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Home / 恋愛 / 離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか! / 第34話

第34話

Author: ちょうもも
伶の言葉に、悠良は一言も返せなかった。

確かに彼に対する記憶はそれほど鮮明ではなかった。

というのも、彼が母親と接する機会のほうが多かったからだ。

その当時、母親は彼女にただ勉強に集中してほしいと願っていて、他のことに気を配る余裕はなかった。

たとえ伶が名前を記していたとしても、彼女にはすぐに思い出せなかっただろう。

悠良は気まずそうに言った。

「申し訳ありませんでした、寒河江さん」

確かにこれは自分の落ち度だった。

この頼もしい存在を、自ら逃してしまったのだ。

伶はスーツの裾を整え、石段に腰を下ろした。

今日の陽射しはやけに穏やかで、彼女の心の中にこびりついていた陰を少し和らげてくれた。

伶は目を細め、ポケットから煙草の箱を取り出したが、ここでは吸えないことを思い出したのか、それをまた仕舞い込んだ。

「白川は?」

悠良の口元に嘲るような笑みが浮かんだ。

「今ごろ、家で初恋の人とお粥でも飲んでるんじゃない?」

伶はふと手首の時計に触れ、考え込むように呟いた。

「聞いた話だけど、史弥が君のディレクターの職を解いて、代わりに玉巳を据えたらしいな?」

悠良は深く息を吸った。

「ええ、でももうどうでもいいです。オアシスプロジェクトにはもう関われないし、ディレクターであるかどうかも関係ない」

彼女は肘をついて顎を支えながら、青空を見上げた。

母の最期に言った言葉を思い出す。

母は自分の元を離れたわけではない。

別の形で傍にいてくれている。

もしかすると、今も空の上から見守ってくれているのかもしれない。

「オアシスプロジェクトは、もともと母が中心になって進めていました。名前も彼女がつけたんです。でも、ようやく形になりかけた頃に、母は亡くなって......最期に、私は彼女に約束したのです。この計画は必ず私の手で完成させるって。母に、見せてもらいたかったのに......」

だが、玉巳の登場が、そのすべてを狂わせた。

伶は少し体を後ろに傾け、両肘を階段に乗せて、気だるげな態度を見せた。

「なら俺にアプローチしたところで意味はない。そもそも問題は俺じゃないだろ」

悠良は小さく鼻で笑った。

その笑みは本来、明るくて自信に満ちたもののはずだったが、今はどこか寂しげだった。

「史弥を説得するなんて、結果は最初から決まってます。寒河江
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