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藤永ゆいか
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Novels by 藤永ゆいか

この度、元カレが義兄になりました

この度、元カレが義兄になりました

高校生の陽菜は、中学の頃に付き合っていた元カレ・伊月のことが今も忘れられないでいる。 ある日、陽菜の母が再婚することに。しかし、母の再婚相手との顔合わせの日に再婚相手と共にやって来たのはなんと、元カレの伊月だった! 親同士の再婚で、陽菜は伊月の家で暮らすことになるが、同居初日に陽菜は伊月から「親の前でだけ仲良くすれば良い」と言われてしまう。 それでも、陽菜がピンチのときには助けてくれたりと、何だかんだ優しい伊月に陽菜はますます惹かれていくけれど……。 「俺は陽菜のこと、妹だなんて思ったことない」 義兄になった元カレと、甘く切ないラブストーリー。
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Chapter: 第53話
「ねえ、伊月くん。今日のデートの記念に……良いでしょ?」私は、小首を傾げてみせる。「っ、そんなふうに可愛くされたら、嫌だなんて言えないだろ……」「えっ?」「いや……写真、良いよ。撮ろう」「ありがとう!」やっぱり、伊月くんは優しい!それから伊月くんとツーショット写真を何枚か撮って、私たちは再び園内をまわった。お化け屋敷に行ったり、メリーゴーランドでメルヘンの世界に浸ったりと、遊園地を思う存分に楽しんだ。そして、夜。帰る前に、観覧車に乗ろうということになった。観覧車の高度が上がっていくにつれ、眩しい夜景が広がっていく。「うわあ、キレイ!」有名な巨大観覧車というだけあって、見える景色も迫力がある。「……っ!」うっかり真下を見下ろしてしまい、その高さに足がすくんだ。「大丈夫だよ」伊月くんが、優しく肩を抱き寄せてくれる。狭い空間の中、隙間なくぴったり寄り添うと、伊月くんの爽やかな香りがふわっと漂って、距離の近さにドキッとした。「ねえ、伊月くん。今日は楽しかった。家族にも認めてもらって、こうやってデートができて……夢みたい」私は、伊月くんの肩に頭を預ける。「陽菜、俺もだよ。今日、陽菜と一緒にここに来られて本当に良かった」伊月くんが私の手を握り、目を細める。「陽菜……俺、あの頃、母さんが家を出て、家族が壊れたことをずっと引きずってた。父さんの笑顔が消えたのも、俺のせいなんじゃないかって思っていたときもあった」伊月くんの声が、少し震える。「でも、陽菜と暮らして、お前の笑顔や頑張る姿を見て、俺も変われた。父さんや翔子さんの幸せも、陽菜のおかげで守ることができたんだ」私は、伊月くんの頬に手を当てて微笑む。「伊月くん、私もだよ。中学の頃は自信がなくて、いつもビクビクしてた。でも、伊月くんと家族になって、あなたをもっと好きになって……メイクや勉強を頑張って。最近は、自分のことも好きになれた。伊月くんのおかげだよ」伊月くんが、私の額にそっとキスを落とす。「陽菜、好きだよ」「私も、伊月くんが大好き。これからもずっと、一緒にいようね」私たちのゴンドラがちょうど天辺に差し掛かり、自然と二人の唇が重なった。観覧車の窓の外には、キレイな星空が広がっている。遊園地のネオンも星空もきっと、私たちのことを祝福してくれている。そんなふうに思えた
Last Updated: 2025-07-22
Chapter: 第52話
両親に交際を認めてもらった、次の週末。私は、伊月くんと初めて“恋人としてのデート”に出かけることになった。行き先は、地元の遊園地。昔、お父さんが生きていた頃、お母さんとお父さんと三人で来た場所だ。遊園地の入り口は、色とりどりの風船や子どもたちの笑い声で賑わっている。「今日の陽菜、すげー可愛いんだけど」「えっ、ほんと!?」伊月くんに唐突に褒められ、思わず顔が赤面してしまうのを感じながら答える。︎︎︎︎︎︎今日の私は白のワンピースに、ナチュラルメイク。髪は、いとこで美容師の明里ちゃんにアドバイスをもらって、ハーフアップにしてみた。ちなみに伊月くんは、カジュアルなシャツにデニムというシンプルな格好だ。「い、伊月くんも……すごくかっこいいよ」「陽菜、もしかして緊張してる?」伊月くんが、私に手を差し出しながら笑う。「う、うん、ちょっとだけ。今日は、伊月くんとの初めてのデートだし……それに、世間の目とか少し気になるかなって……」正直に言うと、伊月くんがクスクス笑った。「陽菜は真面目だな。世間の目とか気にする必要ないよ。ここには俺らが義理の兄妹だってことを、知ってる人なんていないんだから。今日はめいっぱい楽しもう」ニコッと笑いかけてくれる伊月くんの顔は、まるで太陽みたいに眩しくて、私の不安を溶かしてくれる。「うん、そうだね!」私は彼の手をぎゅっと握り、遊園地の中へと駆け出した。◇最初に向かったのは、園内でも人気のジェットコースター。──プルルルル。発車のベルが鳴って、ジェットコースターが動き始めた。お父さんたちと来たときは、まだ幼稚園生で乗れなかったから。ここのジェットコースターに乗るのは、今日が初めての私。下から見ていたときは、そんなに高いと思わなかったけど。実際に乗って頂上に向かってみると、結構高いんだ……。私は、今になって少し怖気づいてしまう。「陽菜……もし怖いのなら、こうし
Last Updated: 2025-07-19
Chapter: 第51話
この沈黙が、私には永遠のように感じられて。やっぱり……伊月くんとのことは、許してもらえないのかな?と、不安でいっぱいになる。「陽菜、あなたがそんなに強い気持ちでいるなんて……お母さん、知らなかった。あの小さかった陽菜が……」ハッとして俯いていた顔を上げると、お母さんの目には涙が浮かんでいた。「父さん、俺も陽菜と同じ気持ちだ。いくら反対されても、俺たちの気持ちは絶対に変わらない。俺は、これからもずっと陽菜と一緒にいたいんだ」伊月くんの言葉に、光佑さんは静かにメガネをかけ直す。「そうか……伊月、お前がそんなふうに本気で話す姿は、初めて見たよ。伊月の気持ちは分かった。だけど、陽菜ちゃんを幸せにできるのか?世間からの目もあるし、そんなに簡単なことじゃないぞ」伊月くんの瞳が光った。「父さん……俺、陽菜を絶対に幸せにしてみせる。たとえ世間にどんな目で見られたとしても、陽菜の笑顔を守るために、俺はどんなことでもする」伊月くんの声には、かつての女性不信を乗り越えた強さが宿っていた。「あなたたちが、こんなにも真剣に、私たちに話してくれたこと。その勇気と、お互いを思いやる気持ちが、どれほど本物か……私にはちゃんと伝わったわ」お母さんの言葉に、光佑さんが微笑む。「伊月、陽菜ちゃん。君たちの気持ちが本物なら、父さんはもう反対はしない。だけど、ちゃんと責任を持って、二人で乗り越えてほしい。世間体よりも何よりも、君たちの幸せが一番大切だ」込み上げた涙の粒が、頬を滑り落ちた。「お母さん、光佑さん……ありがとう」伊月くんの手が、私の肩をそっと抱き寄せる。「父さん、翔子さん、ありがとう。俺、陽菜を絶対に幸せにするから」伊月くんの決意にお母さんが微笑み、ケーキを切り分ける。「それじゃあ、このケーキ、みんなで食べましょうか?家族みんなで、こうやって笑い合えるのが一番よね」「そうだな、翔子さんの言うとおりだ。陽菜ちゃん、伊月、これからも家族として、恋人として、ちゃんと支え合ってくれよ」「はいっ」私は伊月くんの手を握りしめ、笑顔で頷いた。リビングの窓から見える夜空には、星がキラキラと瞬いている。伊月くんと恋人になれたこと、家族に認めてもらえたこと……全部、夢みたい。でも、これからもっと彼と幸せになるために、私……頑張るよ。テーブルを囲む四人の笑い声が、リビ
Last Updated: 2025-07-16
Chapter: 第50話
「……」リビングは、水を打ったようにシンと静まり返る。お母さんの目は大きく見開かれ、光佑さんはメガネを外して額を押さえた。「……え。陽菜、伊月くんと付き合ってるってどういうこと?」お母さんの声は、震えていた。いつも優しいお母さんの顔が、こんなふうに硬くなるなんて……私の胸が、チクンと刺されたみたいに痛んだ。「そのままの意味だよ。私は中学生の頃から今もずっと、伊月くんのことが好きなの。最初は、妹として彼のそばにいられればいいって思ってたけど……やっぱり無理だった」涙が滲みそうになるのをこらえ、私は言葉を続ける。「最初はずっと黙っていようと思ってた。でも、お母さんも光佑さんも大切な家族だからこそ、ちゃんと話したかったの」伊月くんも、静かに口を開く。「父さん、翔子さん。俺も、陽菜のことが好きだ。妹としてじゃなく、これからは恋人としても陽菜を幸せにしたいと思ってる」彼の声は落ち着いていたけど、その瞳には揺るがない決意が宿っていた。「ちょっと待ってくれ」光佑さんが低く呟き、眉間に皺を寄せる。「陽菜ちゃん、伊月。君たちが……付き合ってる?こんな話、いくら何でも急すぎるよ。だって君たちは、義理の兄妹なんだぞ?」「そうよ。陽菜……血が繋がっていないとはいえ、あなたたちは兄妹なのに、恋人だなんて。世間にどう思われるか、考えたことある?」お母さんの声が鋭く響いた。「私たち家族が……バラバラになっちゃうかもしれないじゃない。陽菜、こんな大事なことを、どうして急に……」その言葉に、涙がこみ上げた。お母さんがそんなふうに言うなんて、想像していなかったわけじゃない。でも、実際に聞くと、心が締め付けられるように痛んだ。「お母さん……ごめん。でも、私……」言葉が詰まり、うつむいてしまった。涙が、ぽろりと膝に落ちる。「陽菜」伊月くんの手が、私の手をぎゅっと握り直す。その温もりが、今の私の唯一の支えだった。「父さん、翔
Last Updated: 2025-07-13
Chapter: 第49話
翌日の昼休み。教室の窓から差し込む陽光が、机の上をキラキラと照らしている。でも、私の周りだけどんよりと、少し空気が重い。「はあ……」「陽菜ーっ!ため息なんかついて、どうしたの?」お団子ヘアを揺らしながら、羽衣が私の席に駆け寄ってきた。「羽衣……実は、近いうちにお母さんと再婚相手の人に、伊月くんとの交際をカミングアウトしようと思ってて」「なるほど。それで元気がなかったんだ。最近の陽菜、すごく可愛くなったし。成績も上がって、色々と好調だから。きっと大丈夫だよ!」羽衣のくりっとした目が、私をまっすぐ見つめる。その笑顔に、胸のモヤモヤが少し軽くなった。◇放課後。体育館の扉からバスケ部の練習を覗くと、私に気づいた麻生さんがタオルを手に近づいてきた。「菊池さん!最近の佐野くん、絶好調よ。もうシュートがバンバン決まって……やっぱり、菊池さんがいつもそばにいてくれるからよね」麻生さんが、ウィンクをしながら笑う。「やっぱり、恋の力ってすごいのね」「麻生さん……ありがとう。私、伊月くんのバスケが大好きだから」「ふふ。そんなふうに言ってもらえて、佐野くんは幸せ者だね。これからも変わらず、佐野くんのことを支えてやってね!佐野くんには、菊池さんが必要だろうから」麻生さんの言葉に、胸が熱くなる。すぐそばのコートでは、伊月くんがボールを手にシュートを放つ。シュッと弧を描いたボールが、ゴールに吸い込まれていった。「おー!ナイス、佐野!」亜嵐くんの元気な声が響き、伊月くんが軽く手を上げる。その横顔を見ていたら、勇気が湧いてきた。羽衣や麻生さん、みんなが応援してくれてるから。その声に応えられるよう、怖気ずに頑張って両親に伊月くんとのことを話したい。◇それから数日後の週末。佐野家のリビングは、夕食後の穏やかな空気に包まれていた。窓の外では、夕暮れの空がオレンジから深い藍色に変わっていく。テーブルの上には、私と伊月くんが作ったチョコレート
Last Updated: 2025-07-11
Chapter: 第48話
こちらを見つめる伊月くんは、何かを決意したような、そんなふうに見える表情だ。「陽菜……お前にはまだ、昔のことはちゃんと話せてなかったよな?」「え?」「さっきは、取り乱して悪かった。これを、陽菜に見て欲しくて」伊月くんが私に渡してきたのは、少し色あせた古い便箋。「えっ、これ……私が読んでもいいの?」「ああ」私はさっそく、便箋に目を通す。︎︎︎︎『伊月へ。ダメな母親で、本当にごめんね。母さんは出ていくから、父さんと二人どうか幸せにね』えっ、母さんって……もしかしてこれ、伊月くんの実のお母さんからの手紙!?伊月くんの実のお母さんの話は、ほとんど聞いたことがなかったけど。うちみたいに死別とかじゃなく、お母さんが家を出て行ってたなんて……。「陽菜、俺……お前に昔のことを話したいんだけど、聞いてくれるか?」「うん、聞きたい」「それじゃあ、来て」伊月くんが部屋の中へと入り、腰かけたソファの隣をポンと叩く。「し、失礼します……」私も、彼の隣に腰をおろした。「俺の母親は、昔から男癖が悪くて。父さんと結婚してるのに、他の男とずっと浮気してたんだ。父さんが仕事でいないときは、家にもしょっちゅう男を連れ込んでてさ」私は黙って、伊月くんの話に耳を傾ける。「ある日、仕事が早く終わった父さんが昼間に帰宅して、母さんと浮気男が部屋で一緒に寝ているところに出くわしたんだ」光佑さんに、昔そんなことが……。そういうのって、ドラマや映画だけの話だと思ってた。「もちろん父さんは激怒して。それからすぐ母さんが家を出て、両親は離婚して……父さんはそれ以来、全然笑わなくなってしまって。家族が壊れたんだよ」伊月くんの顔が、苦しげに歪む。「そこからは、ずっと父さんと二人きり。母さんがいなくて寂しかったけど、辛そうな父さんを見てたら、そんなことはもちろん言えるわけなくて……」私は、震える伊月くんの手を取った。
Last Updated: 2025-07-09
意地悪なクラスメイトが、最近甘くて困ってます

意地悪なクラスメイトが、最近甘くて困ってます

希空の通う高校には、アイドル並みに人気の双子がいる。希空は優しい双子の兄・陸斗に片思い中で、意地悪な双子の弟・海斗のことは苦手に感じていた。 ところがある日をキッカケに、希空は海斗から甘く迫られるようになる。「あいつなんかやめて、俺のことを好きになれよ」海斗の突然の変化に戸惑う希空だったが、さらに陸斗からも「希空ちゃんだけは、誰にも渡したくない」と言われてしまい……。双子の男子たちとの、甘くて少し切ない三角関係の行方は……?
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Chapter: 第24話
「はぁ、はぁ……っ、海斗くん!」 廊下をしばらく走り続けて、ようやく海斗くんの後ろ姿が見えた。 「海斗くん、待って!」 「希空!?」 私に気づいた海斗くんが立ち止まり、驚いた顔でこちらへと振り返る。 「何しに来たんだよ。早く陸斗のところへ行けよ」 「ううん、行かない」 私は、首を何度も横に振る。 「ねぇ、海斗くん。さっきのテストのご褒美は、まだ有効?」 「あっ、ああ」 「だったら、頑張ったご褒美として私を……海斗くんの彼女にして欲しい」 「え?彼女って希空、何を言って……」 「私は、海斗くんのことが好きなの!」 私はそう言うと、海斗くんの制服のネクタイを引っ張り、彼の唇にキスをした。 「これで、信じてくれた?」 私が唇を離すと、海斗くんは目をパチパチとさせている。 「希空が、陸斗じゃなくて俺を好きだなんて……本当に?」 「うん」 「だって、お前はもう陸斗のもんだとばかり思ってたから。まさかこれ、夢とかじゃないよな?」 「夢じゃないよ。私は、誰よりも海斗くんのことが好き」 「ありがとう、希空」 私は、海斗くんにふわりと抱きしめられる。 「俺も、希空のことが誰よりも大好きだ。だから、希空……俺と付き合って」 「はい」 最初に海斗くんに告白されたときは、断ってしまったけれど。 私は今ようやく、彼の気持ちに応えることができた。 「つーか、希空。この前、平野たちにひどい目に遭わされたんだって?」 「えっ、どうしてそれを……」 「陸斗から聞いた。なんで俺にすぐ話してくれなかったんだよ」 「だって、心配かけたくなかったから……痛っ」 私は、海斗くんに頬を引っ張られる。 「だとしても、ちゃんと話して。これからは、隠し事はナシだからな?だって俺たち、今日からは彼氏と彼女だろ?」 海斗くんの“彼氏と彼女”という言葉に、胸が熱くなる。 「これから希空のことは、俺が守るから。大事な希空のこと、もう誰にも傷つけさせたりしねぇ」 「ありがとう。海斗くんがいてくれるって思うと、心強いよ」 海斗くんと私は、クラスメイトでもなく友達でもなく。今日からは、彼氏と彼女という特別な関係。 「なぁ、希空。さっきは不意打ちだったから、俺にもう一度キスして?」 「ええ!?」 あのときは、海斗くんに想いを伝えるのに必死だったから。 「
Last Updated: 2025-05-16
Chapter: 第23話
「おい、陸斗。何だよ、この間の返事って」 首を傾げた海斗くんが、陸斗くんに尋ねる。 「ああ……僕、希空ちゃんに告白したんだよ」 「は?告白!?」 海斗くんが、目を丸くする。 「……そうか。陸斗、希空に告白したのか」 少しの沈黙のあと、海斗くんがぽつりと呟く。 「良かったじゃん、希空。陸斗と両想いになれて」 海斗くん……? 「俺、希空に少しでも好きになってもらえるように頑張るって宣言してから、友達としてお前のそばにいたけど。いつだって希空の心には、陸斗がいたもんな」 海斗くんが、切なげに笑う。 「やっぱり希空には、自分が本当に好きな男と幸せになって欲しいから。邪魔者は、退散するわ」 そう言うと、海斗くんは私から背を背ける。 「これからはもう、希空と必要以上に関わったりしないから。希空、陸斗と幸せになれよ」 消え入りそうな声で言うと、海斗くんは早足で教室を出て行く。 海斗くん、『これからはもう、希空と必要以上に関わったりしない』って、そんなの嫌だよ。 私はこれからもずっと、海斗くんと一緒にいたいのに。 「海斗くん、待って……!」 私は、咄嗟に海斗くんを追いかけようとしたけれど。 「希空ちゃんっ!」 私は陸斗くんに、後ろから腕を掴まれてしまった。 「希空ちゃん、行かないで……」 陸斗くんが、後ろから私をぎゅうっと抱きしめてくる。 最低かもしれないけど。陸斗くんに抱きしめられている今でさえ、私の頭に浮かぶのは海斗くんの顔で。 私から背を背ける際に見えた海斗くんの泣きそうな顔が、頭にこびりついて離れない。 「海斗くん……っうう」 私の目には、涙が浮かぶ。 ここに来て、ようやく確信した。 私はやっぱり……海斗くんが好きなのだと。 私が辛いときいつもそばにいてくれた、優しい海斗くんのことが、いつの間にか私は大好きになっていたんだ。 「希空ちゃん?」 今になって、ようやく自分の気持ちに気づくなんて。 「あの。陸斗くん、私……」 陸斗くんに告白の返事をしようと思うと、緊張で声も手も震える。 もしかしたら、これで本当に陸斗くんとの関係は終わってしまうかもしれない。だけど、ちゃんと言わなくちゃ。私は、真っ直ぐ陸斗くんを見据える。「あのね、陸斗くん。私……海斗くんのことが好き。だから、陸斗くんとは付き合えない」「や
Last Updated: 2025-05-13
Chapter: 第22話
背中には嫌な汗が伝い、心臓の音がバクバクとうるさく響く。お願い。どうか、バレませんように。こんな、海斗くんに抱きしめられているところなんて見られたら……きっと、今まで以上に敵視されるのが目に見えてるもん。私はハラハラしながら、じっと息をひそめる。︎︎︎︎︎︎さすがの海斗くんも状況を察したのか、今は何もせずにじっとおとなしくしている。「あっ。教科書、やっぱり教室に置き忘れてたわ」ナホさんが、英語の教科書を机の中から取り出す。「教科書、あって良かったね。それじゃあ帰ろうか」二人の声と足音が、だんだんと遠ざかっていく。二人とも出て行った……?私たち、なんとかバレずに済んだの?「よし。大丈夫そうだな」海斗くんが私から離れ、カーテンを開ける。教室には私たち以外もう誰もいなくて、一気に緊張が解けた。「ああ、ドキドキした……」「ほんと、危なかったな」それだけ言うと、海斗くんは何事もなかったように席に戻る。あ、あれ。海斗くん、何だかもうスッカリいつも通り?さっきドキドキしていたのは、もしかして私だけだった?唇には、まだわずかにキスの余韻があって。先程まであんなにも彼と距離が近かったのに、今は遠くて。離れていった海斗くんの腕が、温もりが、なんだか無性に恋しい。海斗くん、もうキスはしてくれないのかな?だってさっきのキス、すごく良かったから……って、何を考えてるの私!これじゃあまるで……私が海斗くんのことを、意識してるみたいじゃない。「……っ」思い返してみれば、先程の海斗くんのあの少し強引なキスも全然嫌じゃなかったし。最近は海斗くんの笑顔を見ると、ドキドキすることも増えていた気がする。もしかして私、海斗くんのことを……?「おい、希空。何やってるんだよ。テスト、まだ残ってるぞ?」眉をひそめた海斗くんが、じっとこちらを見てくる。海斗くんに見られてると思うと、また鼓動が速くなる。これってやっぱり……?「テストちゃんと解かなきゃ、ご褒美は無しだからな?」「わっ、分かってる!」自分のなかでの違和感みたいなものを感じながら、私は海斗くんの向かいの席へと腰を下ろした。◇それから海斗くん手作りの確認テストを解き終わった私は今、海斗くんに採点してもらっている。「凄いな、希空。90点!頑張ったな」『90』と赤ペンで書かれた答案を私に
Last Updated: 2025-05-11
Chapter: 第21話
海斗くんに数学を教えてもらうようになって、何度目かの水曜日の放課後。 この日も誰もいない教室で、いつものように海斗くんと向かい合って座り、数学を教えてもらっていた。 「うん、正解。希空、最初の頃に比べたらだいぶ出来るようになったよな」 今日の授業で習った問題を全て正解した私に、海斗くんが微笑む。 「海斗くんが、いつも丁寧に教えてくれるお陰だよ」 「いや。一番は、希空が努力してるからだよ」 海斗くんが、私の頭をくしゃくしゃっと撫でてくれる。 海斗くんに褒めてもらえると嬉しくて、私は自然と頬が緩む。 「それじゃあ、希空。次はこれを解いてみて」 海斗くんに、1枚のプリントを渡される。 「これまでやったことが全部頭に入ってるか、復習も兼ねて確認のテストな」 どうやらこれは、海斗くんが作ったテストらしい。 「希空がちゃんとできたら、何かご褒美をやるよ」 「えっ、ご褒美!?」 ご褒美という言葉に、思わず反応してしまう私。 「それじゃあ、めっちゃ頑張るね!」 私は、テストに取り組み始める。 「ははっ。ご褒美目当てとか、ほんと分かりやすいヤツ」 海斗くんに言われたとおり、ご褒美が欲しいっていう気持ちも確かにあるけれど。一番は、海斗くんの笑顔が見たいから。 せっかく毎週水曜日、こうして海斗くんに勉強を教えてもらってるんだもん。 私が頑張ることで、海斗くんに喜んで欲しいって思うんだ。 私がしばらく、カリカリとシャーペンを走らせていると。 「教科書、もしかして教室に忘れたのかな」 誰かの声と複数の足音が、廊下の向こうから聞こえてきた。 「ナホ、確か明日の英語の授業で先生から指名されてたわよね?」 えっ。この声は……平野さん!? ナホさんは、先日平野さんと一緒に私を体育館裏へと連れて行った女子の一人だ。 「そうなの。だから、教科書がないと困るなって思って。ごめんね、マナに付き合わせちゃって」 マナは平野さんの名前だから、やっぱり……! ナホさんの忘れ物を、二人で教室まで取りに来たんだ。 海斗くんといるところを、あの二人に見られたらまずい。 「海斗くん、ごめん。ちょっと立って、一緒にこっちに来て」 「希空!?」 私は海斗くんの腕を掴んで立ち上がると、教室の隅へと移動する。 私は海斗くんを窓辺へと連れて来ると、急いでカーテン
Last Updated: 2025-05-09
Chapter: 第20話
数日後の朝。「希空ちゃん、おはよう」「おはよう、陸斗くん」陸斗くんに告白されてからというもの、朝学校で会うと、陸斗くんは今まで以上に私に声をかけてくれるようになった。「希空ちゃん、今日も可愛いね」「……っ、ありがと」陸斗くんの甘い言葉に、朝から頬が熱くなってしまう私。「希空、うっす」「あっ、おはよう。海斗くん」自分の教室に行くと、今度は後ろの席の海斗くんが挨拶してくれる。「あれ。希空お前、なんか顔赤くね?」「え?」海斗くんが私の前髪を手でかきあげると、おでこを近づけてきた。コツンと彼のおでこが当たり、心音が大きくなる。「うーん。熱はなさそうだな」海斗くんの吐息が鼻先をかすめて、ドキドキする。う。これは朝から心臓に悪い……。「あっ、あの、海斗くん。ここ教室……」「……あ」私の声に、ハッと我に返った様子の海斗くん。「わ、悪い!俺、希空が気になって。つい無意識で……」頬をわずかに赤らめた海斗くんが、私から慌てておでこを離した。ああ、ドキドキした。私が席に着くと、ふと視線を感じたのでそちらに目をやると。平野さんをはじめとする海斗くんファンの女子たちが、鋭い目つきで私を睨んでいた。ひいっ。こ、怖い。この間の体育館裏でのことを思い出した私は、身震いしてしまう。平野さんたちに、このまま睨まれ続けるのは嫌だけど。それでもやっぱり私は、海斗くんとこれからも仲良くしたい。できれば、陸斗くんとも……。そう思うのは、我儘なのかな?ああ、でもいずれは、どちらかの告白を断らないといけないんだよね。二人と、ずっとこのままの関係でいられたら良いのに。双子とこれからも仲良く友達でいられたなら、陸斗くんも海斗くんも、どちらも傷つけずに済むのに……。◇どっちつかずのままそれから1週間が過ぎ、6月に突入。「小嶋!」「はい」今日の数学の授業では、5月末に行われた1学期の中間テストの答案用紙が返却された。「うわ、42点」赤ペンで書かれた点数を見て、私は肩を落とす。「小嶋。次の期末試験で赤点とったらお前、夏休みは確実に補習だからな?」「はい……」私は数学が大の苦手だけど、夏休みの補習だけは何としても避けたいのに。「希空?なんか元気ないな?」私が落ち込みながら教卓から自分の席に戻ったからか、後ろの席の海斗くんが心配そうに声をか
Last Updated: 2025-05-07
Chapter: 第19話
「陸斗くん、こんなときに冗談はやめて」「冗談じゃない。僕は、希空ちゃんが好き」「……っ」こちらを見据える陸斗くんの目は、真剣そのもので。さっきから、胸が苦しいくらいにドクドクする。「僕は、弟と好きな子がかぶるのも嫌だったし。昔から親に口癖のように『陸斗はお兄ちゃんなんだから。海斗に譲ってあげなさい』って言われて育ったから。海斗の兄として、希空ちゃんのことも弟に譲ろうと思った……でも、無理だった」陸斗くんの手が、私の頬に添えられる。「希空ちゃんが海斗と一緒にいるところを見る度に、胸がモヤモヤして。ああ、やっぱり僕は希空ちゃんが好きなんだと改めて思った」「陸斗く……」「一度振ったくせに、希空ちゃんのことを好きって言うなんて。自分でも勝手だなって分かってる。でもやっぱり僕、希空ちゃんだけは誰にも渡したくない」陸斗くんと、再び目が合う。「希空ちゃん。僕と、付き合ってください」「……っ」陸斗くんにこう言ってもらえる日を、これまで何度夢見たことだろう。1年以上片想いしていた陸斗くんに告白されて、嬉しいはずなのに。このとき、私の頭の中にはなぜか海斗くんの顔が浮かんだ。去年までの私なら、一度陸斗くんに振られていたとしても、迷わずすぐにOKしたんだろうけど……。『おい、希空。帰ろうぜ』最近私のなかで、海斗くんという存在が以前よりも大きくなってきているのは確かだ。今は、陸斗くんの告白を素直に喜べない。「……っ」「返事は、今すぐじゃなくて良いよ」私が黙り込んでしまったからか、陸斗くんがそう言ってくれる。「一度振られた相手にいきなり好きだと言われても、希空ちゃんも困っちゃうよね。ごめん」それから陸斗くんは、私の怪我の手当の続きをしてくれた。「はい、おしまい」消毒した手のひらに陸斗くんが絆創膏を貼ってくれて、手当は終了した。「怪我、早く治ると良いね」陸斗くんが私の手を持ち上げると、絆創膏の上から軽くキスを落とした。「へ。陸斗くん!?」「希空ちゃんの怪我が早く治るように、おまじないだよ。本音を言うなら、こっちにキスしたいんだけど……」陸斗くんの人差し指が、私の唇にちょんと触れる。「今日は、ここで我慢しておくね」そう言うと陸斗くんは、今度は私の手の甲にチュッと口づけた。なんだろう。告白された途端、陸斗くんが急に甘い気がする。
Last Updated: 2025-05-05
トップモデルの幼なじみと、ひみつの関係

トップモデルの幼なじみと、ひみつの関係

長年の恋人に裏切られ、夢も居場所も一瞬で失った大学生の寧々。 絶望のどん底にいた彼女の前に現れたのは……幼なじみで人気モデルの神崎律だった。 「もし良かったら、一緒に住むか?」 律の突然の提案とともに、寧々は都心の超高級マンションへ。そこで始まったのは、誰にも秘密の同居生活。 完璧な優しさ、独占するような視線、触れたら戻れなくなる距離感……。 けれど、律の瞳の奥に隠されていたのは、昔から寧々にだけ向けられた、甘く危険な執着だった。 「大丈夫だ、寧々。これからは、俺がいるから」 二人の幼なじみが織りなす、甘く切ない再会の物語──。
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Chapter: 第16話
律の言葉の真意を探ろうと、私はゆっくりと顔を上げた。彼の眼差しは、真剣でどこか切ない光を宿している。「あの頃から、俺はずっと寧々を見ていた。寧々が辛いとき、俺はいつもそばにいたかったんだ」律の言葉は、私の胸に静かに染み込んだ。だけど、これは幼なじみとしての優しさだ。そう自分に言い聞かせるも、私の鼓動は早まるばかりだった。思い返せば律は、いつだって私のことを肯定してくれた。幼稚園でみんなの輪に入れずに一人でいたときも、小学校の運動会で転んだときも、律はいつも私に手を差し伸べてくれた。その大きな手が今、私の髪を撫でている。昔と変わらない優しさと、昔にはなかった熱を帯びたその手のひらに、私は戸惑いながらも、抗えない安らぎを感じていた。この心地よい関係は、本当にこのままの形でいて良いのだろうか。私は、律の眼差しに吸い込まれるように、じっと彼を見つめ返した。「……っ、どうして……」私は思わず、彼の言葉の真意を尋ねようと口を開いた。すると、律は静かに視線を逸らし、ぽつりと呟いた。「高校のとき、寧々と拓哉の姿を見て、どうしようもない気持ちになったことがあるんだ」律の言葉に、私の心臓が凍りついた。【律side】高校時代、寧々と拓哉の姿を見るたびに、俺の胸は鉛のように重くなった。高校2年の夏。廊下を歩く俺の耳は、教室の賑わいの中、いつもあいつの声を探していた。寧々……。「ねえ、拓哉。今日の数学の宿題で分からないところがあるんだけど……教えてくれない?」「いいよ、寧々。一緒にやろうか」拓哉の隣で楽しそうに話す寧々の姿を見つけ、俺は立ち止まった。寧々がニッコリと笑うたび、俺の胸はぎゅっと締めつけられる。息が詰まるような苦しさが、肺の奥からこみ上げてきた。楽しそうに笑う寧々の横で、拓哉が俺のほうをちらりと見て、にやりと笑う。「……っ!」その挑発的な態度に、俺は無意識に拳を握り
Last Updated: 2025-09-17
Chapter: 第15話
「り、律……?」ドキドキしながら、私は律に尋ねる。「ああ、ごめん。寧々」律の長い指が、私の唇からすっと離れた。その指先には、赤いソースがほんの少しだけついている。「寧々の口に、トマトソースがついてたから」そう言って律は、私の口元から取った赤いソースを、まるで何事もなかったかのようにペロッと舐めた。「……っ!」彼のまさかの行動に、私の思考は完全に停止した。信じられない、という気持ちと、胸の奥がじんわりと熱くなる感覚。そして、まるで心臓を直接握りしめられたかのような、甘い衝撃が全身を駆け巡った。顔も熱くなり、まるで全身の血液が沸騰したみたいだった。動揺を隠しきれず、私は言葉を失う。「ははっ。これくらいで、顔を赤くするなんて。ほんと可愛いなあ、寧々は」律は楽しそうに笑い、私のお皿に鶏肉を一つ乗せた。「ほら。料理、冷めないうちに早く食べよう」「う、うん……」律の笑顔に、私の心はまたもや大きく揺さぶられた。食事が進むにつれ、私の緊張は少しずつ解けていった。律は今日の仕事の話や、他愛ない昔話をしてくれる。「律は、モデルのお仕事、楽しい?」「楽しい、かな。でも、疲れるときもあるよ。そういうときは、不思議と寧々の顔が浮かんでくるんだ」「え……?」「寧々が昔、俺にくれた手紙にも書いてあっただろ?『律は律のままで十分だよ』って。あの言葉に、何度も救われたんだ」そうだったんだ。律の言葉に、胸の奥が温かくなる。彼の優しい眼差しに、心が解き放たれていくのを感じた。「そういえば、あの神社の裏の……大きな折れた木があった場所って、まだあるのかな?」「ああ、もしかして秘密基地?懐かしいね!小学生の頃、律と一緒によく遊んだ場所だ。雨の日も風の日も、あそこでコソコソお菓子を食べたり、漫画を回し読みしたりしたよね」幼い頃を思い出し、自然と笑みがこぼれる。私たちは、たちまち中学・高校時代の懐かしい思い出話に花を咲かせた。律が学校の体育祭では、いつもヒーローだったこと。女子にモテモテだったことや、二人の共通の知人の話……律と他愛ない会話で笑い合う時間は、心地よくて心が安らいだ。「律って、昔から足が速かったよね。体育祭でいつもダントツの1位だったし。かっこよかったなあ」私が笑いながら言うと、律はくすりと笑い、そっと私の頬に触れた。「俺は、図書室で静かに
Last Updated: 2025-09-15
Chapter: 第14話
彼らのことは、もうどうでもいいはずなのに。未練なんて、ないはずなのに。二人の姿を見るだけで傷つき、そして気になるなんて……。未だ過去に囚われている自分に、嫌気がさした。***昼休み。大学のカフェテリアは、多くの学生たちの話し声で賑わっている。私が窓際の席で一人、カルボナーラを頬張っていると。私の席の近くで、何人かの女子学生が楽しそうにスマートフォンの画面を覗いているのが目についた。カフェテリアの喧騒が、遠いBGMのように聞こえてくる。その中に、私の心をざわつかせる声が混じっていた。「ねぇ、見た?律くんの新しい雑誌の表紙!今回の髪型も最高すぎない?」「わかる〜!やばいよね、リアル王子様じゃん!写真集とか出ないかな?」「ほんと、なんであんなに完璧なの?拝みたいレベル!」耳に届いた彼女たちの会話に、私の肩がビクッと跳ねた。まさか、大学で律の話題が出るとは思わず、私は持っていたフォークを落としそうになる。慌てて周囲を見回すものの、誰も私のほうを見てはいない。ドキドキするのを感じながら、私は体勢を整える。家に一緒に住んでいると、つい忘れがちだけれど。律は有名人なんだな。彼女たちが話す『律くん』は、私の知っている律とあまりにもかけ離れていた。彼らは、雑誌やテレビの中の、手の届かない完璧な王子様しか知らない。私は、あの子たちの知らない、無防備な寝顔や、料理をする真剣な横顔を知っている。彼が私の隣で優しく微笑んでくれることは、私だけの特権であるかのようにも思えた。……だけど、そんなささやかな優越感は、すぐに不安へと変わる。彼女たちの楽しそうな声が、遠い世界から聞こえてくるようだ。「私たち、住む世界が違うんだ……」そう、私と律は住む世界が違う。同時にそのことを、改めて痛感した。彼は手の届かない太陽で、私は暗い影の中でこそこそと生きている。律とのこの秘密の関係は、いつまで続くのだろう。いつか、私の存在が彼を苦しめることになるのでは……?そんな不安が、胸をぎゅっと締めつけた。***「ただいま」私が大学から帰ると、律のマンションには彼の温かい気配が満ちていた。「おかえり、寧々。夕飯、もうすぐできるからな」キッチンに立つ律が、こちらを見て微笑んでくれる。その手には、慣れた様子で玉ねぎを刻む包丁が握られていた。「うん。ありがとう」
Last Updated: 2025-09-13
Chapter: 第13話
拓哉との婚約破棄、そして律との秘密の同居生活が始まって、早くも一週間が経とうとしていた。やっぱり、このままじゃダメだ。律の完璧な気遣いが隅々まで行き届いた部屋は、あまりにも快適だった。けれど、その居心地の良さは、同時に私の心を蝕んでいく甘い毒のようにも感じられた。このまま彼の庇護のもとで安穏と暮らしていては、私は本当にダメになってしまう。そう強く感じた私は、春学期が始まってしばらく休んでいた大学へ、再び向かうことを決意した。「寧々、どこか行くのか?」服を着替え、身支度を整えて玄関に向かうと、リビングから律が声をかけてきた。「うん。大学に行こうと思って」律は持っていたマグカップをそっとテーブルに置き、私を真っ直ぐ見つめる。その瞳の奥に、何かを試すような光が宿っているように感じられた。「そっか……あのさ、分かってくれていると思うけど……」ああ、たぶん、律と決めた同居のルールのことだな。私は律の言葉を遮り、彼の不安を打ち消すように答えた。「うん。私がここで律と暮らしていることは、絶対に誰にも言わないよ。もちろん、大学の友達にも、家族にも。それから、ここへは誰も連れ込まないから」私の言葉に、律の表情がふっと緩む。安堵したような、それでいてどこか満足げな微笑みが、彼の口元に浮かんだ。「ありがとう。分かってくれているなら良いんだ。大学、頑張ってな」「うん。それじゃあ、いってきます」「いってらっしゃい」律に見送られながら、私は家を出た。ドアが閉まる音を聞くと、ようやく緊張の糸が少しだけ緩んだ。マンションを出る際は、周囲に不審な視線がないか細心の注意を払った。律との生活と、いつもの大学での日常。この二つの世界は、私の心の中にだけ存在する秘密の橋で繋がっていた。そして、その橋はあまりにも脆く、今にも崩れ落ちそうな気がした。電車を乗り継ぎ、大学の最寄り駅に降り立つ。見慣れた景色、学生たちの活気ある声。懐かしさに安堵する一方、この日常に嘘をついていることへの罪悪感が胸に広がった。「あっ、寧々!久しぶりー!最近、大学で見かけないから心配してたんだよ〜」校門をくぐると、後ろから明るい声が聞こえた。振り返ると、金髪のショートボブが似合う友人の斉藤彩乃が、満面の笑みで駆け寄ってくる。隣には、サラサラのセミロングヘアが特徴の、おっとりとした田原
Last Updated: 2025-09-11
Chapter: 第12話
「拓哉くん……?」奥の部屋から足音が聞こえ、山下莉緒がリビングに入ってきた。彼女の顔は、拓哉と私という異様な光景に、一瞬にして凍りついた。けれど、その表情はすぐに、不機嫌そうなものへと変わる。私をじろじろと見つめ、口元をわずかに歪めた。「ねえ、拓哉くん。もしかして、まだこの子と連絡なんて取っていたの?」そう言って、山下さんは拓哉の腕を、まるで自分のもののようにギュッと掴んだ。その仕草が、私の中で最後の糸を断ち切った。私は拓哉と山下さんを交互に一瞥し、静かに、けれど冷たい声で呟いた。「あなたたちがどうなろうと、私にはもう関係ない」「……っ」山下さんは、悔しそうに唇を噛みしめた。拓哉は呆然と立ち尽くし、彼女たちの間に流れる空気に、私はわずかな満足感を覚えた。「この先、二度と私の前には現れないで」ここには、私の居場所なんてない。もう、何の未練もなかった。私は、真っ直ぐアパートのドアに向かって歩き出す。「ね……っ」拓哉は何かを言いたそうに口を開きかけたが、結局何も言わなかった。彼の背中には、もうかつての輝きはなかった。ドアを開け、一歩外に出る。冷たい夜風が、私の頬を優しく撫でた。私は、もう二度とこの場所に戻ることはないだろう。そう、心に誓った……そのときだった。「寧々」アパートの前に、マスク姿の律が立っていた。心配そうな顔で、まっすぐ私を見つめている。「り、つ……」彼の姿を見た瞬間、張り詰めていた感情の糸がプツリと切れ、私の目からは大粒の涙が溢れ出す。律は何も言わず、ただ静かに私を抱きしめてくれた。その温かい腕の中で、私は声を上げて泣いた。「……っうう」この涙は、悲しみの涙だけではなかった。裏切りへの怒りでも、過去への未練でもない。それは、ようやく過去に区切りをつけ、自分の足で未来へ踏み出すことを決めた、私自身の決意の涙だった。「ありがとう、律……」律の腕の中で、私はそっと呟く。律は黙ったまま、私の頭をポンポンと優しくなでてくれた。そして、抱きしめる腕に少しだけ力を込める。「寧々が戻ってくるまで、ここにいたかったんだ。君が、一人で泣きながら出てこないように……」彼の低い声が、私の耳元で響く。その言葉に、胸が締めつけられた。律は、私のことを信じて、ずっと待っていてくれたんだ。これまでの人生で、誰かが私のためだけ
Last Updated: 2025-09-09
Chapter: 第11話
「律、あのね、私、拓哉と会ってこようと思う」律は読んでいた雑誌から顔を上げ、静かに私の目を見つめた。彼の表情はいつも通り穏やかだったけれど、その瞳の奥には、どこか緊張の色が見える気がした。「そうか。話してくるのか」律は、それ以上何も聞かなかった。ただ、彼の視線が「頑張れ」と語りかけているように感じられ、私の胸に温かい勇気が湧き上がった。私は意を決し、3日ぶりに拓哉と同棲していたアパートへと向かった。日が暮れた街の喧騒が遠く聞こえる。見慣れたアパートの前に立つと、胸の奥が締めつけられるように痛んだ。この場所が、かつて私にとっての「家」だった。温かさと安心感の象徴だった。インターホンを押す手が震える。数コール後、玄関のドアが開き、拓哉が顔を出した。「えっ、寧々!?どうしたんだよ、急に……!」彼の声には驚きと、かすかな安堵が混じっているように聞こえた。私が家を出てから一度も連絡はしていなかったから、戸惑うのも無理はないだろう。拓哉の背後から、見慣れない女性物の靴が視界に入った。華奢なハイヒールは、まるでモデルが履くような、見慣れないデザインだった。……彼女の靴が、なぜここにあるのだろう。怒りよりも、全てを悟った諦念が胸に広がった。私の心は、冷たい氷に包まれたようだった。「拓哉に話があるんだけど……中に入れてくれる?」私の声は、思いのほか冷静だった。拓哉は一瞬ひるんだように見えたものの、観念したようにドアを大きく開けた。リビングに入ると、漂ってきたのは、私の好きな香水とは違う、甘ったるい化粧品の匂いだった。見覚えのないマグカップや、ファンシーなポーチが散乱している。私の出て行った部屋は、すでに別の誰かの生活の痕跡で満たされていた。「何よ、これ……」私のつぶやきに、拓哉は気まずそうに目を泳がせている。私のクッションはソファの隅に押しやられ、テーブルの上には見慣れない漫画雑誌が広げられている。私が部屋を出てから、たったの3日。まるで最初から私がこの場所にいなかったかのように、彼の生活は別の誰かで彩られていた。私は、手のひらをきつく握りしめる。「寧々、違うんだ。俺、あの日はその、海人たちとちょっと……」「言い訳なんて聞きたくない」私は、拓哉の言葉を遮った。もう、彼の嘘を聞くのは懲り懲りだった。『飲み会に行ってた』『研究室に
Last Updated: 2025-09-07
芸能人の幼なじみと、ナイショで同居しています

芸能人の幼なじみと、ナイショで同居しています

萌果は小学生の頃、弟のように可愛がっていた幼なじみの藍に告白されるも、振ってしまう。 その後、萌果は父の転勤で九州に引っ越すが、高校2年生の春、再び東京に戻ってくる。 萌果は家の都合でしばらくの間、幼なじみの藍の家で同居することになるが、5年ぶりに再会した藍はイケメンに成長し、超人気モデルになっていた。 再会早々に萌果は藍にキスをされ、今も萌果のことが好きだと告白される。 さらに「絶対に俺のこと、好きにさせてみせるから」と宣言されて……? 「ねえ、萌果ちゃん。俺も男だってこと、ちゃんと分かってる?」  芸能人の幼なじみと、秘密の同居ラブストーリー。
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Chapter: 番外編③〈第4話〉
俺は、隠れていた木の後ろから飛び出し、萌果の名前を叫んでしまった。サングラスを外して、キャップもずらす。「えっ、うそ……藍!?どうしてここに!?」俺だと分かった萌果が、驚きで目を丸くする。「え、この人誰?」夏樹も驚いたように、俺を見る。「つーかアンタ、すげーカッコいいじゃん!萌果の知り合いか!?」「俺の名前は、久住藍。萌果の……幼なじみだ」本当は、萌果の恋人だってはっきり言いたいところだけど。萌果と交際していることが世間にバレるとまずいから、ここは我慢。「えっ、久住藍ってもしかして……あの、モデルの!?」夏樹に言い当てられ、俺はすぐにサングラスをかけ直す。街中と比べて公園は人通りが少ないけど、念のため。「すっげー!あたし、芸能人とか初めて見たよ」夏樹が、興奮したように言う。ていうか夏樹、今……自分のことを『あたし』って言ったよな?「ねえ、藍。その格好どうしたの?もしかして、変装?めちゃくちゃ派手だね!」俺を見て、萌果がクスクス笑う。「いや、これは……」「もしかして藍、私のことが心配できてくれたの?」萌果がそっと、俺の手を握る。優しい声に、胸がドキドキして。俺は思わず、萌果を軽く抱き寄せた。「だって、男友達とのあんな仲良さそうな写真を見せられたら、俺……居ても立ってもいられなくなって。そのうえ、萌果が夏樹とキスしそうになってるのを見たら……」「え、ちょっと待ってよ、藍。私、夏樹とキスなんてしてないよ?」えっ!?「ああ、萌果の言うとおり。萌果の前髪に虫がついていたから。驚かせないように、そっと取ろうとしただけだよ」「ほんとに?」「ああ。だから、アンタが思ってるようなことは何もないよ」なんだ、そうだったのか。「それに、夏樹は男の子じゃなくて、女の子だからね!?」萌果が、呆れたように、だけど少しだけ怒ったような声でそう言った。え、うそだろ!?その言葉が、俺の頭の中に雷鳴のように響き渡る。それじゃあ、さっきの『あたし』という一人称は、やはり聞き間違いではなかったのだ。5時間にも及ぶ俺のドタバタ劇は、すべてこの誤解の上に成り立っていたのか……。俺は、その場で全身から力が抜け、膝から崩れ落ちそうになった。「そういうことだから。よろしく、藍くん!」夏樹が、ケラケラ笑う。まさか、夏樹が女だったなんて。俺のこの
Last Updated: 2025-06-24
Chapter: 番外編③〈第3話〉
【萌果side】オシャレなカフェで、久しぶりに会った友達とティータイム中の私。白いテーブルクロスに、カラフルなカップが映える店内。窓の外では、新緑の街路樹が、初夏の風に揺れている。夏樹とは数か月ぶりに会ったけど、やっぱり気心の知れた友達とのおしゃべりは最高に楽しい。福岡に住んでいた頃、カラオケで熱唱したり、部活の帰りに一緒にコンビニでアイスを買って食べた思い出がよみがえる。「なあ、萌果。最近どう?もしかして、彼氏とかできた?」 夏樹が、アイスティーを豪快に飲み干してニヤニヤ。「えっ!」『彼氏』というワードに、肩が跳ねる。「ええっと……うん。実は、最近できたんだよね……彼氏」答えながら照れくさくなって、私はうつむく。「やっぱり!なあ、どんなヤツ?」人気モデルの久住藍が、私の幼なじみだってことは、夏樹はもちろん知らない。藍のこと、できれば夏樹にも話したいけど……。藍は芸能人だから、いくら友達が相手でも詳しくは話せないよね。今ここで、藍の名前を言えないのは辛いけど。彼のあの笑顔を思い出すだけで、胸が温かくなる。「えっと、彼氏は、同じ高校の同級生なんだけど……ごめん。相手のこと、今は詳しくは言えなくて」藍の所属事務所の社長さんに会ったときも、藍との交際は絶対に世間にはバレないようにしてって言われたし。「そっか……。まあ、相手がどんなヤツかは分からなくても、萌果が幸せだってことだけは分かるから」夏樹……。「今の萌果、本当にいい顔してるよ。あんたが東京に行っちまうって聞いたときは、心配だったけど。萌果がそういう人に出会えたって、今日分かっただけでも良かったよ」夏樹が、私に優しく微笑んでくれる。夏樹は中学の頃から、いつも面倒見のいい子で、頼りがいがあって。友達みんなのお姉さんのような、お兄さんのような……そんな子だった。「ありがとう、夏樹。いつか彼氏のこと、紹介できる日がきたら、そのときは夏樹にも紹介させてね」「ああ」夏樹にお礼を伝えたそのとき。ふと、背筋にぞくり、と冷たいものが走るような視線を感じた。「えっ?」思わず、そちらに目を向ける。そして、その視線の主を見た瞬間、私は思わず息をのんだ。だって、窓際の隅の席に座っていたのは、あまりにも派手なアロハシャツを着た男の人で、こちらを食い入るようにじっと見つめていたのだから。
Last Updated: 2025-06-23
Chapter: 番外編③〈第2話〉
思い立った俺は急いで2階に行き、母さんのクローゼットからブルーと白のアロハシャツを引っ張り出す。これは母さんが昔、父さんと新婚旅行でハワイに行ったとき、旅の記念に買ったものらしい。アロハシャツは正直、派手でダサいけど……これも変装のためだ。デニムを履き、サングラスとキャップをして……シャツの裾を軽く結んで、なんとか自分らしく。着替えを終え、鏡に映る自分を見た俺は、思わず苦笑。やべぇ。この格好、めちゃくちゃ派手だな。まあ、モデルの久住藍がまさかこんな格好で街を出歩いているなんて、誰も思わないだろうし。萌果やファンの子たちに、バレなきゃいいんだ。そう自分に言い聞かせると、俺はサンダルを履いて走って家を出た。◇自宅の最寄り駅から電車に揺られ、3駅先の街へとやってきた。俺は萌果にバレないよう距離をとり、彼女の後ろ姿を遠目に追う。夏樹とはどうやら駅前で待ち合わせらしく、萌果が噴水の前に立つ。ふわりと風が吹き、萌果のミディスカートの裾がなびく。噴水の前を通り過ぎる人たち……特に若い男が萌果のほうをチラチラと見ていくのは、気のせいだろうか。「萌果!」声がしてそちらに目をやると、短髪の奴が萌果に向かって手を振っている。あの子が……夏樹か。夏樹は黒の半袖シャツに、ライトグレーのチノパンに白のスニーカー。肩に小さめのリュックをかけ直しながら、低い声で笑う。うん。夏樹は高身長で、見た目からしても男っぽいし……やっぱり間違いないな。「夏樹!」萌果が弾けるような声で夏樹の名を呼び、迷いなくタタタッと駆け寄る。そして、夏樹の胸に飛び込むように、思いきり抱きついた──。その光景に、俺の心臓はドクンと大きく跳ねる。はああ!?抱きつくって!?まるで殴られたような衝撃に、俺はグラリとよろめく。萌果が、俺以外の男に、あんな風に抱きつくなんて……信じられない。まだデートの序盤だというのに、すでに胸がキリキリと痛む。目の前の光景が、鈍い痛みを伴って俺の心を蝕んでいくようだった。そうこうしているうちに、二人が近くのカフェに入るのが見えた。俺もコソコソと後ろからついていき、窓際の隅の席に腰かける。淹れたてのコーヒーの香ばしい匂いが、俺の鼻をくすぐる。俺は一息つくと、サングラスをずらして周囲を確認。このアロハシャツ、おしゃれなカフェの店内では少し浮
Last Updated: 2025-06-18
Chapter: 番外編③〈第1話〉
【藍side】 5月のとある休日。昼食を終えた俺は、萌果とリビングのソファに肩を並べて座り、テレビで流れるバラエティ番組をぼんやりと眺めていた。 萌果の隣にいるだけで、穏やかな時間が流れる。 ~♪ 突然、軽快な着信音が響き、萌果のスマホが光った。 「あっ。夏樹(なつき)からだ」 画面を覗き込む萌果の顔が、みるみるうちに輝きだす。 その屈託のない笑顔に、俺の心は一瞬で鷲掴みにされる。 本当に可愛い……って。いや、待てよ? 今、萌果ちゃん、『夏樹』って言ったよな? その名前は、もしかして……? 「ねえ。藍、聞いて!今度、福岡に住んでいたときの友達が、東京に遊びに来るんだって!」 萌果の声が弾む。その声が、俺の胸に小さくさざ波を立てた。 福岡――それは、俺と萌果が離れて過ごした5年間を意味する。俺の知らない、彼女の過去の話に、胸の奥がじんわりとざわつく。 「へえ、どんな子?」 心の内を隠すよう、俺は声を低くした。 「夏樹?すごく元気な子で、いつも一緒にバカなことやってたなあ。懐かしい」 萌果が、昔を懐かしむよう宙を仰ぐ。 「ほら、藍。見て。この子が夏樹だよ」 萌果が、無邪気な笑顔でスマホを俺に差し出してくる。 その画面を覗き込んだ瞬間、俺の視界は一気に凍りついた。 写っていたのは、中学の制服姿で屈託なく笑う萌果と……短髪で、驚くほど整った顔立ちの「男」。 俺の心臓が、ドクン、と不穏な音を立てて大きく脈打つ。 おいおい、夏樹って、どう見ても男じゃないか!? カーキ色のシャツをラフに着こなし、萌果の肩に当たり前のように腕を回している。その男は、眩しいほどの笑顔で、萌果にぴったりと寄り添っていた。 くそっ、なんだこの近すぎる距離は! 「……へえ、この子が」 努めて冷静を装ったはずなのに、萌果に尋ねる声が、わずかに震えた。 やばい。落ち着け、俺。 「それでね、来週の土曜日に夏樹と会おうってことになって」 萌果の無邪気な笑顔が、逆に俺の心をざわつかせる。 来週の土曜、萌果があの男とふたりで会うのか? いやいや、ダメだろ。俺という彼氏がいながら、他の男と堂々と会うなんて……! 萌果は友達って言うけど、あの写真の距離感は絶対に怪しいだろ。 もしかしたら、夏樹が萌果の元カレとか初恋の相手って可能性も……。 「萌果ちゃ
Last Updated: 2025-06-16
Chapter: 番外編②〈第3話〉
「藍がやりたいのなら、俳優のお仕事も絶対にやったほうがいいよ!」 「萌果……。でも……」 藍の表情が、わずかに曇る。 「萌果は、嫌じゃない?」 「何が?」 「俺が、テレビで女の子と共演するのがさ。俺は、萌果が嫌って思うのが嫌なんだよ」 私が……? 「事務所で俳優をやってる先輩が恋愛ドラマに出たら、付き合ってる彼女に『他の女の子と、抱き合ったりキスしないで!』って、言われたらしくて。結局、それが原因で別れたって聞いたから」 「大丈夫だよ」 私は、藍の頬をそっと両手で挟む。 「そりゃあ私だって、自分の彼氏が他の女の子とキスしてたら嫌だって思うよ?でも、それは仕事だって思えば、全然大丈夫」 「萌果……」 「もし藍が私のことを気にして引き受けないって言うのなら、そんな遠慮いらないから。私のせいで、藍のチャンスを奪いたくないし。藍には、やりたいことをどんどんやって欲しい」 「……ありがとう!」 藍が、私のことを正面から力いっぱい抱きしめてくる。 「前にも言ったけど。私は、久住藍のファンだから。モデルだけでなく、俳優としての藍も見てみたいし。頑張る藍を見られる機会が増えるのは、素直に嬉しいよ」 私は、藍の背中に腕をまわす。 「私は藍のこと、一番に応援してるから」 「ありがとう。萌果ちゃんのおかげで、決心がついたよ。俺……頑張ってみる」 藍の目が細められ、端正な顔が近づいてくる。 そして、私の鼻先にチュッと唇を押しつけた。 「萌果ちゃん、大好きだよ」 「私も、大好き……んっ」 唇に、ついばむようなキスが繰り返し降ってくる。 藍の唇、柔らかくてキスすると気持ち良い。 「口、開けて」 「ふ……ぁ」 言われるがまま隙間を開くと、すぐに舌が入り込んでくる。 「は……、っん」 口内を深くまでむさぼられ、呼吸が上手くできなくなっていく。 「はぁ、やばい。キス止まんない……。俺、今夜は萌果を寝かせられないかも」 「っ、ええ!?」 ね、寝かせられないって……! 「んっ」 再び唇が重ねられ、またすぐに深く絡められる。 「ここで同居してる間は、イチャイチャし過ぎないって萌果と決めてたけど。今夜はふたりだけだから……いいよね?」 私の首筋にキスを落としながら、藍が妖艶に微笑む。 「うん。いいよ……今日は特別」 私も、藍ともっ
Last Updated: 2025-05-06
Chapter: 番外編②〈第2話〉
『ここ』と言って、藍がぽんぽんと叩いたのは、自分の足の間。︎︎︎︎︎︎ 「そっ、そんな!恥ずかしいよ!」 「なんで?今日は母さんもいないから、家には俺と萌果の二人だけだよ?」 「そうだけど……」 「久しぶりの、ふたりきりだから。俺、萌果とくっつきたいなぁ」 くっつきたいって、そんなにハッキリと言われたら……断れない。 ふたりきりの空間で、藍と見つめ合うこと数秒。 「おっ、お邪魔します」 私が何とか勇気を出して自分から藍の足の間に座ると、後ろからぎゅっと抱きしめられた。 「お邪魔って、全然邪魔なんかじゃないよ」 耳元で囁かれて、どきっと心臓が跳ねる。 ピタリと密着する体。背後から、藍の熱が伝わってきて……やばい。 藍との距離がいつも以上に近く感じて、ドキドキする。 あまりの近さに、私は耐えられず……。 「あっ。あの俳優さん!私、最近好きなんだよねぇ」 「は?」 私が咄嗟に指さしたのは、今たまたまテレビに映った、最近女子高生の間で人気の若手俳優。 塩顔イケメンの彼はテレビのバラエティー番組で、爽やかな笑顔を振りまいている。 「……萌果ちゃん、あの俳優が好きなの?」 「う、うん。柚子ちゃんもかっこいいって言ってたし。最近活躍してる人のなかでは、私も好きだよ」 「へー」 藍が、鋭い目つきでテレビを睨みつける。 「俺とこの俳優、どっちがかっこいい?」 「えっ」 「ねぇ、どっち?」 「……ひゃっ」 藍に後ろから抱きつかれながら、耳たぶに吸いつくようなキスをされて、思わずビクッと体が跳ねた。︎︎︎︎︎︎ 「萌果ちゃん、早く答えてよ」 「……あっ」 耳たぶを藍の舌が繰り返し這い、くすぐったさに震える。 「ら……待って」 体をよじりながら抵抗するも、後ろから抱きしめられているため身動きがとれない。 「萌果がちゃんと答えるまで、やめないから」 熱を帯びた唇が首筋をゆっくりと下っていき、パジャマの下に彼の手が滑り込む。 「ねえ、どっちが好きなの?」 「……っ、ら……んっ」 「なに?聞こえないよ」 藍ってば、ほんとイジワル! 「藍……だよ。私は、藍が一番好き」 「はい。よくできました」 ようやく藍の唇が離れ、ニコッと満足げに微笑まれる。 「これからは、他の男に好きって言うの禁止。萌果が好きって言っていいのは
Last Updated: 2025-05-03
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