史弥は、これ以上この場で無駄に時間を費やすつもりはないようだった。
玉巳はもう一度悠良に目をやると、軽くうなずき、助手席のドアを開けて乗り込んだ。
悠良はその場に立ち尽くし、張りつめていた神経が一気にほどけていくのを感じた。
しばらくしてから、ゆっくりと我に返り、後部座席のドアを開けて腰を下ろす。
なぜか無性に胸がつかえたように息が詰まり、気分が重苦しくなった。
ちょうどそのとき、玉巳が史弥に話しかけた。
「史弥、私を空港まで送ってくれる?お母さんが雲城に来ることになって、本当はタクシーで行こうと思ってたんだけど、まさか今日一緒に買い物に付き合ってもらえるとは思わなくて」
「いいよ、通り道だからな」
悠良は指先が白くなるほどぎゅっとこぶしを握りしめ、唇も青ざめていた。
史弥は、こちらに目を向けることもなく、ましてや後の予定があるかどうかを聞こうともしない。
まるで車に乗せられているだけの、透明人間にでもなった気分だった。
玉巳はそのとき振り向き、悠良に向かって手振りを交えて言った。
「悠良さん、ごめんなさいね。お母さんが雲城に来るから、今からタクシーじゃ間に合わなくて......もし不都合だったら、先にタクシーで帰ってくれてもいいよ?」
悠良はもちろん、二人と狭い車内に一緒にいる気はなかった。
「前の交差点で降ろしてくれる?ちょっと具合がよくないから、このままタクシーで病院に行くわ。荷物はそのまま車に置いていっていい?」
史弥はそれを聞き、バックミラー越しに後部座席に座る悠良を見やる。
「具合が悪いのか?それなら、俺が彼女の母親を迎えに行った後に病院に送ろうか?その間どこかのカフェで待っていてくれないか?」
悠良は、もう待つ気力さえ残っていなかった。
今この場にいてさえ、息苦しさに胸が締めつけられ、心臓の鼓動が乱れていくのをはっきりと感じる。
もしこのまま放っておいたら、病院にたどり着く前に倒れてしまいそうだった。
彼女は胸元を押さえ、かすかに震えた声で答えた。
「いい。先にタクシーで行くから......後から来てくれたらいいわ」
「わかった」
悠良はその言葉に胸が鈍く痛むのを感じた。
以前の史弥だったら、どんなに忙しくても、どんなに小さな体調の変化にさえ気づき、すぐに病院に連れて行ってくれたものだった。
それが今で