伶はソファに腰掛け、コーヒーを飲みながら悠良の企画案の問題点を指摘していた。
骨ばった男の指先が資料の中のデータを示しながら言う。
「この数値のまま上に提出したら、コストが高すぎるって思われる。中の経営権を取るつもりなら、白川社より安い価格を提示しなきゃダメだ。商売人にとって重要なのは利益だけだ」
悠良は思わず眉をひそめた。
「でもこの数値、何度も計算して出したものですよ。これ以上下げるなんて不可能」
「もし俺がこの数値をもっと下げられたら、どうお礼するつもり?」
伶は指先でペンをくるくると回す。
悠良は、彼が回すそれさえも美しく見えるのが不思議だった。
「......ご飯、ご馳走する」
食事以外に、彼に渡せるものなんてない。
だけど、この男は本当に抜け目がない。
そもそも彼女はこの企画書を無償で渡している。
ただただ「オアシス」の設計に関わりたい、それだけが彼女の望みだった。
配当すら求めていない。
つまり、伶はほぼタダ同然で利益を手にすることになるのだ。
彼は背もたれに体を預け、両手を後ろに組み、長い脚をテーブルの上に無造作に投げ出した。
「俺、『酔仙』がいいな」
酔仙!?
悠良は驚いた。
あそこで食事をしたら、1回で軽く6桁はいく。
よくそんな図々しいことが言えるなと心の中でツッコむ。
もし伶にそれなりの名声がなければ、彼女は本気で「この男、実は貧乏なんじゃないか」と疑っていたところだ。
でなきゃ、こんなに彼女を搾り取ろうとはしないだろう。
伶は悠良の顔に浮かんだ迷いを見て、片眉を上げた。
「何?金が惜しいのか?」
悠良は、彼がオアシスの経営権を取れば、史弥との衝突も避けられないことを思い、これはその労をねぎらうつもりで、と自分に言い聞かせる。
「いいでしょう。一週間以内なら」
伶は目元を薄く持ち上げ、どこか茶化すような口調で言った。
「そんなに俺に飯おごりたいのか?」
悠良はその挑発に乗らず、淡々と返す。
「その時ちょっと予定が詰まってて、時間取れるかわからないので」
「OK、じゃあそのうち連絡するよ」
悠良は時計を見て、もう遅いと感じ、急かすように言った。
「で、どうやってコスト下げるのか教えてください」
データが高ければ、それだけ後々の単価が上がる。
誰だって利益は多く欲しい。
伶は