「ここ最近、ずっとしてないじゃないか」
悠良は辛そうに呟いた。
「もう寝ようよ、本当に眠いの」
彼女は自分の体調の悪さを史弥には告げなかった。
いくつかの期待は、もう託すべきものではなかった。
史弥の目に宿っていた欲望は、悠良の一言でまるで冷水を浴びせられたように消え、声もいつもの冷淡な調子に戻った。
[......わかった。タバコ吸ってくる]
彼は布団をめくって立ち上がり、バルコニーへと向かった。
悠良は彼を気にする気力もなく、体を少し横に向けて、再びうとうとと眠りに落ちた。
翌朝。
悠良が目を覚ましたのは10時過ぎだった。
史弥はすでに服を着て起きており、背後の物音に気づいたのか、彼女を振り返って一瞥した。
シャツの最後のボタンを留めながら、彼は手振りで何かを示した。
悠良はすぐに分かった。
彼は、自分にお粥を作ってほしいのだ。
ここ数日、付き合いで胃の調子が悪いと言いたいらしい。
彼女の脳裏に、昨夜無理やり飲まされたコーヒーでずっと胃が痛かったことがよぎる。
彼はそのことにまったく気づいていなかった。
それを思い出すと、自然と唇に皮肉な笑みが浮かんだ。
「もう遅いよ。今日、お母さんのお墓参りに行くんだから、道中で適当に粥でも買ったら?」
その言葉に、史弥はごくわずかに眉をしかめ、不快を隠しきれないようだった。
[でも外のは増粘剤が入ってて、味も君の手作りには敵わないよ。まだ少し時間あるし、午後は休みを取ってる。今作れば間に合うだろ?]
悠良は馬鹿ではない。
自分の体調には無頓着な男が、今さら手作りの粥を求めてくるとは......
史弥、あんたにはもうその権利はない。
彼女は嫌な顔一つせず、時間を一瞥してこう言った。
「でも、今朝は会社に行かないと。もう私、ディレクターじゃないけど、その分仕事は増えてるの。石川さんが今は上司なんだから、彼女がミスすれば、私たちも責任を問われるのよ......それに、史弥が言ったでしょ?彼女はまだ社のやり方に慣れてないから、私がしっかり支えないとって」
悠良の言葉は隙がなかった。
そう、これは史弥自身の言葉。
彼が悠良に、玉巳を支えるようにと指示したのだから。
ならば、上司の命令には従わなきゃ。
その理屈に、史弥も返す言葉が見つからず、苛立たしげに髪をかきあげた。
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