九条時也は到着するなり携帯の電源を入れた。数件の着信があった。
全て警備員からのものだった。
九条時也は折り返し電話をかけた。「何があった?」
警備員は口ごもりながら事情を説明した。
車内は狭く、九条時也の顔色はさらに険しくなった。しばらく考えてから、彼は落ち着いた様子で「苑をちゃんと見張ってろ」と言った。
簡潔な言葉に、水谷苑の重要性が表れていた。
警備員は電話口ではいと頷いた。
九条時也は電話を切り、思わず眉間をさすった。一日中、根町との間を往復し、激しいセックスもしたため、流石に疲れ切っていたのだ。
運転手が振り返り、そっと尋ねた。「九条様、ご自宅へ戻られますか?それとも、田中さんのところへ?」
九条時也は即答した。「自宅へ」
......
九条グループ本社ビル、最上階の社長室。
九条時也はソファに深く腰掛け、目を閉じていた。2時間に及ぶ重要な会議を終え、心身ともに疲れていた。
田中詩織が彼の背後に立ち、こめかみをほぐしてあげていた。
彼女は優しく尋ねた。「九条社長、力加減はいかが?」
九条時也は彼女の手を取り、自分の隣に座らせた。しばらくセックスをしていないし、仕事のストレスも大きいため、発散したかった。
しかし、彼女の赤い唇にキスをしたものの、気持ちが乗らなかった。
彼は彼女から手を離し、タバコに火を点け、煙越しに彼女を観察した。
美しい。
白いシャネルのスーツを身につけ、知的で美しい。おまけに、男の気持ちをよく理解し、優しく尽くしてくれる。
それでも、彼は気持ち乗らなかった。
むしろ、あの夜、根町で水谷苑をベッドに押し倒した時のことを思い出していた。シルクのネグリジェが太ももまでめくれ上がり、白い脚が覗いた時、彼は服もろくに脱がずに、我を忘れて彼女を抱いた。
水谷苑があんなに激しく泣かなかったら、彼女があんなに世間知らずじゃなかったら、もっと気持ちよかったはずだ。
そのことを思い出すと、田中詩織に対して抱いていたわずかな欲求も消え失せた。彼は彼女の腰を軽く叩き、自分の膝から降りるように促した。
田中詩織は納得がいかなかった。
いい雰囲気だったのに、九条時也は全くその気にならない。
そんなのはありえないはずだ。
彼の妻が彼を満足させられるとは、とても思えない。彼女は精神的に不安定だと聞いているし、離婚の