悠良はすぐに家へ戻り、自分のスカートを全部捨ててしまおうと決意した。
玉巳が自分のスカートを着て史弥と部屋でいちゃついている光景を想像するだけで、胃がひっくり返りそうなほどの嫌悪感に襲われた。
電話はなぜか、何の前触れもなく切れてしまった。
彼女は鼻で笑い、冷ややかな光をその目に浮かべた。
おそらく、彼にかけた電話を玉巳か史弥がうっかり取ってしまったのだろう。
あとで通話履歴を見たら、自分の耳がまだ治っていないことに安堵するだろう。
そうでなければ、自分たちの不倫関係がバレていたところだ。
彼女の予想どおり、2分も経たないうちに史弥からメッセージが届いた。
【悠良、さっき電話くれた?】
その文面を見て、悠良はまたもや鼻で笑った。
この男、本気で俳優をやったほうがいいのではないか。
これほどまでに演技が上手いなんて、もったいない。
彼女は手を少し震わせながら返信した。
【まだ来る気あるの?】
【もちろん行くよ。今日はお義母さんの命日だし、絶対に顔を出すよ。ただ、今ちょっと会社の用事で手が離せなくて......岩田(いわた)の担当者と前の契約について話し合いがあって、あと1時間くらいかかるかも】
悠良の瞳に、冷たい光が差し込んだ。
【史弥の気持ちは私が代わりに伝えておくから。そんなに忙しいなら、まずは仕事を優先して】
【じゃあ......俺の代わりにお義母さんに謝っておいて。来年こそは、ちゃんと時間を作って、お義母さんとゆっくり話すよ】
悠良はそれ以上返信しなかった。
心の中で何度も自分に言い聞かせた。
もう少し、あと少しだけ我慢すれば、史弥とこんな茶番を続けなくて済む。
スマホをしまい、帰ろうとしたとき。
ふと顔を上げた瞬間、深く黒い瞳と目が合った。
最初は幻覚かと思った。
でも、よく見ると、それは本当に伶だった。
男は長身で姿勢も美しく、黒の仕立ての良いスーツを身に纏い、いつも以上に冷たく近寄りがたい雰囲気を纏っていた。
手には白い菊の花束。
悠良は一瞬、彼が誰の墓参りに来たのか理解できなかった。
しかしすぐに思い出した。
毎年、母の命日には、必ずといっていいほど墓前に誰かが供えた菊の花があった。
だが、母は生前、親しい人も少なく、家族以外に訪れる者などいなかったはずだ。
まさか......?
その疑問