伶は目を細めて言った。
「あいつが俺を追ってると思ってるのか?」
悠良はきょとんとしながら答えた。
「そうに見えました」
言ったそばから、彼女は何かに気づいた。
「いや、追ってるのは『私たち』......か」
悠良自身も、どうして自分が伶と一緒にいるだけで広斗があそこまで狂ったようになるのか、理解できなかった。
西垣は一体何がしたい?
伶は節のはっきりした指でタバコの灰を落としながら、淡々と口を開く。
「正確に言えば、西垣は君に気がある。俺に対しては、まるで仇でも討つかのように殺意むき出し。三人の関係は......微妙すぎて笑えるな」
「で、ちょっと興奮しすぎたってわけだ」
悠良は心配そうに眉をひそめた。
「でも......寒河江さんも知ってるはずでしょう?西垣家の爺さん、西垣のことすっごい大事にしてるんですよ。雲城じゃ、誰も彼に手出しなんてできないくらい......さっきのぶつかり方、結構ヤバかったけど、大丈夫?報復されるんじゃ......」
伶は、まるで他人事のようにさらりと言う。
「自業自得だろ。俺はゴミを掃除しただけ。むしろ西垣家の爺さんには感謝されるべきだ。あんな出来損ないがもっと大きな問題起こす前に止めてやったんだから。あいつ一人のせいで西垣家全体が沈む羽目になりかねない」
まるで先ほどのカーチェイスなど、ただの小手調べのゲームだったかのような顔をしている伶。
悠良はふと数日前のニュースを思い出した。
広斗が密室に閉じ込められ、薬を盛られて命の危機に陥った事件。
今日、史弥の話が蘇る。
「西垣には手を出せない」と。
でも、そんな中、彼だけは......
この男だけは、誰も恐れず、我が道を行く。
「とにかく、気をつけたほうがいいよ」
その言葉に、伶は鼻で笑い、タバコを地面に落として、手作りの革靴で軽く踏み消した。
「こんな状況なんだ。他人の心配なんてしてる余裕、君にはないだろ。まずは自分の身を守れ」
悠良は不安そうに顔を上げた。
「どういう意味です?まさか私に車の弁償させる気じゃ......?」
あの車は、世界に二台しかない超高級車。
もし壊したとなれば、彼女を丸ごと売ったって払いきれない。
伶は少し身を屈め、彼女の顔に近づき、わざと意味深に言った。
「それよりもっと重い代償だよ」
その真剣な表