惨に壊れた庭を見つめながら、胸の奥がツンと痛んだ。
ここには、佳奈とのたくさんの幸せな思い出が詰まっている。
二人はここで愛を育み、小さな命の誕生を、共に喜びながら待っていた。
あの頃は、すべてが眩しいくらいに美しかった。しかし、そんな日々は長くは続かなかった。
突然の悲劇が、すべてを壊した。
二年前のあの日のことを思い出すと、智哉の胸に重しがのしかかったような息苦しさが広がる。
ポケットからタバコを取り出し、火をつけて深く吸い込む。
廃墟と化した庭を見つめ、そしてスマホの画面に映る佳奈と佑くんの写真に目を落とすと、低くつぶやいた。
「佳奈、佑くん……もう少しだけ待っててくれ。必ず迎えに行くから……」
翌日。
佳奈はようやく眠りについたばかりだったが、突然の激しいノック音に起こされた。
ベッドから起き上がり、ドアを開けると、そこには満面の笑みを浮かべた美誠の顔があった。
彼女は中をのぞき込みながら言った。
「お姉ちゃん、お父さんを迎えに来たよ」
佳奈の表情が一気に冷たくなった。
「連れて行かせないわ。もうすぐ目を覚ますのよ」
美誠はくすっと笑った。
「もう二年も昏睡状態なんだよ?医者も可能性はないって言ってるし。まだそんな夢みたいなこと言ってるの?まさか、お金全部使い果たすまで手放したくないってわけ?」
佳奈は鋭い視線を向けて言い返した。
「たとえあなたが本当にお父さんの実の娘だったとしても、絶対に連れて行かせない。ましてや、その可能性すら疑わしいんだから」
「佳奈、あんた、ホントにしつこいね。私は裕子の実の娘って、もう確定してるの。何をごちゃごちゃ言ってんの?」
「私は弁護士よ。すべては証拠が