俺は、隠れていた木の後ろから飛び出し、萌果の名前を叫んでしまった。
サングラスを外して、キャップもずらす。
「えっ、うそ……藍!?どうしてここに!?」
俺だと分かった萌果が、驚きで目を丸くする。
「え、この人誰?」
夏樹も驚いたように、俺を見る。
「つーかアンタ、すげーカッコいいじゃん!萌果の知り合いか!?」
「俺の名前は、久住藍。萌果の……幼なじみだ」
本当は、萌果の恋人だってはっきり言いたいところだけど。萌果と交際していることが世間にバレるとまずいから、ここは我慢。
「えっ、久住藍ってもしかして……あの、モデルの!?」
夏樹に言い当てられ、俺はすぐにサングラスをかけ直す。
街中と比べて公園は人通りが少ないけど、念のため。
「すっげー!あたし、芸能人とか初めて見たよ」
夏樹が、興奮したように言う。
ていうか夏樹、今……自分のことを『あたし』って言ったよな?
「ねえ、藍。その格好どうしたの?もしかして、変装?めちゃくちゃ派手だね!」
俺を見て、萌果がクスクス笑う。
「いや、これは……」
「もしかして藍、私のことが心配できてくれたの?」
萌果がそっと、俺の手を握る。
優しい声に、胸がドキドキして。俺は思わず、萌果を軽く抱き寄せた。
「だって、男友達とのあんな仲良さそうな写真を見せられたら、俺……居ても立ってもいられなくなって。そのうえ、萌果が夏樹とキスしそうになってるのを見たら……」
「え、ちょっと待ってよ、藍。私、夏樹とキスなんてしてないよ?」
えっ!?
「ああ、萌果の言うとおり。萌果の前髪に虫がついていたから。驚かせないように、そっと取ろうとしただけだよ」
「ほんとに?」
「ああ。だから、アンタが思ってるようなことは何もないよ」
なんだ、そうだったのか。
「それに、夏樹は男の子じゃなくて、女の子だからね!?」
萌果が、呆れたように、だけど少しだけ怒ったような声でそう言った。
え、うそだろ!?
その言葉が、俺の頭の中に雷鳴のように響き渡る。
それじゃあ、さっきの『あたし』という一人称は、やはり聞き間違いではなかったのだ。
5時間にも及ぶ俺のドタバタ劇は、すべてこの誤解の上に成り立っていたのか……。
俺は、その場で全身から力が抜け、膝から崩れ落ちそうになった。
「そういうことだから。よろしく、藍くん!」
夏樹が、ケラケラ笑う。
まさか、夏樹が女だったなんて。俺のこの